-2-
高1から気付けばよく一緒にいた。
一緒にバカやって、一緒に怒られた。
最初にキスしたのは高2の秋
きっかけは忘れたけど、遊びのようなキスに、俺はあいつへの気持ちに気付いた
一緒にいるのは楽しかったけど、それは友人だからだと思っていた。
だからキスした時、自分でも驚くほどあいつを意識した。
俺は、祐也が…好きだったんた…
だけど、一度も気持ちを打ち明けた事はない。
祐也の女関係は高校から変わらないし、
気持ちを打ち明けて、離れていく位なら友人として続けていきたかったから…
それでも…時々、遊びのようにキスをする
ただ、それだけで嬉しかった
大学が同じだと知ったのは、卒業も間際
『俺さ~ミヤと同じ大学に行くことになった』
卒業を祝う会と称した食事会で、隣に座った祐也からの言葉
『え?同じ大学受けてたのか?』
『いくつか受けていたんだけどさ。で、お前と同じとこ受かったし…』
大学に行けば、離れ離れになるだろうと覚悟していた俺にしたら、嬉しい出来事。
しかし、顔には出さず
『じゃあ、4月からもよろしくな』
と返した。
だけど、あいつは更に俺の気持ちを舞い上げた。
『でさ、家・・・出ようと思ってんだよね』
『ふぅん、いいじゃん。一人暮らしならさ、女呼び放題だしな』
『別に女呼びたい訳じゃねぇけど…。いい加減、親がうるせぇのよ』
『まあな~。うちも同じもんだよ』
『じゃあ、一緒に住もうぜ。家賃折半すりゃそれなりのとこに住めるだろうし…。
お前となら気兼ねいらねぇしさ。食事とか掃除とかは交代にすりゃいいだろ?』
そう提案してきた祐也に俺は当然OKした。
ただ、時々帰らない夜や、女と歩く姿を校内で見たりすると、
ひどく落ち込むのだけれど…
一緒に住んでいる分、今まで見えなかった私生活が見えてくる。
部屋の中で鳴る携帯。
メールの時もあるし、電話の時もある。
電話の時は、向こうも気を使うのだろう。
リビングから出て、自室へ行く。
しかし…3DKの学生をターゲットにした安アパート。
自室にこもったからと言って、防音完備なわけではない。
時折聞こえる会話の端々が、凄く楽しそうで…居た堪れない気持ちになる。
*****
次の日…
「雅!」
「シゲ…」
一限、祐也の言うとおり出席票を提出し、俺は授業を終えた足で食堂へ向かう。
その途中、友人のシゲ---松山一茂に声をかけられた。
「祐也は?」
「彼女のとこ」
「あぁ、俺が紹介した子?」
「そう」
シゲは大学からの友人
地方から出てきたから、こっちで一人暮らしをしている
「美人だろ」
「俺は見てないよ」
「写メ送ったんだけどな。なんでもミスなんとかってやつみたいだぜ」
「…シゲ…おまえもよく知り合ったな。そんなレベル高いの」
こっちに知り合いがいないシゲは、サークルのコンパに進んで参加していた。
恐らくそういうとこで知り合うのだろう
「レベル高いの狙ってるからな~。おまえにも誰か紹介してやろうか?」
まるでどっかの親戚のおばちゃんかのように
知り合った女の子を友人に紹介しているらしい。
(…シゲ…良い人で終わりそうなタイプだよな)
本人が聞いたら怒るだろうと、口には出さないが
こうやって橋渡しをしている姿しか見ないのもどうかと思う。
「俺はいいよ。彼女がめちゃくちゃ欲しいわけじゃないし…」
「でも、エンジョイ!キャンパスライフ!って言ったら彼女じゃねぇ?」
「別に?バイトも楽しいし…」
実際、高校の時も何人か付き合った事があった。
祐也への気持ちを確信してからも、その気持ちを振り切ろうと
女の子と遊んだりもしたが…結局無駄だった。
相手だってバカじゃない。
祐也みたいにビジュアルが良ければ「気持ちが無くてもいいわ」くらい言えるだろうが
そんなビジュアルを持ち合わせていない俺が相手ならば
気持ちが伴わなければ、相手だって離れていく。
それを頑張って繋ぎとめるほど、俺も相手に気持ちがあるわけじゃない…。
「雅もさ~、顔は悪くないと思うんだよな」
「…"顔は"ってなんだよ?」
「いや、ほら…なんつの?ジャニ系っていうの?可愛い顔立ちではあると思うよ」
「男が男に可愛いって言われても嬉しくないし、そんなフォローはいらない」
伊達に生まれてからずっと、この顔と付き合ってきたわけじゃない。
自分の容姿など自覚している。
「マジで!悪くねぇって。たださ~、ほら、祐也が目立つからなぁ」
「…俺が霞むって?」
「そうそう。祐也ってタッパあるし迫力あるしなぁ」
「だな」
「だから、隣にいると霞んじゃうだよね。俺もお前も」
ケラケラと笑いながら話すシゲは、なんだか楽しそうだ。
話している内容は、結構シュールだと思うけど…。
二人は食堂に着く。
皆2限の授業に向かっているのだろう。
食堂はガラガラだった。
俺は2限を取っていないし、シゲも本来なら今日は授業が無いはずなのだが
課題をやると言って大学に足を運んだらしい。
食堂の隅陣取ると、缶コーヒー片手にのんびりタバコに火をつける。
ゆっくり上っていく煙に目をやる。
「なぁ、雅ぃ」
ふと、シゲが口を開く。
「ん?」
「今日、バイト?」
「あ~…うん。10時からラストまでな。なんで?」
俺のバイト先は居酒屋のチェーン店。
昼はレストランとして開店しているので、授業が無い日は日中もバイトに入っている。
それでも出来るだけ夜のシフトを入れるのは、給料が良いから。
いくら家賃折半・光熱費も折半といったところで
都内アパートの家賃を支払うにはそれなりに稼がないといけない。
実家からの仕送りも断っているので、完全に自分のお金でやりくりをしている。
その為、祐也も夜でも働けるように24時間のレンタルビデオショップでバイトをしている。
夜でも動けるのは学生の特権だろう。
「8時くらいに店行く予定だからさ」
「ふぅん。じゃあ店長に言っておいてやるよ。何かサービスしてくれるだろ」
「サンキュ!助かるわ~」
時々、友人がこうやってバイト先に飲みに来る。
事前に店に言っておけば、時折サービスしてくれるのだ。
「あ、たぶん祐也も来るぜ」
「祐也も?あいつデートだろ?」
「そうそう。その彼女と♪彼女が友達連れてくるっていうからさ~」
「…あ~…コンパすんのね」
俺はゆっくりとタバコの煙を吐きながら呟く。
正直、見たくは無い。
祐也に甘える女性。
付き合っているんだから、それなりにイチャついたりもするんだろう。
誰がそんな光景を見たいものか…
「雅も祐也の彼女、見てみろよ?美人だぜ。目の保養!」
「…ん~…忙しくなかったらな」
なんて、言い訳。
できる事なら見たくない。
何度かそういう光景は見たことがあるが(どれも違う女なのだけど)
やはり見た後は気分が悪い。
今日のバイトに少々気を重くしたせいか、いつもよりタバコの味が苦い気がした。