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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢埠頭

作者: 平田俊彦

ー1ー

携帯のアラームが鳴り出した。レディー・ガガfame。毛布をめくりゆっくりと体を起こす、Tシャツ一枚でちょうどいい季節、栗色のショートな髪を撫で付けベッドから滑り降りる。初夏の朝日が差し込むワンルームマンション、

今日も良い天気だ。

洗面が終わると紺色の作業服に着替えバージニアスリムライトをくわえた。昆布茶を飲みながら今日の予定を確認する、ほとんど化粧をしない切れ長の大きな瞳を、ゴーグルで隠しピンクの単車に跨がる。

いつもの最短、近道コースを倉庫までカッ飛んでいく。鶴見市場から大黒埠頭まではほんの30分。

私は武井亜美21才のトラックドライバー。半開きのシャッターをくぐり抜け倉庫奧の空き地まで走り抜けると、シルバーのグロリアがとまっている。

8時ジャストまだ社長の寺田しか来ていない。

亜美がシャッターを全開にした時、一年先輩の田原功介がエルフ2tで自宅から出勤して来た。自称東京シティーボーイ、刈り上げ頭の田原、

笑顔はまっ黒で歯だけが白い。山田のじいさんがトボトボ歩いて来て全員がそろう。

朝礼と言っても、4人で打ち合わせをするだけで、作業開始になる。

亜美は川崎横浜方面、田原は藤沢厚木方面、山田のじいさんはいつもの倉庫番だ。遠距離に行く、田原の担当車エルフの平ボディーに3人で荷物を積み、

先に出庫させた。

休む暇もなく、亜美も担当車アトラスに積み込みを始める。細身のわりにスタイルの良い亜美の尻に胸に山田のじいさんの視線は目まぐるしい。

亜美はいつもの事と気にもせず、荷物が積み終わると伝票を確認して。

「じっちゃんありがとうな、社長行ってきますわ」微笑みながら汗を拭いた、タオルを首に巻いて、イグニッションキーをひねる。

サイドブレーキを落とすとアトラスは気持ち良く転がり出した。

鶴見に来て3年たつが関西弁は直らない、直す気もない。

大手企業の工場にグラインダーの交換部品を納品して回る仕事だ。通い慣れた工場は配達もスムーズだ。4箇所の配達が済んで昼前、アトラスが立ち食いそば屋の手前に停った。「おっちゃん、天ぷらうどんネギ抜きでな」

