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「で、当の本人は昼寝か」

「す、すみません」

 書類を片しながらこの国の王この国の王カイは謝るイリアを見た。

「いいさ、いつものことだ。今日は双子も一緒なのだろう?」

「あっはい。王城に来た途端、研究室に走って行きました。本当は陛下にお目通りさせてからとおもったのですけれど」

「あの人はともかく双子なら全然。この国の魔法技術の発展に貢献してもらっているしな。正直、この国としては雇いたいぐらいだ」

「無理、でしょうね」

「だな。今の状態でももったいないくらい貢献してもらっているし、こうやって顔を見せてくれるだけで博士たちは一週間ぐらい不眠で没頭するしな」

「後半おかしいです、陛下」

 イリアの突っ込みにカイはふっと笑った。

「のびのびとしているようで良かった」

 その優しい笑みにイリアは耳まで真っ赤にした。

「あの、それは陛下のおかげで……」

 イリアは喋るだけでさらに赤くなっていた。

「そろそろ時間だな。行ってやらないとまた、双子が壁を壊すかもしれないな。あの人にはさっきのことを伝えておいてくれ」

「……はい」

 イリアのその様子にカイは口角を上げた。

「なんなら、泊まっていくか。今晩」

「え!そ、そ、そんなこと……!あ、あの、それでは双子を迎えに行かせていただきたいと。し、失礼します!」

 バッと勢いよく腰をおって、急いでこの場から去りたいけれども王の御前で走ることも出来ず、出来うる限りの早足で扉へと向かった。丁度その時、ノックして入ってくる人物がいた。書類を見ながら入ってくるそのものの脇を風を切って歩いた。通り過ぎたのがイリアだと気が付いたその者は、イリアのほうを振り返り一喝した。

「こら!イリア!何やっている!」

「ごめん!兄様!」

 廊下に出た途端、駆けていくイリアの後ろ姿に兄ハンスは呆れた。やれやれと首を振り部屋へと入った。

「カイ、軍部から書類が来た。さぼり魔がようやく仕事をしてくれたよ。ったく、ここの周りはこうも問題児ばかりなんだ」

 見ていた書類と脇に抱えていた書類を出しつつ、ハンスは最後は小さい声で言った。それでも聞こえたカイは苦笑してその書類を受け取った。

「そう言ってやるな。……しかし、珍しく会議に出たか。ようやく隊長の胃痛も緩和されるな」

 カイは先ほどまでハンスが見ていた書類のほうを手に取った。

「自筆だな」

 その一言の次は何も言わず、無言で読み進めた。読み終わると息を吐いた。

「相も変わらず字が汚い」

「……あいつが出るときは大概碌なことが起きないが、……今回もだったな」

 くしゃりとカイはその紙を丸め、ハンスに投げて寄こした。

「燃やせ。――今は様子見だけでいいだろう。どこも動く必要はない。先に魔王とのつながりがある者をあぶりだしていく。生身の人間の相手は、それからだな」

「前も後ろも切羽詰ったな」

「あぁ。息がつまりそうだ」

 カイはため息をついて、背もたれに体重を預けた。

「だが、好機でもある。――――あーあ。イリアとデートしたい」

「我が妹ながらじゃじゃ馬で。でも美人でしょ」

「自慢はいらないです」



 ==========

 恥ずかしさで赤い顔だったイリアは、向かう途中で聞こえた轟音と僅かに見えた煙に違う赤い顔になっていた。

「あんの、二人はもう!」

 駆け急いで、開いたままのその部屋へとたどり着いた。

「壁ですか!?」

 イリアは第一声にこう言った。

 書類と本と薬品のにおいと博士たちの屍が広がる休憩室。研究室は多くあり、双子も幅広い知識を持っているためいつもどこへいるか分からない。だが、屍だらけのこの部屋ではあるが多くの人が集まるここでならどこへいるかは分かる。そんな中の寝癖もそのままの一人の男性がイリアの声に気が付いた。寝起き声だった。

「あーイリアちゃん。今回は壁じゃないよ、確か」

「まさか、天井、床……。まさか、部屋一つ!?」

「いやーさすがに」

「前例があるから言ってるじゃないですか」

「今回は外の実験場でやっていたような」

 その時、爆発音が聞こえた。寝ている者は誰も起きない。

「この音は、すごいねぇ。左へ行けば外の実験場に出ることが出来る。外出るときは気を付けて」

「はい。ありがとうございました」

 駆けていくイリアを見送って、その男性は欠伸をした。

「嫌な音だ」

 そう呟いてまた、眠りに入った。


 余韻が消えるころ、イリアはその実験場にたどり着いた。そこでは地面が数個えぐれていて今、数名の研究員たちで土を持ってきて埋めているところだった。残りの人は双子と一緒に何かを話していた。

