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愛されなかった令嬢、地図を描きながら人生を描き直します  作者: くまくま


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2/3

あのときの言葉の裏側

翌朝、港は霧に包まれていた。

潮の匂いの中、ルシアは測量器具を肩にかけて歩く。

港湾修復計画の現地調査。行政局の最重要任務だった。


「この区画の線、君が引いてくれ」

カイルの指示はいつも通り淡々としている。

「了解しました」

それだけ返し、ルシアは測距棒を立てた。


沈黙の中、カイルがつぶやく。

「人も同じだな」

「何が、ですか」

「堤防だ。外からは完璧に見えても、内側は脆い」

「……ご自身のことですか。それとも私?」

「どちらでもない」


皮肉を返す余裕もなかった。彼の瞳に疲労の影があった。



昼休み。課長ローナの一言が、ルシアの心を揺らす。

「王都の水路計画、知ってる? 彼、あれの責任者だったの。

 不正を告発しようとして、全部の罪を押しつけられて左遷されたのよ」


「……そんなこと、聞いてません」

「言わなかったんでしょうね。あの人、不器用だから」


その言葉が胸に刺さった。



夕方。倉庫の中、古い地図を修正していたカイルに声をかけた。

「左遷の件、聞きました」

「課長は口が軽いな」

「隠す理由があったんですか」

「ない。ただ、過去の話だ」


「私にとっても過去です。でも、あのときのことだけは――」


ルシアの声が震えた。

カイルが顔を上げる。

「君を巻き込みたくなかった」

「それで婚約を壊したんですか」

「そうするしかなかった」

「“君のような人間を妻にはできない”――あれも嘘だったんですね」

「……そうだ」


短い沈黙。彼は苦く笑った。

「貴族令嬢のままでは、君まで処罰される。俺が悪者になれば済むと思った」


ルシアは拳を握りしめた。

「そんな理由で壊したの」

「それしか方法がなかった」

「私の人生を勝手に守って、勝手に奪っただけです」


涙が落ちた。

「あなたの“守る”は、私には呪いでした」


そのまま倉庫を出た。

波の音が、胸の奥まで響いていた。

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