表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

迷子のビリー

作者: 紺こおろぎ

今日もビリーはやってきた。

ビリーは、私に小銭を渡して、店先のみかんを一個とるとその場で器用に剥いて食べる。

それがビリーの日課である。

ビリーは男の子だが、イチゴ模様のパンツを履いている。

それはお姉ちゃんのお下がりだ。

なぜか気に入ったそのパンツは、雨の日も風の日も、ビリーの一張羅である。

お母さんが洗濯の時に取り上げる時以外は。

最初はお母さんに抱かれてやってきた。

この前までお姉ちゃんと手をつないで店先に来ていた。

今は一人でやってくる。

そして、山のふもとの集落の一番端にあるこの野菜売り場で、みかんを食べて満足してまた集落の家に帰っていく。


ある日、ビリーはみかんをいつものように食べ終わり、山の方をいつまでも見ていた。

家にお帰り。 と、声をかけても知らぬふり。

そして、ゆっくり家に帰って行った。

ブカブカだったビリーのパンツはいつか小さくなっていた。


次の日も、ビリーはやってきた。

上の空でミカンを買い、道端で山を見上げる。

ずっと立ち尽くしていたビリーは、山を指差し何かを訴えた。

今度は私が知らぬふりをする。

ビリーが帰った後に、

食べかけのミカンがポツリと狭い道の真ん中に落ちていた。


今日はビリーはお休み。

雨が降っているから。

数か月前は、雨の日でも一日も欠かさず、

お母さんの腕にぶら下がって八百屋に来るのが楽しみだったのに。


数日後ビリーはやってきた。

いつものように小銭を渡してミカンを一つ取る。

道端に座り込み、山を見ながらゆっくり食べる。

今日のビリーの顔はまるで輝いているかのようだ。

いつしかビリーの姿は消えていた。

店の外に出て山の方を見ると、道の向こうに小さくなったビリーのパンツが落ちていた。




「今日は、みかんをください。」

数日後にお姉ちゃんがやってきた。

やぁ、ビリーはもう何日も来ないよ。

「どこに行ったのかな?」

山に。

「なぜ」

大人になったから。

「迷子かな?」

いいや、迷ってないよ。今は。

たぶん。


今日は閉店後にみかんを一つ店先に残しておこう。

お猿のビリーが取りに戻ってくるように。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全体に漂う雰囲気、好きです。 [一言] 最後の一行 無くても良いかなと思いました。 お猿でも そうでもなくても ビリーはビリーかと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