「双子ー!」

 イリアが寄って行きながら呼びかけると、同時にこちらを向いた。

「「イリア姉」」

 研究員たちは双子と二、三話をするとイリアに会釈をしてこの場を離れて行った。

「良かったの?」

「「うん。大丈夫」」

「そう。しかし、すごいですね。あの穴。新しい魔法か何か?」

 イリアは何気に言ったつもりだったが、双子はあまり良くない顔をした。

「うん……。魔法、ではないんだよね」

「ちょっと、これはね」

 はっきりと物言う双子に珍しく、もごもごと煮え切らない返事をした。

「とにかく早く帰ろう。イリア姉」

「うん帰ろう」

「……そう?じゃあ、帰ろうか」

 双子は同時に頷いた。


 

 ==========

「ただ今帰りました」

「あーおかえりー」

 ソファーに寝転んで本を読んでいたデュークが体を起こした。

「なんか伝言貰ったか」

「貰いましたとも」

「なんだあるのか」

 嫌そうな顔をしたデュークだったが、イリアの陰に隠れるようにして立っている双子を見て目を細めた。イリアはそれに気が付いてデュークに言った。

「帰ってくる途中ずっとこの調子なんです」

 じっと双子を見ていたデュークはイリアに視線を移した。

「……それで若造はなんて言った」

「観察に関しては順調だそうです。対魔王については視野に入れておくとのこと。あと、金戻せだそうです」

「裏金ぐらいいいじゃん」

「よくないです!」

 わざとらしいため息をついてイリアを困らせた後、デュークは双子を見た。

「で、何があった。フィンリー」

 デュークが言うと、おずおずと双子が前に出てきた。

「実は、ある爆弾が手に入ったって聞いて」

「それを実験してみたんだ」

「……それで」

「…………黒色火薬の例もあるから。でも、障壁は作っておいたんだ」

「で、いざそれを爆発させてみると」

「…………比べ物にならなかった」

「甘く見ていたんだ。――あれはやばいよ」

 ぐっと唇をかみしめて俯く双子の話を聞いたデュークはおもむろに立ちあがった。そして、双子の所まで来ると目線を合わせるようにしゃがんだ。

「そのあとは」

「……うん。あんなの簡単に出回っていいものではないから、すぐに国王に上申するように頼んだ」

「持ってきた人の言うにはその……南のほうから持ってきたって」

「そうか。良い判断だ」

 ぽんぽんとデュークは双子の頭を優しく叩いた。ただそれだけで双子の強張っていた肩はほぐれた。

「じゃ、じゃあデューク。僕たち書庫にこもるから」

「うん。まだ片づけの魔法。きちんと完成していないからね」

 そう言って双子は地下の書庫へ降りて行った。

 一部始終を見ていたイリアは感心した。

「さすが、ですね。私だとどうしたらいいのか分からなかったです」

「まあ、年季が違うし」

 デュークは立ち上がりそのままよっこらしょっとソファーに寝転んだ。

「そりゃそうでしょう。――前から思っていたんですけれど、なんで若いころの姿を取っているんですか」

「筋肉年齢的に。黄金期が十後半から二十前半だったから」

 肘掛けに置いた本を取りまた読み始めた。

「さいですか。買ってきたもの、いつものところでいいですか」

「あぁ」

 イリアは持っていた紙袋から取り出して並べていった。

 そうしてしばらくは物の置く音とページの捲る音だけだった。途中、口を開いたのはイリアだった。

「――さっきの。黒色火薬って何ですか」

 デュークは本から目を離さずに答えた。

「魔法では無い、実際に最初から存在するものから作られた爆弾。魔法師がいなくても持つことのできる兵器という事で一時的には大量生産されたけど、魔法のほうが早くて威力が強いという事で結局衰退した。やろうと思えば、今すぐにでも作れる」

「え!そんなに身近にできるものなんですか!?」

「まあな。それにここには双子のために材料が倉庫にたくさんあるからな」

「……そうなんですか」

「あぁ。だから双子が驚くような爆弾が出来たとしたら――――世界が変わる」

 重さが増したその言葉をイリアはまだきちんと理解できていなかった。

 困惑して動きの止まったイリアにデュークの次の言葉が重ねられた。

「数日内にあの若造に呼ばれるな」

「双子の件、でですか」

「たぶんな。その時のために旅支度をしておけ」

「はい。……ってはい!?なんでですか?」

「なんででも。あ、重装備で」

 デュークの言葉にさらに困惑するイリアだった。

読んで下さった方々に最大限の感謝を。

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