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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
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9. 邸宅

「こいつが【神を殺す短剣】か……。強烈なマナを感じるな。」


 サティに短剣を持ってもらって、私たちはガランさんとクオルの部屋に集まった。

 ……といっても、ヴァルディとクオルは熟睡中。その場にいるのは、ガランさん、サティ、ネロと私。

 ガランさんが慎重に短剣を手に取り、赤と青の目でしげしげと観察していた。


「どうでしょうか、ガランさん。この短剣を封印することは可能ですか?」

「ああ、やってみるよ。しかし、工房がないことにはどうにも出来ねぇ。」


 短剣をかちゃり、とガランさんが置く。

 その一挙一動にも体がざわつく思いがした。短剣の存在が恐ろしくて、思わず服の裾を掴んで握った。


「ティナ?」


 心配そうにこちらを見るサティ。


「……その短剣、危険なものですけど、ガランさんが預かって頂くことはできますか?私が近くにいたら……その、また、制御が効かなくなるんじゃないかって……。」


 前世で人の肉体を刺した感触が今も忘れられない。私の手は柄から離れなくて、気持ちの悪い感触がその柄の先から伝わってきて……。

 頭がずきっと痛み、目を閉じた。


「ティナ、ティナ!しっかり。顔が真っ青だ。」


 ネロの声が聞こえる。

 ゆっくりと瞼を開けると、ネロに両肩を抱きかかえられ、皆の目線を集めていた。

 私が息を整えていると、ガランさんが神妙な面持ちで口を開いた。


「ティナ、あんたがこの短剣で苦しんでいることはよく分かった。絶対にこいつは俺がなんとかしてやるから安心しろ。それと、封印を行うまで、俺が厳重に保管しておいてやる。誇り高きエルヴァンの職人の名において、約束するから。な。」


 その言葉に涙が出そうなくらい安堵した。


「よろしくお願いします……。」


 そう呟くと、サティが優しく手を握ってきた。


「ティナ、大丈夫。私達、ついてる。一緒だよ。」

「うん!」





 皆が励ましてくれて、私の気分はかなり楽になっていた。

 翌日からの業務にも身が入り、指示や決定もてきぱきと対応が出来た。


 そしてーーー


「おぉぉ……。」

「こいつは……すごいな。」


 職人達に呼ばれて出てみれば、立派な外観の城壁の邸宅。

 過剰な装飾はなく、陽を受けて輝く壁面は清廉さを感じさせる。


 扉をくぐれば、広すぎず狭すぎない石畳の玄関が迎えてくれる。

 奥にはみんなの分の部屋が用意されていて、客室まで完備されていた。


「こちらを守護官様方の住居として利用して下さい。」


 職人の方が言ってきた。

 サティもクオルも中に入ってはしゃぎまわっている。


「新しい、おうち!新しい、おうち!」

「これはこれは、素晴らしいですね!どこに護衛陣を敷きましょうか。あ、サティ!そっちは僕の部屋にしたいです!」

「はやいもの、勝ちー!」


 二人はぴょんぴょんと飛び跳ねて、仕舞いにはヴァルディに怒られていた。

 笑っていると、ガランさんから声をかけられた。


「よう、ティナ。工房もあと少しで完成するって話だ。そうしたら安心しろよ。あの短剣も封印してやるからな。」

「はい、ありがとうございます!」


 こうして私たちの王都での暮らしが本格的に始まった。




 新しい住まいは、まだ木の香りが残る真新しい邸宅。

 城壁が朝陽に照らされて輝き、過剰な飾りこそないものの、りんとした清廉さが漂っている。


 サティは台所に立った途端、目を輝かせて声を上げた。


「ここ、すごいね!水場も広い!ご飯、沢山作れる!」


 戸棚を開け閉めしながら小さく跳ねる姿に、私まで嬉しくなった。


 一方のクオルは、壁や床をじっと観察していた。


「入り口に大きく護衛陣を敷けば、結界としてかなり機能するし……あ、玄関にも沢山!!」

「勝手に刻むな馬鹿!」


 ヴァルディの鋭い声が飛ぶと、クオルは肩を竦めてしゅんと黙り込んだ。

 その様子にネロが肩を揺らして笑い、


「いい家だね、ティナ。ふかふかの寝床があって風呂もあって、皆が安心できる快適そうな家じゃないか。」


 その声に、「そうだね」と返す。


 私は窓辺に置かれた机に腰を下ろして、そっと手を置いた。

 小さな書き物机と椅子。

 ほんの些細なものに過ぎないのに、胸の奥がじんと熱くなった。


 ーーーこれは、私の居場所なんだ。

 色々あったけど、ようやく腰を落ち着けることが出来た自分の空間。


 ふと、その時外から、子ども達のはしゃぐ声が聞こえてきた。


「ねぇ、本当にここに【黒髪の乙女様】が住んでるのかな?」

「見てみたい!」


 門の外に集まった子ども達が背伸びをして中を覗こうとしている。

 通りすがりの大人達も足を止め、白壁を仰ぎ見ながら囁きあった。


「ここが【守護官】様のお屋敷らしい。」

「噂は本当だったんだな!」


 視線を感じ、私は緊張して窓の側から隠れた。

 だけど近くにいたサティが外に向かって手を振ると、子ども達は歓声を上げて駆け去って行った。

 人々の瞳には、畏れよりも、憧れと期待の色が宿っていた。


 私たちの新しい暮らしがここから始まる。

 【守護官】としての務めを果たす日々が、この家を拠点に積み重ねられていく。

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