11. 暴走親子と新星
セリアと名乗った可愛らしいエルヴァン族の少女は、私をキラキラとした瞳で見つめて言ってきた。
「ああっ、お会いできることを夢に見ていたそのお姿、どの角度から見ても美しいですわぁ!艶めく黒髪!透き通るような瞳!陶器のような肌!芸術ですわぁ!」
「あの、エルヴァンがこんな変人ばかりだと思われたら嫌ですから、その辺にしてもらえますか?」
セリアが恍惚の表情をしている途中で、クオルがストップをかけた。
私もいい加減そんな風に言われて恥ずかしい……。
「いやですわ。ラファティナ様の美しさを表現しているだけですのに、変人扱いしないで下さいまし。」
「そ、そう、あの、ありがとう。私に何か用?」
「はい!ラファティナ様!」
目をキラキラと輝かせてセリアが見つめてきた。
「実は、私たちの村にも王国の人材募集のお話が流れてきましたの。わたくし、聞き及んでいましたのよ。人間なのに、数多なるマナを操って奇跡を起こす、優しく美しい乙女の存在を……!!」
「過剰表現じゃないかな……。」
「お会いできないかと思っていましたら、守護官、黒髪の乙女、ラファティナ様が、有能な人材を国中で募集されていると外の者から聞いたのですよ!
これは運命だと思って、わたくし、泣きわめくお父様を殴って気絶させて王都まで出てきましたの!」
……殴って気絶?可憐な笑顔からは想像もつかないような台詞が飛び出してきたような気が……。
私が困っていると、ヴァルディが前に出てきた。
「話は大体分かった。親の了承もなく勝手に振り切ってくるような奴に割り振る仕事はない。」
「なっ、なんですって!いけずですわ!可愛いお耳のくせに、いけずですわぁ!」
「かっ……!と、とにかく、せめて親を説得してくるんだな。」
「くすん。」
今までの騒がしさが嘘のように、小さくなってしょげるセリア。
それを見ているとなんだかいたたまれなくて、話だけでも聞いてあげたい気持ちになってきた。
「ねぇ、セリア、だったよね。セリアは何が得意なの?何がしたくてここに来たの?」
私が聞くと、セリアの表情は、ぱぁと明るくなった。
「はい、ラファティナ様!ご存じかもしれませんが、エルヴァン族はマナを杖で操り、陣を描いて発動させます。通常であれば、人間はマナを察知することが出来ませんが、私の描く陣は人間にも視認可能なのです。」
「「なんだって!?」」
その場にいたクオルとガランさんが一斉に身を乗り出した。
「馬鹿な、マナの陣がエルヴァン以外にも見えるだと!?」
「そんな常識、あ、あ、ありえませんよ!」
「ありえますわ。ほら。」
セリアは懐から羽のついた杖を出すと、空中にシャラシャラシャラと音を出しながら陣を描く。その陣の中央からは水で出来た魚がちゃぷちゃぷと出てくる……
「見える……。」
「俺たちにも陣が見えるな。」
サティ、ヴァルディ、ネロは魚が出てきた陣をしげしげと眺めている。
クオルは口をぽかんと開けて、ガランさんは慌てたようにセリアに言った。
「消せ!今すぐ消せ!それを見られるな!」
「な、なんですの?はい、消しましたわ。」
セリアが杖の先をくいっと向けると、陣も水の魚も消えてしまった。
焦ったようにガランさんがまくし立てた。
「あんたな、今のが他の連中に見られたらどうすんだ。人間やズォン族にも見えるエルヴァンの陣なんて、悪用方法なんて五万もある。例えば人間に捕まって陣を描かされ続け、それを解明されてマナの兵器にされるかもしれない。そういうことは考えたことはあるか?」
セリアの顔がさっと青くなった。
事態の深刻さが分かったようだ。
私もそこまで考えたことがなかったから、今ここで危険性が知れて良かったと思った。
「ごめんなさい、浅はかでしたわ……。」
「分かればいい。しかし、そんな危険性も浮かばないような箱入りで、あんたよく育ってこれたな。」
「はい、私は……」
「セリアちゃあああああああああああん!!!」
遙か彼方から聞こえる爆走音。
シルエットが近付くにつれ見える全貌。
壮年のエルヴァンの男性が猛ダッシュ。
手、足、腰に描かれたおそらく体力ブースト用の陣。
こちらに、突っ込んでくる。
「セリアちゃんんんん!お外は危ないから駄目だよおおおおおおおおおお!!!」
「げっ!お父様ですわ!」
「え!?ど、どうしよう。受け止めたほうがいいよね。」
「きっさまぁ!!セリアちゃんを誑かした黒髪のなんとかだな!!許さん!!」
速度をより早めて私に向かってやってくる!だめ、ごめんね!お父さん!
「発動してる陣、全解除!!」
パキン!と、セリアのお父さんの全身を纏っていたブースト用の陣が解除された。
その瞬間、支えを失ったその体はぱたりと倒れた。
「わ、ご、ごめんなさい、セリアのお父さん!怪我はない?」
「う、うぐ……これが……黒髪の乙女の力、か……。」
抱えて起こすと、なんとも言い難い表情でこちらを見てくるお父さん。
そしてその後ろで、高らかに笑っているセリア。
「おほほほ!お父様!ラファティナ様のお力に勝とうだなんて、1億年早くってよ!」
ネロがぽそりと「いつまで続くの、これ」と言う。
「改めて、セリアの父のヒューズと申します。お恥ずかしいところを……。」
「まぁ、もう気にしないで。娘さんの件ですよね。」
「はい……。知ってるかとも思いますが、セリアちゃ……セリアですが、それはもうラファティナ様のファンで、一緒に働くと言って聞かなかったんですが、この子には他のエルヴァン族にはない特性があります。」
「それが、他の種族にも見えるマナの陣、だと。」
「はい……。」
親御さんからしたら、それは自分の目の届くところにいて欲しいと思うだろうな。
ただでさえ人間から狙われる種族。珍しい能力者。
「もう、お父様は過保護ですわ。古きエルヴァンの長だとかなんだかの娘っていうので、わたくしは昔からあまり外にも出してもらえなかったんですのよ。」
「だ、だってそれは仕方なかったというか……。」
「それに本当の私の素晴らしさを、まだ皆様にお見せできていませんでしたわ。」
「本当の……?」
「はい、ご覧になって下さいませ……それ!」
セリアの杖の先が微細に宙を舞う。サラサラとダイヤモンドダストを吹き出して、大気に氷のつるバラのアーチを作り上げていく。
「こ、こらセリアちゃん!こんなことやったらだめ!!」
「わたくし、美しいものに種族は関係ないと思っておりますの!絶対に私に皆様魅せられますわ!エルヴァンの中でもわたくしにしか出来ないこの力、いつかこの国に革命を齎せますわ!」
そうこうしているうちにも、薔薇の大輪は辺りを覆い尽くしていく。
路上に出てきた人達も、あまりの光景に、呆気にとられている。
「駄目だ、もう隠すとかできねぇぞ。」
ガランさんが頭に手を当てて唸った。
「仕方ないねぇ。城の中が一番安全だ。身の安全もかねて、ご要望通りお仕事をして貰いますか。」
ネロが笑いながら軽く言った。
「やりましたわ!ティナ様ファンクラブ第一号、セリア、精一杯働かせて頂きますわぁ!」
「ファンクラブはいいから……。」
セリアは飛び跳ねて喜んでいた。
そしてその後ろのセリアのお父さんは、抜け殻のように干からびている。
とりあえず中に運ばなければ。
騒がしい一日が始まってしまった。




