表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
47/51

7. アスヘル

 その日は久しぶりに取れた休暇だった。

 私は王都の市場へ出かけて、その賑わいに心を和ませていた。


 お忍びなので、髪の色が分からないように深くフードを被って、人の間を縫って歩く。

 焼き菓子の匂い、子ども達のはしゃぐ声。

 それらが嬉しくて、夢中になった。


「みんなにもお土産を買って帰りたいな。」


 ヴァルディは何が喜ぶかな?珍しい食べ物がいいかなぁ。サティは可愛いぬいぐるみでしょ?クオルは前に綺麗な陶芸品を見てたから、同じようなものを。ネロは……何が喜ぶんだろう?使ってたペンが折れてたみたいだから、代わりになるものを買おうかな。

 ガランさんにはせっかくだからマナの強そうなものをあげたいな。そして、私を気遣ってくれたアルマさん。綺麗な飾りを贈りたいけど……喜んでくれるかな?


 浮かれ気分で、気に入ったものを一つ一つ購入した。

 仕事のお給金をもらったのは初めて。それはやっぱりお世話になった人に返したい。

 楽しく市場をまわっていると、一通り購入することが出来た。


 人混みをかき分けて、空き地の端でふぅ、と腰をかける。

 紙袋の中にはいっぱいのお土産。

 大切に抱きしめると、頭上から声がかかってきた。


「沢山荷物があるんだね。お嬢さん、持ってあげようか?」


 ばっと頭を上げると、細く背の高いシルエット。

 白い顔、白い指先、ウエーブのかかった長い前髪。細く妖しい瞳と目が合った瞬間、空気が歪み、粘つくような圧力が押し寄せてきた。


 ……この人は危険だ。

 直感が警笛を鳴らし、後ずさりながら立ち上がった。


「いえ、結構です。知人を待たせているので、また。」


 その場を去ろうとして、来た道を引き返そうとしたら、見えない壁にはじかれた。

 いや、違う、淡いマナだ。マナで壁が作られて、私の歩みを隔てられた。


「何、これ……。」


 次の瞬間、透明な糸のようなマナが私の体に絡みつく。それはまるで蜘蛛の糸のように粘着性があった。


「触らないで!」


 糸がマナであれば私に恐れるものはない。

 絡みつく糸を私のマナで上書きし、バラバラに引き裂いた。マナの糸は私に声をかけてきた人の手元から出ていた。


「あぁ。何て強いマナだろうか。ゾクゾクしてしまう。フードなんか被らないでおくれよ。もっとゆっくり話がしたいなぁ、ねぇ?」


 目の前の青年は、妖艶に微笑んだ。

 この青年は、私が誰かを知っている。そして、敵ーーー!


「あなたは誰?マナが使えるの?マナが使えるのはエルヴァンだけのはずよ。あなたはエルヴァンには見えないけど。」

「そうさ、僕はノーヴァだからね。ノーヴァのアスヘルって言うんだ。よろしくね。」


 さっと顔が青くなった。

 ルフと同じノーヴァ。ノーヴァが敵に回っている?どうして……


「まぁ色々あって、今はイサム君が主人なんだけどね。ご命令で君を観察に来たんだけど……イサム君が執着する君はさぞかし魅力的なんだろうねぇ。」


 アスヘルが素早く動いて目を丸くしていると、私のフードをがばりと取られた。


「あぁ、なんて美しい黒髪!天使の輪が何重にもできてるじゃないか。」


 ぬらり。私の頭にアスヘルの手が触ってきて、生理的嫌悪が止まらなかった。

 思わずマナを凝縮してその手をはじき返した。


「やめて!」

「怒らせてしまったねぇ。ごめんね。」

「イサムが主人……?イサムは今どこで何してるの?」

「知らないのかい?イサム君は【聖アグノス帝国】で、現世に現れた【神】として祭り上げられているよ。」


 ショックで言葉が出なかった。

 嫌がっていたはずの【神】の立場を、また望んでイサムは……。


「【神】となった彼は最高だよぉ。冷徹、冷酷なのに時に子どものように無邪気で。そして二言目、三言目には、ラファティナ、ラファティナって君の名前を呼ぶんだ。まるで呪いのようにね。」


 にんまりとアスヘルが不気味な笑顔で言ってきた。


「僕はね、強ぉい人の心が大好きなのさ。イサムはとっても面白い。彼についていたら、退屈はしないだろうな。それに……」


 アスヘルがこちらを向いて口を開いた。


「彼が執着する君。実際に見てみたら想像以上に魅力的だった。類い希なマナの力、美しい容姿と瞳、何より、純粋で【美しい(おいしそうな)】心。ーーー僕が直々に壊したくなったよ。」


 笑い声を耳元で囁かれ、思わず力の限り振り払った。

 が、すでに素早く躱されていた。


 空き地はおそらくマナの結界のようなものが張られ、人目からは感づかれないようになっているのだろう。

 逆にいい気がしてきた。

 多分このアスヘルって人には加減はいらない。というか、色々腹が立つ。


「アスヘル、だよね。イサムが主人って言う割には、イサムのことを全然尊敬してるようには見えないね。」

「そんなことないさ!あれ?でも、それでラファティナは怒ってるの?」

「主人というなら、他人の前でも主人のことは立てなさいよ。失礼だから。」

「……ラファティナ、君はいい子だね。本当に可愛いね。」


 ばちり、と、アスヘルの両手の間でマナが弾けた。

 あれは風のマナ。私が同じく風で揺らせば攻撃が来たときに大事故になりかねない。

 私は手に大気中の水を溜めた。大気には水蒸気がある。それを集める……できる限り。


「何それ……そんなことも出来るの?」


 アスヘルの声が聞こえるけど、関係ない。

 攻撃が来る前に、空中に水の玉を飛ばした。


「風を覆え。」


 私が命令すると、アスヘルの両手の間にあった風のマナの塊は、私の水のマナにすっぽりと包まれた。

 アスヘルはマナを動かそうと四苦八苦しているみたいだけれど、上手くいかない。


 私はアスヘルの元へ歩んだ。

 そして、彼の頬に思い切り平手打ちをした。


「!!?」

「私、初対面の人にそこまで不快感を感じることはないんだけど……なぜか、あなたにはこのくらいしても大丈夫な気がした。」


 叩かれた頬を呆然として手を当てていたアスヘルだったけど、周囲のマナの結界を解いて、すっと距離を取った。


「あははは!ラファティナ、最高!君、最高だよ!!また会いに来るよ。その時はデートして欲しいな。次はもっと……深く触れさせてね?」


 軽く手をひらひらとさせ、アスヘルは人混みに消えた。

 後に残されたのは紙袋。胸のもやもやをはらすために、紙袋を両手にしっかりと抱え直した。でも、その手は微かに震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