深夜の動画サイト
夜中、ふと目が覚めると、僕はスマホを手にしていた。
何故か目が冴えていて、布団の中でじっとしているのがもどかしかった。
いつものようにSNSを開くつもりだったけど、何となく動画サイトを開いてしまった。
そのサイトは、普段は広告だらけでつまらない動画しかない。
でも、深夜になると不思議な動画が自動でおすすめに出る。
「深夜だけ表示される動画」
そんな噂を僕はネットで読んだことがある。
好奇心に負けて再生ボタンを押すと、暗い画面に何も映らなかった。
しかし、数秒後、画面の中に自分の部屋が映った。
……いや、正確には僕の部屋そっくりの部屋だ。
ベッドの上に布団がぐちゃぐちゃに置かれていて、スマホが手に握られている。
僕は息を呑んだ。
これは……今の僕の姿だ。
画面の中の僕は動かない。
ただ、虚ろな目で天井を見つめている。
やがて、スマホの画面に何か文字が浮かんだ。
「見ているね」
声はない。文字だけが画面を揺らす。
僕は慌ててスマホを置き、布団の中に潜り込もうとした。
でも、布団の隙間から、誰かの視線を感じた。
背筋が凍った。
再びスマホを見ると、今度は画面が切り替わり、外の街角に映っていた。
見覚えのある交差点、コンビニ、そして……自分の家。
画面はズームして、玄関のドアを覗き込む。
僕の影が映った。
震える手でスマホを落とすと、画面は床に反射して、微かに光を放った。
その瞬間、玄関のドアが「ギィ……」と開く音がした。
……誰もいない。
深夜の静寂が耳を刺す。
でも、もう一度スマホを手に取ると、画面の中の僕は笑っていた。
その笑顔は、今の僕の表情ではない。
不気味に歪み、目が光る。
画面に文字が再び浮かぶ。
「近づいてきた」
僕は怖くなって、窓から外を見た。
月明かりに照らされた庭には、誰もいない。
でも、影だけが、ゆっくりと伸びて動いている。
僕は息を呑んだ。
影は僕の部屋の方へ、確実に進んでいた。
スマホが勝手に点滅する。
画面の中で、玄関のドアが開く。
そして、画面の僕が一歩、こちらに向かって歩き出した。
「やめてくれ」
声にならない声で叫ぶ。
画面の僕は笑いながら、ドアの外に立つ僕を見上げた。
その瞳は、まるで僕の魂を吸い取るように光っていた。
僕は布団を被り、目を閉じた。
でも、心臓の鼓動が聞こえる。
胸が締め付けられ、体が動かない。
布団の隙間から、冷たい手が僕の肩に触れた。
「……ここは、君の場所じゃない」
布団を振り払おうとしても、手は離れない。
振り向くと、そこには誰もいなかった。
でも、スマホの画面には、僕と同じ動作をしている僕の姿が映っていた。
そして、画面の僕は口を開いた。
「次は君の番だ」
叫ぼうとしても声が出ない。
息ができない。
画面の僕は笑い続ける。
影が部屋を覆い尽くす。
次の瞬間、画面は真っ暗になった。
その暗闇の中で、何かが囁く。
「見つけた」
気がつくと、僕は再び布団の中にいた。
時計を見ると、深夜三時。
でも、スマホはテーブルの上にあり、電源は落ちていない。
画面を見てみると、そこには動画の履歴が残っていた。
再生した動画のタイトルは……
「あなたの部屋」
僕はスマホを投げた。
画面は割れ、光が漏れた。
でも、割れた画面の奥で、目だけが光っていた。
あの、笑う僕の目だった。
その夜から、僕は動画サイトを開くたびに、誰かが僕の部屋を見ている感覚に襲われるようになった。
画面に映るのは、僕の生活の一部。
ベッド、机、窓のカーテンまで。
そして、いつの間にか、動画の中の僕は、こちらの世界に手を伸ばしてくる。
誰かに話しても、笑い飛ばされるだけ。
でも、確実に、僕の部屋は、僕の身体は、動画の中で誰かに狙われている。
そして、深夜になると、画面の中の僕が、ゆっくりと微笑むのだ。
もう、逃げられない。
夜が深まるたび、僕はスマホの光に引き寄せられ、画面の中の自分と向き合わなければならない。
深夜の動画サイトは、今日も更新されている。