亜美がほぼ毎日寄る店だ。はげ頭のオヤジは、「うちは立ち食いそば屋だし、白ネギの旨さわからないか」とブツブツ言いながらも湯気の上がるドンブリを差し出した。

食後にアトラスのキャビンでタバコに火を付けたところで、ポケットの携帯が鳴り出した。珍しく田原からだ。「お疲れ様、どないしたん」

今、厚木から藤沢に移動中で、明日から休みだから今日の帰り、ダチから貰ったカーナビを、亜美担当車のアトラスに取り付けてくれるという。

「やった、ええの、待ってるし」

田原とは3年一緒に働いていても、異性としての意識がなく、あっちも女とは思っていない。「そんじゃ後で、関西弁直せよ」と言って電話が切れた。

配達しながらCD聞ける、えーなーと思いながら、別の何かが心をよぎった。

ー2ー

「若いのだけに行かしても、大丈夫だろうな、舐められると、後がなあ。」大森駅西口、今田組事務所の中、煙草をくわえた幹部の青木が、渋顔で聞く。

小柄な優男、若頭の須山がネックレスを直してソファーに座り直した。「3度目の取引で相手も物も、信用出来ますから」量もしれてるし、そのままパケ積めさせると言う。

一舜考えたパンチパーマの青木がうなずきながら、「そうだな、組の車使いたくないしな、若いモンにやらせて見るか。武史の初仕事にいいだろう。」

暴走族上がりの新入り中山武史が単車で行く事になり、物の品定めにシャブ中の和正を乗せていく。「武史、オヤジには絶対気ずかれるな、6時に大黒埠頭だ、

ケチつかねえよう気合を入れてけ」須山が金庫から百万の束を5つ渡した、武史が跪いて札束をリュックに積める、指先が震えている。

横にいる和正は、焦点が定まらず上をむいて、首筋を掻いていた。

物の品定めは、アルミホイールに覚せい剤を載せて下から炙る、匂い、色、混ぜ物が無ければ、アルミホイールには何も残らない。和正の役目はそれとパケ積めだ。

武史が和正を連れて、事務所を出ると、青木が聞いた。

「何パケとれる」須山は指輪だらけの手に挟んだメモを見ながら、「2500は、取れますぜ」混ぜもんすれば3000は取れるが、信用が無くなるらしい。

「あいつ等、体で味見をしますから」青木は巨漢の体を揺すりながら笑った、煙草のけむりを吐きながら、「昔は10倍だったのに、今は半分だな、

混ぜもん入れても分らなかっただろう」仕入れ値が上がった言い訳と、シャブの混ぜもんにうるさくなった話をして、「今月の上納金は任せて下さい」

とキムタクヘアーの須山は、話を終わらせた。

今田組は戦後から任侠道ヤクザとして、知れ渡っている、シノギは競馬、競艇、ノミ行為、小賭博、シャブは絶対御法度だ、最近では、地上げ屋の手伝い

、振り込め詐欺も始めたらしい。

ー3-

田原も車庫に戻っていた、いつもどおり5時には倉庫整理、掃除も終了した。「じゃあ後、頼んだぞ、悪さするなよ。」社長の寺田はグロリアでとっとと帰って行った。山田のじいさんも立ち飲み屋に行くとトボトボ歩きだした。倉庫に二人きり残った亜美は、妙に気まずくなった。「まず、武井の単車をアトラスに積んで」

田原は段取りを、考えてくれていたようだ、アトラス一台で大黒埠頭中央公園に行き、カーナビの取り付けをする、後は亜美を送って、

自分もそのまま帰ると言う。「月曜日までアトラス借りるからな」

二人で単車を荷台に乗せる、か細い田原が思ってたより力強い。単車をロープで固定して、アトラスを外に出すとシャッターを閉めた。

「とりあえずコンビニな」仕事が終わったらまずビールだと言う。海見ながらビールか、こういうの久しぶりやなと思いながら車を出した。

「お疲れー」公園の海側にアトラスを止めて、缶ビールで乾杯した後、直ぐに作業に掛かった。

大胆に標準装備のラジオを取り外し、枠の幅を削りカーナビゲーションシステムを差し込んでネジ止めし、手馴れた動作で、両サイドのスピーカーを付け

「中から配線通すから、出てきたらひっぱってくれ」いつの間にか真剣になり、大事なビールの事も忘れて作業している姿が可笑しかった。

「よし、聞いてみるか」田原がポケットからCDをだし聞いてみる、R&Bのスローテンポな曲が名流れてきた。「いい音してるや、なんでソウルなん

」亜美は笑った。それから改めて、ぬるいビールで乾杯した。

「高校の時、よく踊りに行ってな、R&Bが大音響で耳から体から入って来てくるんだ」ロックを聞くと鳥肌が立つらしい。埠頭が闇に包まれて行く。

ドライバーシートに田原、サイドシートに亜美、お互いの事を初めて語っている。ゆっくりと時間が流れて行った。

「ドン、ガリガリー」嫌な音が響いた、アトラスのほぼ正面、海つり公園の方からの直線道路、二人乗りの単車を、左のガードレールに挟み込こんでワンボックスカーが止まった。

