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第3話 ゲリラ?

               -Wadi Rum

 何もなかった砂漠のあちこちに岩山が現れ始めた。視界に突如として屹立するそれらは、彫刻のような造形美で見る者を魅了する。まるで神の仕業と考えられなくもない。マーアーンを過ぎデザート・ハイウェイを外れる辺りから、車窓は奇景と呼ぶに相応しい佇まいを見せ始めた。


 左手前方にとりわけ目立つ岩山が見えてきた。大地からにょっきり生えた巨木の幹を思わせる独特の形。名づけて「七つの知恵の柱」。ここがワディ・ラムの入り口だ。燃えるように岩が赤い。西陽のせいかと思ったがそうではない。土の色自体がこれまでとは違うのだ。舗装が切れ、でこぼこ道をうねるように進んだ先でバスが停まった。車を乗り換えるのだ。


 夕方だというのに気温はまだ40℃。陽射しは依然として衰えない。写真を撮ろうとカメラのファインダーを覗いてみたら露出オーバーの表示が出ていた。ファッションというより安全上の理由からサングラスは必需品だ。


 だが、ワディ・ラム観光のハイライト「4WDで荒野の砂漠をワイルドドライブ」に行くには、それだけでは準備が足りない。強烈な砂埃から身を守るため顔全体を覆う必要があるのだ。


 バスを降りた僕たちはレストハウスの庇の下でいそいそと身支度を整え始めた。マスクをかけ、スカーフを首に巻き、頭からタオルを被る。帽子やサングラスはもちろんのこと、ジャンパーのジッパーや袖口のボタンが留まっているかも確認する。手袋をしている人もいる。


 そうして完全防備した互いの姿を目にした途端、ツアーメンバー一同大爆笑となってしまった。これではまるでゲリラか過激派ではないか。


 実際、異様な集団だった。何しろ顔が見えない。表情が読めない。年齢もわからない。服装でようやく知り合いか否かの識別ができる程度であって、要するに誰が誰だかわからない。黙っていると理由もなく不安になってくる。


 せっかくなので全員一列に並んで記念写真を撮ることにした。いくら海外旅行とはいえ、これだけ非日常な光景も珍しい。さすが中東、と妙な感心の仕方をする。


「車が来ましたよ。何台かあるので分かれて乗ってください」


 添乗員に促されて振り向くと、農作業にでも使いそうな薄汚れた軽トラックが砂埃を巻き上げ巻き上げこちらに向かって来る。


「4WD?」


 誰からともなく失笑が漏れた。


 軽トラックの荷台には木製の粗末なベンチがくくりつけられている。当然クッションなどない。申し訳程度の背もたれはあるが、ボロボロにささくれだった木が剥き出しのままだ。


「パジェロとかランクルじゃないの?」


 そんな素朴な疑問など聞こえないかのように、添乗員は次から次へと軽トラックに乗客を乗せていく。いや「積み込んで」いく。そう、まるで出撃する兵士たちを軍用車両に搬入しているかのように。


 最初の一台に「積み込まれた」人々が一斉にこちらを振り向いた。帽子、サングラス、マスク。左右それぞれのベンチに礼儀正しい姿勢で並んだ彼らは、しかしどこからどう見ても市井の民間人には思えない。


 これは是が非でも撮らなければ。頭ではわかっていたが、指先が震えてなかなかシャッターが押せない。腹の奥からふるふると溢れるように笑いが込み上げてくる。


「皆さん笑って。ハイ、チーズ」


 そんなわけで、傑作の一枚をモノにするまで要した時間は多大だった。モデルたちは辛抱強く付き合ってくれた。しかし彼らが本当に笑顔だったのか、確認するすべはどこにもない。

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