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LOVE SICK  作者: 紫音
6/10

-6-

(マジ…かよ…)


俺はふと、目の前の鏡を見つめた。


髪もボサボサ。

今にも泣き出しそうな自分の姿に、情けなくなる。



しかも…



(勘弁してくれ…)


不覚にも、反応を示した下半身


(男の性だろ…)


一人で言い訳するだけ虚しくなる



無我夢中で受け止めたキス

姿見に映る自分が浅ましくて冷静になった瞬間に…反応してしまった


(変態かよ…俺)


羞恥プレイなんて、ガラじゃねぇだろ…



ふぅっと深いため息をつく。

バスルームから聞こえてくるシャワーの音に、俺は顔を上げた。



一体どんなつもりだったのか…



欲求不満になるほど女に不自由してるはずがない。

今夜だって、本当なら彼女のとこに泊まりだったはずなんだから…。

彼女のとこに行かず、帰ると決めたのは本人だ。



なら何故?



(バレたかな?)



今まで隠していた恋心…

それが顔を出し、あいつを求めるような物欲しそうな顔をしていたのだろうか。



混乱した頭を冷静にしようとタバコに手を伸ばす。


しかし、切らしていたのを忘れていた。


こんな時に限って買い置きもない。

コンビニに買いに行くのも面倒だ。


仕方が無く、祐也のタバコに手を伸ばした。

自分のが無くなると時々貰う。

自分とは違う銘柄


祐也の方が重い。



少し苦みのある味に、ようやく一息ついた気分になった。




***




「ミヤ、風呂いいぞ」


俺がようやく冷静になった頃、祐也が何事も無かったようにバスルームから出てきた。



それもそうか…



『今までの延長だろ』


奴はそう言ってた。


意識するようなものでもない。

意味を問いただす必要もない。


ただの気紛れ…


高校の時も、気まぐれにキスした。

それと同じ事


考え込んでいる方が馬鹿らしい


こいつにとって、キスなんて意味が無いんだ



「ん。入る。そだ、タバコ貰ったから」

「あぁ。お前の切らしたの?」

「うん。買い置きし忘れた。明日買ってくるわ」


そう言って、祐也の横をすり抜ける。

俺も何も無かったかのように振舞うしかない


今はもう、イヤな香りは消えていた。



~~~~~



翌朝…



「う…ん…」

俺は眩しく射す太陽の光で目が覚めた。

バイトがラストまでの翌日は、授業は昼からか休みの日にしている。

だから、体に疲れが残ることはあまりないのだが…



(頭…いてぇ)



どうにも昨日(日付は越えていたから今日になるのか?)の出来事が頭から離れず

しまいには、思い出しては体が反応しそうになる。



(う~…休みてぇ…)


非現実的な事を思いながら、ベッドの中で寝返りをうつ。

何度かそうしていると…


「ミヤ~!起きてるのか?」

ドアをノックする音と同時に祐也の声がした。


どうやら、彼は既に起きているらしい。


今日は同じ昼過ぎからの授業。


早く起きた方が昼飯を作るルール。

あの様子だと既に昼飯は出来上がっているのだろう。


(元気だな…)


いろいろ考えていた自分がいけないのだが祐也のその神経が羨ましくなる。

いや、気にしてなきゃ何とも思わないのが普通なんだろうけども…


「起きてる。今行く」


重い体を起こし、ドアに向かって意思表示をしておくとベッドから降りた。



その瞬間、微かなめまいに襲われる。



(っ…!)


一瞬動きが止まる。

頭を押さえたまま、ジッとしていると程なくして収まった。


(疲れて…るのかな…俺)



ふうっと思わずため息が出た。




もしかしたら限界なのだろうか…


自分の恋心を隠し、ひたすらに笑顔を作るのも…





一緒にいる空間はとても好きだ

好きな奴と一緒いられて、イヤな訳がない

しかし、向こうに相手がいるとき…

自然に振る舞うほど難しいものはないと思う


この気持ちに気付かれるのは困るが、あまりに無神経だと腹が立つ。

矛盾した感情



それでも『別々に住もう』とも言えない

今の環境を手放す勇気すらない


(覚悟…したんだけどな)



俺は自分の頬をパチンと叩くと、リビングへ出た。



***


のろのろと部屋を出れば、リビングには良い香りが漂っていた。


「やっと起きてきたか」

ベランダでタバコを吸っていた祐也が俺に気付いて部屋に戻ってくる。


テーブルにはパスタが湯気を立てていて、朝食を逃した腹が空腹を訴えた。


「先食べてて良かったのに…」

「一服した後食べようと思ってたんだよ。そしたらお前が起きてきた」

「あそ」

「顔洗って来いよ」

「うん」


もそもそと洗面所へ移動する。


鏡に映る自分の顔は酷いものだった。

いかにも寝不足ですと言った表情。

顔色が良いとも言えない。


(俺が女なら、今日は学校は休むな)


あまり自分の身なりで気にはしないが、正直人前に出たいと思うような状態ではない事は確かだった。


しかし、それも諦める。

休む理由も無いし、祐也に勘ぐられるのも御免だ。


一通りの準備をし、リビングへ戻ると既にコーヒーも用意されていた。


「お、準備できてるな」

「お前が起きるの遅いんだよ」

呆れた色を含んだ声に、俺は苦笑いを溢す。

「…昨日はラストまでだったし、忙しかったの知ってるだろ?」


こうして軽い言い合いも出来るのは、自然に見えるだろう。


裕也と向かい合いに座り、昼食を食べ始めた。


テレビでは昼のニュース。

天気予報なんかもやっているが、あまり耳に入らない。


「祐也、今日バイト何時まで?」

「ん?今日は6時から10時。晩飯、コンビニかなんかで買ってくるよ」

「了解」


夕食が一緒になる時は、どちらかが作っていたりする。


食費節約のためもある。

しかし、ずれる時は一人分を作るのも億劫で、外食で済ませてしまうのだが。


今日はどうやら夕食は別々のようだ。

顔を合わせないことに、微かな安心を覚えた。


「食い終わったら行くぞ」

すでに食事を終えた祐也が立ち上がる。

「はーい」

俺も少し速度を上げて食事に専念することにした。

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