ー4-

「行ってみるか」田原がセルを回し大きくハンドルを切った、側道から回り込んで後方から近づく、ワンボックスカーからヘルメットにマスク、

サングラスの3人組みが降りて来て、単車の二人を力任せに蹴飛ばし角材で叩きリュクサックをむしり取った。

「これ強盗なん」亜美が驚いている、アトラスのヘッドライトが近づくと男たちは一舜身構えたが、諦めたように車に乗りこみ発車していった。

単車の後ろに止まり、田原も亜美も車から降りた、

転がっている二人の男に声をかける。「大丈夫か、え、武史じゃないか」前の方に倒れていたのは高校も暴走族も一諸だった中山武史だった。

街灯に照らされた左肘、左膝から出血している。「功ちゃん、やられたよ。」

ヤクザになったのは聞いていたが、久しぶりの出会いだ、後ろに乗っつてた男は路肩に上手く転がって、かすり傷で済みそうだ。

「武史、お前の知り合いか、あの三人組。」「知らない、あいつらにシャブ入のリュック取られた」武史が泣きそうな顔で田原を見つめた。

「組のブツなんだな、わかった。」

亜美を振り返り「武井、救急車とこいつら頼む、俺のダチだ。」亜美がうなずくと、アトラスに乗り込み田原はゆっくりと走り出した。

亜美は二人を見て「事故言うても救急車呼んだら、ポリも来るしな、この人おかしない。」正和は擦り傷だが、シャブ中なので言葉も行動もマトモじゃない。

状況を考えた亜美はタクシー代に千円札二枚渡して、何とか歩ける正和を先に帰らせた後。

武史の単独事故にして、近くにいた通行人として救急車を呼んだ。数分後、サイレンを鳴らし救急車がパトカーを連れて到着した。

しゃがんでいる武史のケガを救急隊員が調べる横で、警官が懐中電灯を照らし事情聴取を行っている。「免許持ってるのかよ、直線道路だぞ、らりってんのか、酒か薬か。」

若い警官にどやされ、武史は脇見でガードレールに突っこんだ、ここんとこバイクの調子悪いと言い訳をしながら、ペコペコ誤っている。

数分後、無線連絡で搬送病院が決まって、武史の下手な態度に、「自爆じゃしょうがねえか」と諦めた警官に開放され、亜美も同乗して病院に向かった。

ー5-

「よー元気そうじゃん」ノー天気に田原が病室に入ってくる、携帯で亜美に場所を聞いて駆け付けてきたのだ。ベットには、腕にギブスをした武史、

横に亜美が座っていた。

四人部屋の病室、他のベットは空きだった。生麦駅近くの総合病院の三階、二人に途中で買ってきた缶ビールを渡し武史のプルトップを引いてやる。

「どおゆう事なんだよ、暴ヤンの事故かと思って、見に行ったら武史じゃねえか、それに強盗だし、びっくりしたぜ。」亜美が吹き出す。

ベッドで缶ビールを一口飲み、武史が話し出した。「組入って、俺の初仕事でさ、海つり公園でシャブの取引して、ちょっとビビッタたけど、上手くいって。」

取引相手に舐められなかったのが、そうとう嬉しかったようだ。細かく取引の状況を話した。「じゃあ、その帰りを襲われたか。お前の赤いリックな、高校の時から使ってる。」武史のケガは左肘脱臼、左膝打撲、右腕に点滴の針が刺さっている。「そうなんだ、いきなりでさ。組にさっき電話してさ、須山の兄貴にボロカス言われて、五百万じゃすまねえぞって言われた。」

田原が苦そうに缶ビールを飲む「。兄貴って、いつも女連れてるキンキラ男か。」

武史が頷く「だけど狙い撃ちじゃなあ、取引相手が仲間にやらしたのか。」

少し考え武史が「それは無いと思う、三回目の取引だし、上で付き合いが有るらしいんだ。」

田原はポケットからメモを出し「そうか、あのワンボックスカーな、つけてってな、ナンバーは品川46つ1569だぜ」アトラスに乗った田原は、気づかれない様に5台ほど挟んで、ワンボックスカーを尾行した。産業道路を北上し、臨港バス車庫の先を右折、突き当りの手前で止まった。

三人が建物の中に入ったの待ち、田原は徒歩で近づいてナンバーと住所をメモって病院に来た。「前川工業って潰れた町工場で二階が住居だな、

ずらかる前に押さえないとな、早く組に電話したほうが、いんじゃないか。」

頷いて武史が直ぐに組に電話をしている。メモを渡した田原は、役目を終えた様に、タバコ取り出し火を付けようとして、亜美に止められた。

「病室はあかんよ。」田原も気づいてタバコをしまった。

窓から夜の町を眺めて「武史は動けないから、後は組にまかせるしかないだろな、俺ができるのもここまでかな。」電話が終わり、残念そうな武史

「今日はオヤジが事務所にいるから、バレない様に動くのは、難しいって。」気落ちした田原は「御法度ってやつか、まあ、ナンバーとヤサがわかってっから、

何とかなっかな。」ビールを飲みながら、三人で話したが、いい方法は浮かばず、途中から田原と武史の昔話に変わっていった。

ー6-

亜美が飲み干した空き缶を集めながら、「そろそろ消灯時間や」田原も頷き腰を上げた「じゃ後は、キンキラ男にまかせて、何かあったら電話くれ。明日、

金持って迎えに来るから」

武史は申し訳なさそうに「功ちゃんすまない。組入ってから連絡もしなかったのに、彼女もありがとう。」

田原は驚いた後、赤くなり「彼女じゃねえって、金利は十一だぞ、じゃーな。」

亜美は笑いながら「きー付けて、お大事に。」二人は病室を出て正面玄関に向けて階段を降っていた。

「武史の奴、勘違いしやがってな。」照れてる田原が可笑しい。だけど、昔のツレに、こんなに親身になって、尾行までしてと思った時、アトラスに乗り込む時の真剣の顔を思い出した。

