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LOVE SICK  作者: 紫音
5/10

-5-

仕事が上がれたのは3時近かった。


バイトの皆で店を出る。


「あれ?祐也くん!」

声を上げたのは早百合だった。

「彼女は?皆帰っちゃったの?」

早百合が駆け寄ると、祐也は寄りかかっていたガードレールから体を上げた。

「よ、早百合ちゃん。俺はミヤ待ちしてんだ」

「そうなんだ~」

俺は2人が談笑してるとこに近寄る。

俺に気づいた祐也は「おつかれ」と片手をあげて言った。

「おつかれ。しかし…まじ、ほんとに待ってたのかよ」

「まぁな」

「じゃあ帰るか。皆、おつかれ」

俺は振り返り、バイト仲間に手を振る。

向こうも「おつかれ~」「じゃあな」と口々に挨拶する。

「じゃあ私も行くね、お疲れ様ぁ」

早百合も駆け足でバイト仲間に混じって帰って行った。


「さて、行くか」

残された祐也は自宅方向へ歩き出す。

俺もそれに続いた。




「彼女、どうした?怒ってなかったのか?」

さすがに、何て言って彼女を振り切ったのか気になり、祐也の背に問いかけた。

「あ~、あのまま寝てたからタクシー乗せて帰した。真明が送っていくって」

真明まさあき…とは、シゲの友人だろう。

俺の知らない名前が、こうやっていつも出てくる。

「ふぅん。その真明くんが彼女狙ってたらどうすんの?」

「別に。それに狙ってないと思うし…」

「じゃあ、別の子狙いか。そりゃまあ…真明くんもご愁傷様だな」


自分の目当ての子を送れず、祐也の彼女を送る事になろうとは…


真明が誰狙いかは知らないが、なんだかかわいそうではある。


「そういや祐也、明日バイトだろ?」

「おう」

「悪いんだけど、上がりついでに何かDVDでも借りてきて。明後日、休みだから見ようと思ってさ」


祐也のバイト先はレンタルビデオ店。

新作も真っ先に借りてきて貰えるから重宝してる。


「何系?AV?」

「なんでAVだよ。AVじゃなくて…。適当に。コメディあたりで」

「りょーかい」


他愛のない話をしてると、あっという間にアパートに着く。


なんだか、こうして祐也とまともに顔を合わせるのは久しぶりかもしれない。

それだけ連日すれ違いの日々。

だけど、きっと祐也はそれすら気付いてない。


「祐也、風呂入っちまえよ」


俺はテレビのスイッチを入れながら祐也に話しかける。

祐也は荷物を放り、俺に向き直った。


「ミヤ、先に入れば?」

「俺は後で良い。先に祐也入れよ。お前の匂い、気持ち悪い」

「…あのなぁ、何それ」


俺の言葉に怪訝そうに祐也が呟く。

その声に俺は苦笑した。


「お前のタバコの匂いと、彼女の香水…相性悪い。何か妙な匂いになってるからってこと」


ウソではない…


ウソではないが…本心は彼女の香りを漂わせてる事に気分が悪い。


なぜなら祐也からするタバコの香りは…嫌いではないからだ。


「部屋にその匂い付くの勘弁」

「わかんねぇな…」

裕也は自分の服を嗅いでみたりしている。

「自分の匂いなんてわからねぇだろ。いいから…」


早く行け…と言おうとした瞬間…



俺はその嫌な匂いに包まれた。



いつものように、柔らかく抱きしめるのとは違う


祐也は力任せに俺を抱き寄せ、そのままキスをしてくる。



高校から続く、軽いものとも違う、奪うような…痛々しい口付け…



「ちょっ…ゆうっ…や!」

祐也の体重を支えきれず、俺は床へ倒れそうになる。

かろうじて、祐也が俺を抱き締めてることで立っていられる感じ。


「ゆうや!まっ…て…」



口内に忍び込んでくる舌

角度を変え、何度もそれは俺の口の中に滑り込んでくる。



初めての感覚…



女と付き合った時ですら、こんなに激しく求められた事はない。


「ん…は…っぁ」



呼吸を忘れて、酸欠になりそうだ



「ゆうっ…や…!」


ふと、俺に重なる祐也の向こう側の姿見が視界に入る



そこに映る自分の姿



必死に祐也にしがみつき、混乱した自分の姿



その中に、貪欲に彼を欲する自分が映し出されたようで……




(や…べっ!)



「祐也!祐也!」

彼を引き剥がそうと、本気で奴の胸元を拳で殴る。

「って!」

その痛みでようやく祐也の腕の力が抜けた。

瞬間を見計らい、俺は腕から逃げる。


「いてぇな」

「あったりまえだ!いきなり…何すんだっ」


ズルズルと座り込む俺は、それでも負けないように奴を睨み付ける


そうしなければ、迫力負けしてしまいそうで…



「おま…っ…まだ酔ってんのかよ」


整わない呼吸

上がる肩


「そんなに欲求不満なら、彼女んとこ行きゃ良かっただろうがっ」


自分にまで、先ほどの香水が移ったようで気持ち悪い



「……別に…そんなんじゃねぇよ」

「じゃあ、どういうつもりだよっ」

「さあな。今までの延長だろ」


そう言い放ち、祐也はバスルームへ消えた。



静寂が部屋に戻る

俺の荒い呼吸だけが、部屋に木霊した。



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