お姫様とふたりの騎士
とある国に、とても美しいお姫様がいました。
お姫様はあまりに可憐で、人々のみならず人外の魔物たちにも気に入られており、毎日怯えて暮らしています。
お姫様の近くには護衛の騎士がふたり。
黒の騎士は言いました。
「どんな魔物が来ようとも、私が剣となり盾となり、姫を守ろう」
白の騎士は言いました。
「楽しく騒げば魔物は寄り付かない。私が姫を笑わせよう」
お姫様は言いました。
「白の騎士は私をいつも楽しませてちょうだい。それでも魔物が寄り付いた時は、黒の騎士が私を守るのよ」
それからというもの、白の騎士は毎日お姫様と一緒にいました。とても楽しげなふたりを、黒の騎士はじっと眺めながら出番を待ちます。
楽しげな二人を邪魔する強い魔物が現れると、お姫様は黒の騎士に助けを求めました。
黒の騎士はいっしょうけんめい戦います。魔物をこらしめると、お姫様は黒の騎士に言いました。
「あなたは本当に頼りになるわ」
その言葉に黒の騎士は嬉しくなります。白の騎士のように、お姫様を楽しませることができなくても、魔物をこらしめる。それが自分にできる唯一のことだったからです。
黒の騎士の強さには、ある秘密がありました。黒の騎士の鎧で隠された頭には、ちいさな角が生えていました。黒の騎士には少しだけ、魔物の血が流れていたのです。
魔物たちはなんどもなんどもお姫様のところへやってきました。なんどもなんども黒の騎士は戦いました。なんどもなんども、なんどもなんども、なんどもなんども。
いつのまにか、黒の騎士の体はボロボロになっていました。黒の騎士はとてもかたい鎧を身に着けていましたが、その下は傷だらけです。鎧の下の傷と角はお姫様には見えません。
黒の騎士の活躍をたいへん気に入ったお姫様は、ふたりの騎士に言いました。
「白の騎士を休ませて、黒の騎士が私のそばにいたらどうかしら」
黒の騎士は言いました。
「私は戦うことしかできません。姫の近くなどもったいない」
白の騎士は言いました。
「私を休ませるなんてとんでもない。いつでも姫のそばにいます」
それを聞いたお姫様は、とても残念がりました。お姫様は白の騎士よりも、黒の騎士にいつもそばにいてほしいと思っていたからです。しかし、黒の騎士はそれを断ってしまいました。
黒の騎士は、鎧の下の傷と角をお姫様に見せたくなかったのです。角を見たら、お姫様はきっと怖がってしまうと思いました。
お姫様は白の騎士と遊んで過ごしました。
それからも、魔物はなんどもやってきました。そしてある日、ひときわ大きな魔物がやってきました。
黒の騎士は思いました。きっとこれが最後の魔物だと。
黒の騎士の体にはもう、ほとんど力が入りません。それでも黒の騎士は必死に戦います。お姫様を守るために。
そしてなんとか魔物をやっつけた黒の騎士でしたが、その魔物は特別でした。その魔物は呪いの力をもっており、黒の騎士は呪いに侵されてしまいました。
その呪いは、黒の騎士をほんとうの魔物に変えてしまうというものでした。
黒の騎士は苦しみます。かたい鎧の中で、ボロボロの体をふるわせながら、苦しんで、なやみます。
しばらく魔物はやってきません。しかし、いつかまた魔物がやってきた時に、黒の騎士はお姫様を守ることができません。
黒の騎士はなやみ続けます。
ある日、黒の騎士は傷を癒すために、森の泉で鎧を脱いで水浴びをしていました。もうほとんど魔物のものとなってしまった体を見つめていると、森の魔女が黒の騎士に話しかけました。
「ひどい傷だ。それに、めずらしい呪いをもっているね」
黒の騎士は言いました。
「呪いを解く方法はないのか」
自分以外の人に傷を見せるのも、この体を見せるのも、黒の騎士は初めてでした。 しかし、あいてが魔女だと思うと、ふしぎと隠すことはしませんでした。森の魔女は言います。
「それはとても強い呪いだ。お前が魔物になるのは止められない」
黒の騎士はとても残念に思いました。
「しかし、私の魔法なら、お前の心ぐらいなら残せるよ」
黒の騎士は、森の魔女の力によって、心だけは騎士のままでいることができるようになりました。魔女は言います。
「しかし、あの姫は美しい見た目以上に、魔物を寄せ付ける力をもっている。姫の近くに居続ければお前の心は魔物になってしまうだろう。それはお前にとっても、姫にとっても、とても危険なことだ」
そして黒の騎士は、あることを思いつきます。
楽しそうに遊ぶ白の騎士とお姫様のところへ、いっぴきの魔物がやってきました。
その魔物は、黒の騎士のなれのはてでした。黒の騎士は森の魔女の力によって騎士の心を持っていましたが、体は魔物になってしまっていました。
お姫様はその魔物が黒の騎士だと気が付きました。お姫様は言います。
「あなた、黒の騎士でしょう? 心配していたのよ」
黒の騎士は胸が苦しくなりました。魔物となってしまった自分を見ても、お姫様は優しい言葉をかけてくれたのです。
しかし、黒の騎士はわざと返事をせずに、大きなおたけびをあげました。大きな牙とするどい爪をかちかちと鳴らします。そのすがたに、お姫様はもうそれが昔の黒の騎士ではないと思い、こわがって白の騎士に言いました。
「私たちのことを覚えていないのだわ。早くあれを追い払って」
白の騎士は言いました。
「姫様は私がお守りします」
それを聞いた黒の騎士はお姫様に向かって駆け出しました。いつのまにか涙を流していましたが、それを隠すようにほえます。
お姫様の前に白の騎士が立ちはだかり、剣を振り下ろしました。白の騎士の剣は黒の騎士の額をかすめ、地面に突き刺さりました。
黒の騎士は大げさに驚いたような声を上げて、そこから逃げ出して森の中へと消えてしまいました。
黒の騎士がいなくなったあと、お姫様は白の騎士に言いました。
「あなたは本当に頼りになるわ」
そのあと、白の騎士は立派な騎士となり、お姫様のそばでずっと楽しく過ごしながら、お姫様を守り続けましたとさ。
fin
カラニシキでした。読了感謝。
これは黒の騎士のお話なので、黒の騎士の主観となっていますが、お姫様も、白の騎士も、苦悩、決意、そして自分の正義を持っています。
このお話に悪役はいません。