「思っとったら、ええんちゃう。」玄関の段を降りていた田原がつんのめった。

「あのな、あいつはさー、」病院を出て暗闇の中、右側に有る駐車場を見た途端、田原が亜美の腕をつかみ、ロビーに引き戻した。驚いた亜美に

「あいつらのワンボックスカーが止まってる。」後ろ向きだがナンバープレイトが病院の照明に照らされている。手振りで待つように合図をして

、田原は柱の影から様子を伺った。

「車は間違い無いぞ、中に三人乗ってるし、ヘルメットはかぶって無いけど、こんな時間に何しに来たんだよ。」亜美も小声で「うちらに用事があるんちゃうかな、

ここ救急病院だから夜間受付口あるし。」

二人で病室の方の階段に戻りながら「どおいう、お見舞いだ。俺たちの居場所がなんであいつ等に分かったんだ。俺は病院来る途中で、コンビニで缶ビール買って

、尾行は確認してるのに。」二人でゆっくりと階段を上がっていく「うちらが、ここにおる事、知ってるの、武史君の事務所の人だけやろ。」

「それしかないか。」

三階の病室の扉を静かに開けて、田原と亜美が入ってきた「武史、ヘルメット三人組が、下の駐車場で張ってるんだ」驚いた武史、点滴の針が刺さった右手に携帯電話を握っている。

「なんで、あいつ等がいるんだ。」田原は亜美と話した事を武史に伝えて

「だから組に応援は頼めない。物は手に入れてるんだから。他に何か欲しがる物有るのか。」

首をかしげる武史「何も無いけど、最後の電話が筒抜けだったら、俺達の事。」

「そうだろう、組の誰かがグルになってるんだろう。」ミッキーの腕時計を見ながら、亜美が「襲って来るなら消灯後やね。あと10分や、どうするん。」

ベット横に有った松葉杖を手に取り「これ借りてくか、逃げるぞ退院だ。アトラスは裏側に止めてある、高さ制限で、駐車場に入んなかったのがラッキーかな。」

亜美は素早く点滴の針を抜きバンドエイドを貼った。

驚く武史に「これは栄養剤だから抜いてもええよ、薬は化膿止め、痛み止め、抗生物質は貰っとかんとな。」

田原が、「なんで詳しいんだ、武井の実家、薬屋か」薬をポケットに入れ「家で看護師の勉強してるんよ、通信教育やけどな。」

痛がる武史に靴を履かし、ベットから降ろす。

両側から支えてエレベーターまで歩いた。消灯前のおかげか、人に見られずに1階に降りれた。

ー7-

息を切らした武史が,思い詰めた顔で「須山の兄貴だな。シャブをがめて、みんな俺にかぶして、奴らに始末させる気なんだ。」裏側の非常口の明かりに照らされた武史の顔が歪んだ。

低い柵を超えた横にアトラスは止まっていた、亜美を真ん中に挟んで3人は乗り込んだ。

「連中な、3人で来てるって事は、武史君のリック持ってるかも、しれへんな。」田原は頷きながら、タバコに火を点けイグニッションを回した

、静かにクラッチをつなぎ、無灯火でゆっくり走り出した。

「ヤクザもピンキリか、武史とこの太ったオッサン、昔気質の任侠道って顔してるオッサン居たな。」

「青木の兄貴はNO2だよ、筋の通らない事が大嫌いで、頑固だけど信用できると思う、新入りの俺たちでも相談に来いって言ってくれるよ。」

アトラスが病院の裏側から回り、駐車場の後方に来たとき、

3人組がワンボックスカーから降り歩きだした。「物が有ったら取り返して、こいつらとキンキラ男が、つながってる証拠か、やばいよな3人とも体格いいもんな。」3人組が夜間受付口から病院に入って行ったが、5分も立たぬうちに、携帯を耳にあてた小柄な男を先頭に3人とも車に戻ってきた。

