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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.0 前世の記憶
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6. 降臨

 あれからおよそ2週間後。

 思ったよりも早く東西の群がぶつかり合うという情報が広まった。

 それは思ったよりも早く戦争が激化していることをあらわすもので。


 お母さんは窓を補強してふぅ、と一息ついた、


「ルフさん。あんたがいると心強いよ。でもまぁ、命あってのものさ。自分が危なくなったら逃げるのも大事だよ。私らだって、あれから覚悟くらいいくつもできたさ。」

「いえ、日々を平和に暮らしているあなた方が、そのような覚悟など本来する必要はないんです。戦える僕を最前線に行かせてください。ご恩は十分に頂きました。」

「はー、いい男だねぇ!!私ももう20年若けりゃあんたみたいなひと放っておかないよ!」

「お母さん、お父さんがいないからって調子乗りすぎだよ!」


 わいわいと暖かい会話が続く家庭。

 本当に、このままの時が続けばいい。

 だけど、現実は甘くない。昨日ルフと会話をした。


「明日、ここを離れようと思うんだ。無事に神を呼べたら、それを故郷に伝えに行く。ーーーラファティナ、今までありがとう。間違いなくこれまでの人生で、一番楽しかったよ。」


 胸が詰まるような思いだった。

 いつかは別れるときがくると思っていたけど。

 知らないことを沢山教えてくれた人。同じ者が見えた人。寄り添って優しくしてくれた人。私の大切な人。


 それでも私は思い出を大切にしなきゃならない。

 前を向かなければならない。

 ルフにはルフの使命がある。私には私の役割がある。それに、私はルフの手伝いができた。大きな手伝いだった。それで十分だ。


 朝食を食べ終え食器を片付け、私はルフと一緒に家を出た。

 母には夕方には帰ると言付けて。


「どこに行くの?」

「この北にある山を超えてしばらく進んだ場所だよ。」


 前に住んでいた村の周辺だった。

 もうあの辺りはボロボロになっているんだろう。

 畑も、川も、大切な家も。


 思わず顔がくしゃっと歪むと、ルフの手が私の頭をなでてきた。


「大丈夫?辛いならーーー」

「私、行くよ。絶対行くから、お願い。」


 そう言うとルフが微笑んで手を繋いできた。


「分かった。じゃあ、急ぐよ。手を離さないでね。」


 ルフがそう言うと、体がふわりと浮き上がる。


 ビューーーーーーーーーーン!!


 私たちは地面を滑るように滑走した。

 風圧が凄い!飛ばされる!思わずルフにしがみつくと、カラカラと笑われた。


「大丈夫、練習したらラファティナにも出来るはずだよ。現に今、僕はラファティナのマナも借りてるから。普段はこんなにスピードは出ないし、コントロールもそこまでうまくいかないんだ。」


 えぇぇ……っ!無理無理こわい!ルフの暴走狂!

 そのまま目をずっと閉じていたら、ふと速度がゆるやかになってきた。

 ゆっくりと目を開けたら……


「あっ……。」


 無残な、瓦礫だけが残る、村の跡。

 その向こうには、騎士、兵士達が大勢だ。

 争い。

 互いが互いを殺そうとしている。

 すでに動かない屍もある。

 なんて、こと。


「ラファティナ……。ここにいて。今から奇跡を見せることが出来るから。」


 ルフは軍勢に向かって歩みを進めていった。

 その片手には杯。


 一定の場所にきたときに、ルフは声を張り上げた。


「静まれ、東の者と西の者!其方らの醜き争いに、神は霹靂とされてらっしゃるぞ!これより我らの神を、この世に天界より遣わされる神を、顕現してみせよう!神の御元には人の存在に貴賤や上下はなく、ただ平伏することを赦されるのみである!」


 殺し合いをしていた軍勢がざわついた。

 そして、ルフは杯を天高く掲げた。


「神よ、我らの元に降臨し給え!!!」


 瞬間、まばゆい光が杯から放射線状に放たれた。

 光は波を打ち、空を貫き、揺らめく虹色のシャワーとなって地上に降り注ぐ。

 もはや一人も動ける者はいなかった。

 そして杯の前により強く神々しい光の粒が集合したかと思うとーーー


 パァン!!


 音が弾けた先にいたのは、


 その年齢、18の頃だろうか。一人の黒髪の少年が現れた。

 少年は見慣れない服装をしていた。

 まるで袋みたいな袖のある一枚の布を前あわせにして、幅の広い腰紐で締めたような。

 この世界にはない異風な風貌だった。


「神よ、よくぞこの地へおいで下さいました。さぁ、こちらの杯があなたが神たる証でございます。」


 神様の彼は状況がまだよく分かっていないのか辺りを見回した後に、おずおずと杯に手を伸ばした。

 すると私には見えた。杯から光があふれ出した。


「神様だ……。」


 思わず私の口から声が漏れた。


 武器を持った軍勢は、次々にその武器を落として跪いた。

 そこに戦意がある人間などもういなかった。


 そうやって、戦争が終わった。

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