わたしの親友
友達がほしかった。
それだけだった。
高校に入って半年、私はずっと一人だった。
誰かと一緒に笑って、放課後に他愛もない話をしてみたかった。
そんなある日、クラスで転校生が来た。
名前は「真帆」といった。
黒髪を肩で切りそろえた、少し陰のある子。
目が合うと、真帆は静かに微笑んだ。
その笑顔がとても綺麗で、私は胸が熱くなった。
席が隣になった日、真帆が声をかけてくれた。
「消しゴム、貸してくれる?」
それが最初の会話だった。
その日を境に、私たちは少しずつ話すようになった。
「彩ちゃんって優しいね」
「真帆ちゃんって、静かだけど面白いよね」
放課後、一緒に帰るようになり、休みの日も遊ぶようになった。
誰かと一緒にいることが、こんなに温かいものだったなんて。
そして、話していくうちに私と真帆ちゃんは同じ幼稚園だったこともわかった。
私は毎日が楽しかった。
“友達”ができたから。
けれど、少しずつ何かがおかしくなっていった。
ある日、クラスメイトの一人が私に話しかけてきた。
「最近、真帆ちゃんと仲いいよね」
私は嬉しくてうなずいた。
「うん、親友だよ」
すると、その子は少し困ったような顔をして言った。
「……真帆ちゃんって、去年亡くなった子の名前じゃない?」
私は笑ってしまった。
「そんなわけないよ。ちゃんと隣の席にいるし」
でも、ふと視線を向けると、そこには誰も座っていなかった。
放課後。
教室に一人残っていた私の耳に、声がした。
「ねえ、彩。私のこと、忘れちゃったの?」
振り向くと、真帆が立っていた。
いつもと同じ笑顔。けれど、頬が少し白い。
「……真帆、いるじゃん」
「いるよ。ずっと一緒にいたよ」
真帆は私の手を取った。
指先が冷たかった。氷みたいに。
その夜、母に聞いてみた。
「ねえ、真帆ちゃんのこと知ってる?」
母は一瞬黙り、それから優しく言った。
「……真帆ちゃんって、昔あんたが幼稚園で仲良かった子でしょ?」
「そう、そのことはあんまえり覚えてないんだけど、今、真帆ちゃんと同じクラスなの」
母の表情が強張った。
「彩、それは……もういないのよ」
私は笑った。
そんなはずない。今日だって一緒に帰ったのに。
でも、スマホを開いてLINEを確認すると、真帆とのトーク画面がなかった。
連絡先そのものが存在していなかった。
次の日。
教室で、誰に話しかけても私の隣の席には誰も座っていなかった。
「真帆ちゃんって、どこ行ったの?」
と聞くと、みんな一様に首を傾げた。
「誰それ?」
私はおかしくなりそうだった。
家に帰って、机の上の写真立てを見た。
そこには、小さい頃の私と真帆が笑って写っていた。
でも、その真帆の顔の部分が、真っ黒に焼け焦げていた。
夜、夢を見た。
暗い校舎。
教室の窓の外に、真帆が立っている。
笑って、手を振っている。
その手には、焦げたような跡があった。
「ねえ、彩。約束したでしょ」
「ずっと、一緒にいようって」
私は夢の中でうなずいた。
それが、間違いだった。
朝、鏡を見た。
髪の毛の一部が、真帆と同じ黒髪になっていた。
いつの間にか、私の筆箱の中には真帆の名前が書かれた消しゴムが入っていた。
学校に行くと、誰も私を「彩」と呼ばなくなっていた。
「真帆、おはよう」
「真帆ちゃん、今日も一緒に帰ろうね」
みんなが私を“真帆”と呼んだ。
放課後、窓ガラスに映る自分の姿を見て、息を呑んだ。
それは、私ではなく、真帆だった。
その夜、母が泣きながら電話をしていた。
「娘が……娘がいないんです……」
私は部屋の隅で、それを聞いていた。
笑いそうになった。
ちゃんとここにいるのに。
机の上には、焦げ跡のある写真立て。
そこには、二人の少女が写っている。
一人は笑っていて、もう一人の顔は黒く塗りつぶされていた。
でも今は、両方とも笑っている。
一週間後、母が警察に通報した。
彩は忽然と姿を消した。
部屋には何も乱れはなく、ただ机の上に一冊のノートだけが残されていた。
ノートの最初のページには、こう書かれていた。
「親友ができた。名前は真帆。ずっと一緒にいる。」
そして、最後のページには……
「やっと思い出した。私が“真帆”だったんだ。」