「病室におらんのバレたし」妙に落ち着い亜美の声だ、ワンボックスカーが走り出した。

田原も後を追い発車した。「武史、覚悟は出来てるな、亜美は両ドアロックして降りてくるな。やばくなったら、アトラス走らして逃げてくれ俺のために。」

痛みを忘れたように、武史は親指を立てて「俺、ヤクザだし、二回も殺されかけてるんだぜ、功ちゃんが本気になったら怖いもんないよ。」

亜美は黙って頷き、田原の顔を見ている、黒い顔が勇ましい。

ワンボックスカーは左右一車線ずつの道路を逃げるように走っていく、田原もアトラスを後ろにピッタリ付けている。「いくぞ」田原は言うと同時に、

ワンボックスカーの右に並び追い越しをかけるように抜きかけ、

電柱の手前で不意にに左のボディー後方をワンボックスカーに擦り付けた、ワンボックスカーは行き場所が無くなり、ブレーキを踏むが間に合わない、

外壁とアトラスに挟まれ電柱に衝突した。

「ドアロック、エンジン切るな、窓も締めて。」亜美の返事を待たずに、田原が運転席から飛び出し,武史も左ドアから降りた。ワンボックスカーは正面から電柱に突っ込み、フロントガラスが割れている、左側は外壁に張り付いて、ミラーは吹っ飛び、左ドアは開かない。

田原が運転席のドアを開け小柄な男を引きずり出す、ハンドルで打ったのか、胸を押さえている男の顔に体重を乗っせた右ストレートを叩き込むと、

持っていた携帯を落とし、鼻血を出して横向きに倒れた。

すかさずノーガードになったみぞうちに、つま先がめり込むほどの蹴りを入れる、二発、三発、四発目はこめかみを狙って蹴りを入れた。小柄男は白目をむいて

、動かなくなった。

その時、後ろに気配を感じ、振り向こうとした田原の首の付け根に、角材が振り下ろされる。

武史はスライドドアを開け、自分のリュックサックを見つけ喜んだが、車から転がり出た長身の男に、角材で喉を突かれ、後ろに飛ばされた。体制を整える間もなく、左から角材が降り下ろされる、慌てた武史が左手のギブスでそれを受け止め、右手で押さえた。よしゃあー、言った武史と長身男が角材を引き合う形になった。

角材で叩かれた田原は、前に飛び転がっている小柄男を間にして振り返った。

大きい男だ、フロントガラスに突っ込んだのだろう、頭から流れた血で顔が真っ赤になり、まるでゾンビだ。

顔を狙って振り回した角材を肘で受け両手で掴んだが、ゾンビに引っ張られ顎を蹴飛ばされる。よろけた所に右、左と重たいパンチをくらってひざまずく。

容赦なく蹴りが腹に胸に、顔面を角材で叩かれひっくり返る、やばいぞこれは、弱気になった時、「いい加減にしいや」カキン、

音と同時にゾンビがワンボックスカーにもたれるように、倒れ込んだ、その後ろには、松葉杖を握った亜美が立っていた。

「サンキュー」自分がやった事に驚いてる亜美に手を挙げて、田原は、まだうごめくゾンビの頭を、車のドアに叩きつけるように何度も蹴りつけた。

ゾンビが動けなくなるとすぐさま、武史の方に走って行き、長身男に飛び蹴りをくらわす。角材を奪い取った武史の攻撃が始まる。


所構わず滅多打ちだ。戦力を失っていく長身男を横目に見ながら、田原は後部座席の赤いリュックを取り中を確認して、アトラスの荷台に投げ込んだ。

ワンボックスカーのエンジンキーも、抜いてポケットに突っ込む。「もういいだろう。」伸びている長身男を叩き続ける武史に声をかけ、「こいつを積んでくぞ」

小柄男の胸元をつかみ上げ、みぞうちを蹴り付ける。

落ちていた携帯電話を拾い、荷台まで引きずっていく。武史と二人で荷台に積み、梱包用のガムテープで手、足、目、口をグルグル巻にした後、小声で亜美に囁く

「ありがとう、倉庫行ってくれるか」

田原の目を見てうなずき、亜美はドライバーシートに乗り込んだ。

田原は武史と小柄男を間に挟み、走り出したアトラスの荷台からワンボックスカーを見ていた。

よろけながら、ゾンビと長身男が立ち上がろうと、もがいていた。「多分、こいつがリーダーだ、あいつ等だけじゃ、どうにも動けないだろうな、

武史、ポリに通報されないように、シートかぶるぞ」

アトラスは心地よく走っり、国道15線を埠頭の方に曲がった。

ー8-

倉庫のシャッターを開け、亜美がバックでアトラスを中に入れると、田原は外を確認して直ぐにシャッターを閉め。、照明をつけずに、荷台からパレットの横に小柄男を引きずり下ろしす、武史も降りて来て小柄男を蹴りつけた。

