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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
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10. 共に生きる日のはじまり

 朝の光が白壁の邸宅に差し込み、真新しい木の香りが残る台所に柔らかな明るさを広げていた。

 私はサティと肩を並べて、切った野菜を鍋に放り込み、卵を焼いた。


「ティナ、こっち、味見して!」

「どれどれ。わぁ、美味しい!サティ、上手だね。」

「えへへ。ありがと。」


 小さなやり取りが楽しくて、自然と笑みがこぼれる。

 台所の棚も広くて使いやすい。

 これから毎日、みんなで食卓を囲んで、色んな話をして……そう思うと胸が温かくなった。


 すると、玄関の方から人の声がした。


「守護官様-!朝の収穫をお裾分けに持って参りました!」


 慌ててサティと顔を見合わせ、玄関へ出てみると、籠を抱えた農家の夫婦が立っていた。籠の中には焼きたてのパンや真っ赤な林檎、まだ朝露が残る野菜がぎっしり詰まっている。


「こんなに……!ありがとうございます。」

「いえいえ、守護官様に食べてもらえるなんて光栄でしてな。」


 私が深く頭を下げると、夫婦は嬉しそうに手を振りながら帰って行った。

 サティは籠を抱えて、


「たっくさん!今日、使い切れないね!」


 と目を輝かせながら言った。




 しばらくすると通りを駆けていく子ども達の声が響いた。

 台所の窓から覗いてみると、驚くべき光景が目に入った。


「……えっ?」


 白い髪を揺らしながら駆けていく小柄なエルヴァン族の少年。

 大きな狐耳を揺らしながら人間の子どもと笑い合うズォン族の少女。


 エルヴァンとズォンの子どもが、人間の子どもと手を繋ぎ、同じような鞄を背負って学校へ向かっている。

 彼らの笑顔は自然なもので、周囲の大人達も「行ってらっしゃい」と当たり前のように声をかけていた。


「……凄い、色んな種族が……いつの間に?」

「苦労したぜ?」


 いつの間に来たのか、椅子に座ったヴァルディが声をかけてきた。


「ズォン族も人間に対しては警戒心が高いし、地方によっては人語を理解している層も少ない。人間だって当たり前に、異種族に対しては偏見や差別がある。

 この隔たりを少しでもなくすには、まずは軋轢の少ない子ども同士を学校という括りで学ばせ、交流させよう……というのが、アルマ先生のご意見だ。あ、これ貰うな。」


 ヴァルディはテーブルの上のパンをかじった。


「なるほど……。種族で差別しない勉強をさせれば、少なくとも子ども達はお互いを差別しあったりはしにくいものね。」

「まぁそんなに簡単にはいかないけどな。現時点で同じ種族でも、宗教観や食文化の違いっていう課題も生まれている。とりあえず踏み出すだけ踏み出したって感じだ。」


 そっか。種族が同じでも、色んな宗教があったりするんだ……。

 歴史上では宗教の違いが色々な対立を生んだらしいもの。この世界だってそう簡単にはいかないよね。


「ティナ、ご飯、できた。みんな、呼んできて!」

「はぁい!」


 サティが仕上げをしてくれた料理を運びながら、私は寝ている皆に声をかけた。




「治安問題?」


 皆で食事を取りながら、情報を共有する。

 クオルは遠くにある皿を「それとって下さい!」とヴァルディに言いながら話し出した。


「はい。胸くそ悪い話ですよ。僕らのいた村ではなかったみたいなんですけどね。この嵐の混乱に乗じて、特にズォン族やエルヴァン族を狙った人攫いが横行しているみたいなんです。なんでも他の国に奴隷として売るみたいです。」

「奴隷!?」


 この国の中でそんなに酷いことが行われているなんて……。

 優先的に問題とすべきことだと思った。


「そんなこと許しちゃ駄目だよ!早く対策を立てないとね。」

「そうですよ、そうですよ。僕も今、防衛部門と協力して治安維持に力を入れているんです。」

「ほーう、いいことじゃないか。人攫い対策の強化だってよ、ネロ。」

「……悪かったって。」


 前科のあるネロがまたヴァルディにいじられている。

 もぐもぐと口にご飯を頬張りながら、クオルは続けた。


「僕たちと連携して、マナの陣を開発してくれる優秀なエルヴァンがいてくれたらいいなぁ。僕は正直、異種族共生部門で手一杯ですし。」

「あぁ、それなら俺も防衛部門にズォン族が欲しいと思っている。人間は俺たちから見たらどうもひ弱だ。災害救助活動一つをとっても不安がある。」


 一通りご飯を食べ終えたヴァルディが真面目に語り出す。


「後は法整備。これは追々出てくる問題になってくるだろうが、種族が入り交じると、曖昧になってくる部分が多い。税の徴収、教育の均等化、仕事の配分、考えなければいけないことは山ほどある。」

「そうなんだ……。」


 私はまだまだ広がる問題の多さに、不安よりも身が引き締まる思いがした。

 多分少し前の私だったら、私がここにいることは分不相応だって震えていたかもしれない。でも、励ましてくれた皆のおかげで、私は自信が持てた。

 ご飯を食べ終えたら、また張り切って仕事に行こう。そう思えた。


 朝の支度を終え、邸宅を出て城に着くと、一人のエルヴァンの少女が立っていた。


 長い髪を2つに緩く結んで、白いレースのリボンのワンピースは可愛らしい容姿にとても似合っていてまるで妖精のよう。

 ーーーその子が私を見るや否や、全力ダッシュで駆け寄ってきて早口でまくし立ててきた。

「くっっ【黒髪の乙女】ラファティナ様ですわぁぁ!!わたくし、拝見させて頂きたく思ってました!!ああ、想像の百倍麗しい!!是非とも私をあなたのお力にいいいい!!」

「落ち着け、誰だお前は!」


 壁に押しつぶされた私から、べりべりとその子を剥がしてくれたのはヴァルディ。

 その子は、はっとしてから服をちゃんと整えてぺこり、とお辞儀をする。


 エルヴァンの特徴、白い髪、赤と青の目、小柄な体が非常に似合う、とてつもなく可愛らしい子。

 その子はにっこりと笑ってこう言った。


「ラファティナ様、ご機嫌麗しく!わたくし、セリアと申します。エルヴァンの中でも随一のマナの陣の美しさを描き上げる芸術家ですの!ラファティナ様のお役に立ちたい一心で、お城に参上致しましたのよ!」

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