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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
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8. 隣に立つ誓い

「……っていうことが、市場に行ったときにあってね。」


 王都の市場から城に帰ってきた後、荷物を片付けて近くを通りがかったネロにお土産のペンを渡すついでに、アスヘルとあった出来事を報告した。

 ネロはぽかんと口を開けた後、両肩をがっしり掴んですごんできた。


「ティナ……たまには一人で息抜きしたいのは、分かる。」

「は、はい……!」


 滅多に怒らないネロが、じんわりと怒りを滲ませていた。

 こんな美形が怒ると迫力が凄い。私は目を反らせずにいた。


「俺は言ったよね。ティナは有名なんだから、自覚をして気をつけた方がいいって。聞いてなかったのかな?」

「ご、ごめんなさ……やだっ、耳ひっぱらないで!くすぐったい!」


 ネロにむにむにと両耳をひっぱられる。うぅ、反省してます……だって、まさかイサムの側近?みたいな偉そうな人が直接来るなんて思わないし。私だって髪を隠したら目立たないと思ってたし……。


「これからは一人での外出は禁止。他の連中はそれぞれの仕事とかあるかもしれないから、俺がティナについてる。いい?分かった?」


 その場に屈んで上目遣いにネロが確認してくる。うわぁ、長い睫毛、ガラスみたいな光彩を放つ碧眼。

 人形みたいな綺麗な顔に見つめられて、顔を赤らめながら頷いた。

 すると、ぽんと頭に手を軽く乗せられる。


「窮屈だろうけど、我慢して。皆ティナが大切なんだ。もちろん俺も。」


 頭に乗せた華奢な手が、優しく撫でてくる。

 さっきアスヘルに触られた時の、ぬらりとした気持ち悪さとはまるで違う。ネロの手はあたたかくて、撫でられるたびに、胸の中の不安がすっと溶けていくようだった。


「……分かった、外出するときは絶対にネロに声をかけるね。」

「よし、いい子だ。ついでに【守護官】の護衛が検討されてたみたいだから、俺も立候補しておいたよ。」


 一気に頭の中身が仕事モードに変更された。

 【守護官】の護衛?何それ。


「え、私そんなこと聞いてないよ?」

「そりゃあ、今日決まったみたいだからね。お休み中のお姫さんは会議に参加してないから。」


 私……そこにいるだけの役職だと思ったのに、私なんかに護衛?


「私、戦争なんかに出て行かないといけないのかな?今更だけど【守護官】って、何するんだろう。」

「大丈夫大丈夫、俺の大切なお姫さんを戦争なんかに行かせようっていうなら、そいつらの口が二度ときけないようにしてやるさ。【守護官】っていうのはあくまで国の護りの象徴らしいよ。ティナが国を守ってくれているから、皆が安心して生活できる。ティナが味方についてくれるから、希望が持てるっていう、御守りのようなものさ。」

「私が、御守り。」


 そう思うと、なんだか責任がより重大になってきた気がした。

 私の顔に困惑が出ていたんだと思う。ネロが安心させるように柔らかく声をかけてきてくれた。


「ティナは変に色々考えなくていい。何かあったときは俺が命に代えても守るから。」

「い、命に代えちゃ駄目だよ!」

「あははっ、優しいなぁティナは。大好きだよ-。」

「もう!!揶揄ってごまかさないで!!」


 廊下でネロと騒いでいたら、向こうからヴァルディがやってきた。


「お前ら、何いちゃついて遊んでんだ……。」

「いちゃ……!?何言ってんの、ヴァルディ!」

「はーい、俺とティナは仲良しだからね。いちゃいちゃしててごめんね。」

「ちょっとネロまで!!何もないから!……って、ヴァルディ大丈夫?顔色が悪いよ。」


 少しやつれた顔。よれた服装。ぼさぼさ気味の髪と、元気がなく垂れ気味の大きな耳。

 私が声をかけると、ヴァルディは「あぁ……」と力なく返事をした。


「部門長になってろくに寝てないんだ。俺が担当している共和調整局なんだが、まずはこの王国に【エルヴァン族】と【ズォン族】の集落がいくつ点在してあるかを把握する必要があった。【エルヴァン族】はとりあえずクオルに任せたが、残る【ズォン族】の集落の頭が固いこと……。人間相手はろくに話し合いにならない奴らも多いから、そいつらは後回し。話が出来る奴らの要望を纏めたりして、書類仕事と現場仕事に大忙し……。休みが欲しい……。」


 あぁ、ヴァルディが倒れてしまいそう!

 思わず駆けつけて寄り添おうとしたら、ネロが横からヴァルディの肩を掴んで私との間に割り込んできた。


「大丈夫だよ、ティナ。ヴァルディは俺が部屋まで運ぶから。」

「おい、ネロ。てめぇ、やり口が分かりやすくなってきたじゃねぇか。」

「何と言われても結構。運んでやるから感謝してろよ。」


 ぐぐぐっとネロが運ぶにしては無理のある体勢で、奥にあるヴァルディの部屋へ向かっていった。

 ……あの二人、仲がいいのか、悪いのか……。


「じゃあティナ、城外に行くなら俺に声をかけてね。」


 ネロがそう言うと、ヴァルディが何か言いたそうにしていたけれど、疲労のたまった体では抵抗むなしく無理矢理連行されていった。


 二人を見送ると、後ろからか細い声で「あぁ、ティナさん……。」と声をかけられた。


「クオル?あなたもヘトヘトじゃない。大丈夫?」

「あまり大丈夫じゃないです……。王国内の【エルヴァン族】の集落は、ほとんど今回の立案に賛成意見が多かったんです……それはいいとして、要望が多い!医療、交通、教育、他も色々を、人間と同じレベルにして欲しいって……急には無理だから順番にっていってるのに、意見が溢れて止まらない!それを纏めるのは僕!眠たい!寝たい!うわぁぁ!!」

「お、お疲れクオル。もう休めるの?」

「はい……ようやく。3時間だけですけどね。へへっ。僕は部屋に行きます……。」

「うん、せめてゆっくり寝て……。」


 皆大変なんだ。皆と話す機会が減って少し寂しいと思ってたけど、そんなこと言ってられないや。私も仕事をしなきゃ。


 自分の部屋に戻ってくると、サティがいた。

 久しぶりのサティ!嬉しくて思わずそのふわふわの髪の毛に飛びついた。


「サティ!会いたかったよ!」

「えへへ、ティナ。私も!」


 ふんわりとサティが笑って、改まった顔で話し出した。


「ティナ。私、短剣、持ってきた。封印、作って、もらおう。」


 心臓が跳ねた音がした。神を殺す力を持つ短剣。

 あれを封印するのもこの旅の目的の一つ。

 私の手には汗が滲んだ。

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