アトラスを空き地に止めた、亜美もパレットに腰掛けた。「この人大丈夫やね。」

「大丈夫じゃなくていいの。」武史がもう一度蹴飛ばした。バージニアスリムライトに火を点け田原が聞いた。「じゃあ、はめたのはキンキラ男として、

任侠道のオッサンが、音頭取ってるって事は無いよな」

武史が首を振る「無いよ、嘘とか裏切りとか凄く嫌いな人だし、シャブがめても使い道ないよ」

「分かった、キンキラ男に気づかれづに、任侠道のオッサンに連絡とれるか」

武史もタバコをくわえ、亜美に火を点けてもらう「青木のアニキは平和島に住んでる女の所に居ると思う、送り迎えは俺の先輩だから、

須山のアニキには分からないと思うよ」

小柄男の携帯をいじっていた亜美が「須山さんからの着信、何回も入ってるのみっけたよ。」

「決まりだな」田原が冷蔵庫から缶ビールを出して二人に渡し「じゃあ、証拠も証人も、物も揃った、まずオッサンが大丈夫か探って、信用できるなら、

順序良く話して、はめられた事分かってもらうんだ」

頷いた武史、亜美にビールのプルトップを引いてもらい「やるさ、功ちゃん、わかってもらう」

その後、武史が青木にかけた電話は10分以上続き、何度も同じ事を話し、ようやく終わって、額の汗を拭った。「大丈夫だと思う、ここに来るって、

まずかったかな」うなずく田原、最悪の事態も考えないといけない。

「かまわないよ、だけどさ緊張するな、オッサン大丈夫だよな、」二人の顔を見て「賭けてみようぜ、ビール飲んだら、表で待つか」空き缶をゴミ袋の入れて、

三人はゆっくりと、倉庫の前に歩き出た。

ー9-

10分も待たずに、倉庫の前に黒いメルセデスベンツが止まった。頭を下げる田原たち三人の前に巨漢の青木が降り立った、両側を狂犬のような面構えの男に挟まれている。

「あんたが田原さんか、話は聞いた。面倒かけたなあ。」田原は青木を倉庫に招き入れ、ガムテープでグルグル巻きの小柄男と須山からの着信画面の携帯を渡した。

武史はもう一度、田原に助けてもらいながら、事情を説明をした。「なるほど、こいつは、須山が使ってる解体屋の木村って奴だ。

一度事務所に来たことが有る。須山の奴、家族を裏切るとわな、残念だな。」

武史が怯えた顔で赤いリュックサックを差し出した、「武史、それは予定どうりお前の役目だ、後は俺にまかせろ、極道はケジメが大事だ、

白、黒ははっきりさせないとな。」武史は泣きそうな顔で頭を下げ、狂犬のような二人が微笑み肩を並べた。「良く頑張った武史、根性を見せたな。」

メルセデス・ベンツのトランクに、ビビっている小柄男を突っ込み、数発殴ってから蓋を閉めた。

狂犬男がホテルマンのようにドアを開け、青木が巨漢を後部座席に押し込んだ。「田原さん、そのうち事務所に遊びに来てくださいお礼もしたいしな。」

狂犬男がドアを閉め、優雅にメルセデス・ベンツが走り出した。

車が見えなくなると三人はどっと疲れて、その場に座り込んだ。

「功ちゃん、バッチリだ。」と言った、武史は忘れていた傷が痛み出したので、事務所に移動した。

亜美は武史をソファーに寝かせ、痛み止め、化膿止め、抗生物質を飲ませた。

「さすが看護師。」からかう田原の、おデコの傷に絆創膏を貼り、笑っていると、武史のいびきが聞こえて来た。

「サンキュー、埠頭の海見に、行こうか」缶ビールを2本出して田原が歩き出した。

亜美は武史に毛布を被せて後を追った。大黒埠頭の海は凪いでいた、心地の良い風が吹いている。

ガードレールに腰掛け、二人一緒にプルトップを引いた「亜美が居てくれて、いろいろ助かったよ。」

亜美はショートな髪を押さえ「かまへんよ、あれで武史君、助かったんやから。」

ベイブリッチのライトアップが綺麗だ、何処からか汽笛が聞こえてきた。

(逃げてくれ、俺のために)か、東京にもちっとは、骨のある男がおったんやな、こんなにすぐそばに。

気がつくと田原の顔をじっとみつめていた。「え、何。」ノー天気な笑顔、歯だけが白い。

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