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LOVE SICK  作者: 紫音
8/10

-8-

照明を落とした部屋に、静かにラジオから流れる音楽


(誰の曲だったっけかな)


有名なラブソング…。

だけど、曲名は思い出せない。


それでも耳に心地良い…。




俺は何本目かのタバコに火をつけた。


授業が終わり、祐也はそのままバイトに行った。

いつもなら、シゲあたりと遊んで帰る俺も今日はまっすぐ部屋に戻った。


体のだるさは相変わらず…。


風邪かとも思って熱を計ったが、至って平熱。

しかし、食事をする気になれず買い置きのビールとコンビニのパンを一口食べただけで後はずっとぼんやりと座り込んでいた


テレビも鬱陶しく、ラジオで静寂をやり過ごす。



(たるいなぁ…)



幸い、明日は休みだ。

祐也が何かしらDVDを借りてきてくれるだろうから、それ見て過ごせば良い。

1日、ぼーっと過ごしていたら、体も復活するだろう。


他人事のように考えていると、テーブルに置かれた携帯に着信を知らせる音楽が鳴る。



(誰だ?)



携帯を見ると、見知らぬ携帯番号。

バイト先の誰かだろうか…?


「はい」

一応、ダルさを感じさせない声で反応する。

『もしもし?』

「どちらさん?」

『真明です』



名乗られた名前は予想もしなかった相手



「真明さん?」

『最初は"くん"付けが、今度は"さん"になったんだ?』

楽しそうに話す声に、俺は気後れする。

「すいません…。まさか年上だと思わなかったし…」

『いいよ。"さん"もくすぐったいから、呼び捨てにしてくれないかな?』

クスクスと小さく笑う声がする。

「はぁ…。でも、なんで俺の携帯…」

『ごめんね。シゲから聞いた。鴨井に用事だったんだけど連絡つかなくてね。ミヤちゃんに連絡させてもらったんだ』


なるほど…

あいつなら、携帯に出ないとかありえるもんな

妙に納得してしまったが、さすがにそうは言えない。


「あ~、あいつは今日バイトだから…」

無難な、でも真実を告げる。

『そっか。…うん、でも好都合かも…』


そう言われて、少しイヤな予感がした。


「…もしかして…美結ちゃん…何か言ってたんですか?」

祐也の彼女の話で聞かれたくない事なら、裕也はいない方が良い。


しかし、真明の口からは予想と違う言葉が出てきた。


『うん…そうなんだけど。好都合なのはミヤちゃんに電話する口実が出来たことかな』

「はい?………えっと…?」


思わず反応した声が微妙に裏返る。

受け答えが難しい事を言われた気がする…んだけど…?


「口実って?」

『俺はね、ミヤちゃんとお近づきになりたいなぁって思ってるんだ』

「俺と?」


益々意味が分からない


『そう。ミヤちゃんといろいろ話してみたくてね』

「あの…俺、面白いネタとか持ってないないんですけど…シゲか祐也が何か言いました?」


俺から聞きたい話なんて無いだろうし…

何が面白くて、俺と話したいのか…全く皆目検討もつかない。


『そういうんじゃないんだけど…まぁ、いいか』


う…。なんだか一人で納得されても困る


「あの…」

『あ、鴨井に伝言しておいともらえるかな』


突然話題がすり替わる


なんだか肩透かしをくらった気分


「なんでしょう?」

『美結ちゃんがね、祐也と話したいから電話かメールよろしくって』

「分かりました」

『うん、悪いけど伝えておいてね』


こういう伝言は高校の時からあった


何故か俺が窓口になる



仕方がないと思う。

向こうは必死だ。

自分の言葉を伝えるためには手段を選ばない。


おかげで巻き込まれるこっちは堪らない


「祐也に伝えるのはそれだけでいいんですか?

『うん。ところで、ミヤちゃんさ。今彼女とかいないんだって?』


突然の話の切り替わりように、何も言葉が出てこない


なんだか、唐突な人だ…


「いない、ですけど」

『ごめんね、いきなり。この間シゲが言ってたからさ。でも彼女いないんだったら、気兼ねなく外出とか出来るよね?』

「あ~…まぁ…。そうっすね」


祐也と住んでいても、お互い自分のペースは崩さない。

だからこそ、祐也は女のところに行くのだろうし、自分も好きに遊びに出かける。


『じゃあさ、今度俺と出かけない?』

「真明…と?」

『そ。イヤ?』


イヤかと聞かれても…



俺にしたら、知らない人間。

この間の飲み会に参加したわけでもないし、何か交流があったわけでもない


何故、そんな相手と出かけるのか…

イヤも何も、単にどう返事すりゃいいか困るだけだ。


「あの…出かけるって?」

『行きたいとこ無い?車あるから遠出も出来るよ』

「いや…あのですね。シゲ達も誘ってって事です…よね?」



どうにも話についていけない



『出来れば2人がいいかな。デートみたいだしね。ミヤちゃんの話もゆっくり聞きたいし』



だから、何故2人なんだ…



全く意図がつかめない



だけど…



「別に…構わないですけど……俺の話してもつまらないんじゃ?それに、この間の飲み会で誰か狙ってたんでしょ?その彼女誘えばいいんじゃないんですか?」

『だからミヤちゃんに興味があるんだよ』

「………」

『ミヤちゃんの事知りたいし、ミヤちゃんの話も聞きたい。一目惚れだからね』



(はぁ?)



一目惚れ?

今、一目惚れと言ったか?




『びっくりした?』

無言の俺に尋ねる声


びっくりした



びっくりしたけど…



「俺…男ですけど?」

『知ってるよ。女装は似合うと思うけどね。女の子には見えないよ』


今、さくっと変な事を言われたような気がするけれど…

それよりも…


「……一目惚れって…」

『人を好きになるって理屈じゃないよね』



真明の言葉が胸に突き刺さる



なぜなら、俺もその感覚を知っているからだ


男とか女とか…

いつからとか、どうして好きなのかとか


理屈じゃない



ただ…その人が好き







祐也が…好き







「…あのっ」

『また連絡するよ。驚かせてごめんね。おやすみ』

「…はい」



電話が切れると、再び部屋が静かになる。

ラジオからの音楽はいつの間にかニュースに変わっていた。

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