表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LOVE SICK  作者: 紫音
7/10

-7-

重い体を引きずりながら、それでも祐也と大学へ行った。

とりあえず出席だけはしておこう、と思ったから。


「ミヤちゃん!」


連絡用の掲示板で休講などの確認をしていると、いきなり聞き慣れない呼び名で呼ばれた。

俺をミヤと呼ぶのは祐也だけで、まして『ちゃん』付けで呼ばれたことなんてない。

「…誰だ?」

身体のダルさから声が不機嫌にはなるが、それでも返事をする。

当然隣にいた祐也も声のする方へ振り返った。


「ミヤちゃん、昼過ぎからなんだ?」

そう言って、手を振ってくるのは、確か昨日、祐也たちの飲み会にいた…

「"真明"くん?」


ほとんど印象に残ってなかったが、かろうじて記憶を辿る。

とは言ったものの、ちゃんと名前を名乗ったわけじゃないから仕方がない。


「あれ、名前知ってたんだ?」

彼は楽しそうに笑う。

「俺、山口真明。ここの英文科に通ってるんだ。鴨井に聞いてない?」

「いや…昨日の話はあんま…」

「そ。シゲとは幼なじみなんだ。俺のが一つ上だけどね」

「じゃあ三回生?」

「うん。よろしく」


物腰柔らかな真明は、祐也とは逆の雰囲気だが女受けが良さそうな顔立ちをしていた。

身長も高い。

なんとなく落ち着いた風貌は、俺と一つしか違うとは思えなかった。

二つ・三つ違ってもおかしくはない気もする。


そんな事をぼんやりと俺は思いながら、山口真明サンを見上げていた。


「鴨井、昨夜…美結ちゃん怒ってたぞ」

真明サンは俺の視線にはチラリと笑みを返し、祐也に話しかける。

「宥めるの大変だったんだからな。もう少し穏便にすませられないのかい?」

「…悪かったな」


裕也は口ではそう言うが…


きっと悪いなんて思ってない。

長い付き合いで分かる。


後に残された人間が、ややこしいことを背負うだけなのだ。


「フォローしておけよ?」

真明サンはそう言うが、祐也の反応はイマイチ。

面倒だとでも思っているのだろう。

その空気を真明サンは感じ取ったらしい。

「じゃあ、そういう事だから。ミヤちゃん、またね」

彼は祐也の態度を深く言及するわけでもなく、爽やかに去っていった。





…しかし…どうにかならないものか…




俺は思わず深いため息をついた。


隣の祐也からの不機嫌オーラが痛い。

自業自得だってのに…

真明サンに感謝こそしても、ここはヤツがキレる場ではない。

「祐也、真明…さんの言うとおり、フォローしておけよ?」


一応諌めてみる。


「いらねぇよ」


あっさり切り捨てられる


「あのなぁ…彼女に振られるぞ」

「別に。どうでもいい」



まただ…


執着が無いのは構わないが、こうやって誠意すら見せないのはどうなんだ。


いざこざ起こさず、よくここまできたものだと思う。

いつか、殺傷事件でも起きるんじゃないのか?



「ったく…祐也、少しは大人になれよ?いつか、本気で誰かを好きになった時に困るのはお前だからな」

「そう…だな」


一瞬…祐也の瞳が淋しそうに伏せられる。



(……?)



それは見間違えかと思うほど一瞬だった。


次に見たときは、いつもの祐也で…


「授業、行くぞ」

そう言って教室に行ってしまった。


ぼんやりした頭で見た、一瞬の幻か…


長く一緒にいても、分からないこともある。



例えば、彼の中に起きている変化とか

例えば、自分の周囲を取り巻く人間関係とか


常に同じ事などなくて


ともすれば、きっと見逃してしまうような些細な変化が、もしかしたら祐也の中にもあるのかもしれない




ふと、祐也との距離を感じて俺は涙腺が緩みそうになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