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だるまさんが

「だるまさんがころんだ」

 ヒナが振り返ると、子供たちは一斉に止まっていた。

 夕焼けに染まる公園。

 いつもより少し赤く見える空。

 足元には長い影が伸びている。

 ヒナはみんなの数を数えながらゆっくりと木の方へ戻る。

「だるまさんがころんだ」

 パッと振り向く。

 みんな微動だにしない。

 けれど、なにかが違う気がした。ひとり、多い。

 しっかりひとりずつ数えてみた。ハル、ミキ、ショウ、ユウ……それから……知らない顔。

 白っぽいワンピースを着た、見たことのない女の子が立っている。

 髪は長く、顔はうつむいていて見えない。

 誰かの妹かな? と思ったが、それにしては変だ。

 誰も彼女を気にしていない。

 まるで最初からそこにいたように当然のように止まっている。

「だるまさんがころんだ」

 振り向くと、その子は一歩、近づいていた。

 気のせいかもしれない。

 でも、その時だけ、風が止まり、鳥の声が消えた。

「だるまさんがころんだ」

 今度はもっと近く。

 他の誰よりも近い。

 顔はまだ見えない。

 ヒナの背筋に、冷たい汗がつっと流れる。足が重い。動きたくない。

 けれど続けなければいけない気がした。

 ルールを破ると、もっと良くないことが起きる気がして。

「だるまさんがころんだ」

 もう目の前にいた。顔が、見えた。

 皮膚がひび割れ、目が虚ろで、笑っていた。

 その口元からは赤黒い液体があふれていた。

 声が聞こえた。

「見つけた」

 ヒナは叫んだ。

 だが声は出なかった。

 身体が動かない。

 自分の喉が、自分のものじゃないみたいだった。


「だるまさんがころんだ」

 誰かが背後で言った。

 その瞬間、全員の身体がガクンと動いた。

 自分の意志ではない、何かに操られているように。

 知らない女の子はふっと消え、代わりにヒナの近くにいたはずのミキがいなかった。

「あれ、ミキちゃんは?」

 誰かが言った。

「え、さっきまでいたよね?」

 ショウが辺りを見渡す。ユウが木の陰を覗き込む。

「みつかったらかくれたらダメだぞ」

「もういいよって言った?」

「ねぇ、かくれんぼになってない?」

 ヒナの言葉にみんな不思議そうな顔をした。

「……だるまさんがころんだ、やってたよね?」

 ヒナが震えながら言う。

 みんな首をかしげる。

「え、かくれんぼじゃなかった?」

「そうそう、かくれること少なすぎるけど」

「もうみんなみつかったでしょ?」

 ヒナは言葉を失った。

 さっきの、あの子は?

 ミキは? どこへ?


 ふと、地面に落ちているものに気づいた。

 ミキの靴。

 中は空っぽ。

 だけど、ぬるりとした赤い跡が、草の中へ続いている。

 誰もそれに気づいていない。

 ただ、ヒナだけが、耳元で囁かれた声を聞いた。

「次は、あなた」


 沈む夕日が、公園を真っ赤に染めていた。

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