嵐のあとで、もう一度線を引く
夜明け前、暴風が港を襲った。
行政局の屋根が軋み、地図の束が風に舞う。
「課長、資料は二階に移しました!」
「よくやった!あとは避難誘導を——」
ローナの声が風に消えた。
奥から駆けてきたのはカイルだった。
「ルシア、避難を!」
「また私を守るつもりですか」
その一言に、彼の足が止まった。
「守るだけのあなたに、私の隣は歩けません。今度は、私も行きます」
*
嵐の中、二人は崩れかけた港の堤防を測り直していた。
風が地図を奪おうとするたび、ルシアは身をかがめて押さえる。
「前より速くなったな」
「描きたいものがあるので」
その瞬間、瓦礫が弾け、カイルの肩をかすめた。
「大丈夫ですか!」
「平気だ」
「あなたはいつもそう。傷ついても言わない」
「言ったところで何か変わるのか」
「ええ。今なら、私が知っています」
嵐の音の中でも、彼女の声ははっきり届いた。
*
夜が明けた。
崩れた港の隅で、二人は泥のついた紙を広げる。
新しい線が、再び交わった。
「あなたが壊した線を、私が引き直しただけです」
「俺は君の強さを信じなかった。
もう、信じてもいいだろうか」
「それは私が決めます」
ルシアは筆を取り、破れた地図に細い線を引く。
それは堤防の線であり、未来の輪郭でもあった。
カイルが隣でうなずく。
「これからは、同じ線の上を歩けるだろうか」
「分かりません。でも、同じ地図を描くことはできます」
課長が笑いながら駆け寄る。
「二人とも、よくやったわ!」
雲の切れ間から朝日が差し、港を照らす。
ルシアは新しい地図を見つめた。
「この線は、未来へ続く線です」
二人の署名が並ぶ。
風が紙を揺らし、線はもう揺れなかった。
港の朝が、静かに始まっていた。




