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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
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6. 幕間 神座より宣告

 ここは帝国の神の間。


 天井は星空をもした黒曜石のドームで、そこに散りばめられた宝石が燦然さんぜんと輝いている。

 壁面には黄金の装飾が幾重にも施されている。

 床は磨き上げられた白の大理石。歩けば靴音が冷たく響き、長大な赤の絨毯は玉座へと真っ直ぐ伸びている。


 玉座に腰掛けた僕の背後には、杯を象った巨大なステンドグラスが嵌め込まれており、そこから差す光は虹色に歪んで、広間全体を異様な色彩で満たしていた。


 ……この空間は、僕のためにある。

 恐怖も、畏怖も、信仰も、全てを束ねるための舞台。


 その昔、僕は無理矢理この世界に連れてこられていた。


『神よ、よくぞこの地へおいで下さいました。さぁ、こちらの杯があなたが神たる証でございます。』


 そう言って渡された銀の杯がひとつ。

 人々は僕を神と崇め讃えた。


 下らなかった、何もかも。


 僕は元の世界に帰りたかった。僕を待っている人達がいるのだから。

 お前達の都合なんか知らない。謎の力を持った杯はそれでも、僕を元の世界に戻す力を発揮してくれることはなかった。


 何もかもが憎くて、壊してしまいたかった。

 そんな時に会ったのがラファティナだった。

 僕の話を聞いてくれる彼女の瞳は真っ直ぐで、嘘偽りがない。張り詰めていた僕の心が一気に解れるのを感じて、僕は彼女に恋をした。


 それは初めての恋で浮かれていた。

 彼女が訪ねてきてくれたとき、嬉しくて嬉しくて。彼女の願いなら何でも叶えてあげようと思った。


 でも、彼女が来たのは僕を殺すためだった。


 体の中を切り裂く刃。

 その柄をしっかりと握るラファティナ。

 全身を破滅させるような痛み、熱さ、ーーー同時に全てを凍らせるような冷たさ。


 ゴボゴボと絶え間なく吐き出される血の塊。

 目の前には号泣する君の姿。


(あぁ、裏切られたんだ……。この世界で唯一の光に。)


 薄れゆく視界で、呟く最後の言葉。これが呪いとなるように……


『許さない……絶対に、お前だけは……』


 僕の意識はそこで途切れ、悠久の時を彷徨った。

 そして僕は再び日本に生まれ直した。前世の記憶を持ったまま。

 幼いときから側にはあの杯があった。両親に聞いてもどこで手に入れたのかは分からないという。


 ーーー僕を追いかけていたんだ。

 これで僕はラファティナを……。


 彼女がどこかにいるという確信があった。僕が生まれ直したのだから、君も生まれ直しているはずだ、そうだろう?

 杯の力で君を探した。あれも違う。これも違う。あの瞳。あの、透き通るような真っ直ぐで純粋な……僕が恋したあの瞳を探した。


 そしてとうとう見つけた。僕と目が合った……!

 杯も言っている。間違いない、彼女がラファティナだ。


 彼女は僕と同じ日本に生まれ直して、日常生活を送っている。

 笑わせてくれる。僕を殺しておいて、人を地獄に落としておいて、何を自分は楽しそうにしているのだろうか!


 ラファティナを僕と同じ目に遭わせなければ。

 僕と同じように、異世界に飛ばしてやろう。

 そして、異世界で孤独になった彼女は涙を流しながら僕に謝罪し、僕に縋り付きながら生きるのだ。

 考えるだけで胸がすくような思いだった。


 ーーーこの世界に彼女を引きずり込んだ当初は、そう思っていた。


「報告致します。サルディア王国にて、【黒髪の乙女】ラファティナが、【守護官】として任命されました。民衆は歓呼をもってこれを迎え、王自らがその存在を認めたとのことです。」


 側近のノーヴァの一人、メルティアが言った。

 忠実な彼女の言うことだ。その情報に間違いがないことは分かっている。


 胸の奥が焼けるように熱くなった。

 ラファティナ。君は、孤独に震えて泣き叫ぶはずだった。

 それが、王に認められて民衆に讃えられているだと?


 そんな勝手は許していない。君は僕だけのものだ。

 僕を裏切り、殺した報いとして、孤独に沈むのが運命のはずだろう?


 なのに、何故そんなにも輝いている?

 何故王国の守護者としての肩書きを得て、人々から歓呼を受けている?

 あってたまるか。間違いだ。偽りだ。


「ーーー許さない。」


 玉座に置かれた両手が、肘掛けを軋ませる。

 今、再び舞い降りたこの地で、【神】と呼ばれ、恐れられ、崇められる僕がいる。

 この帝国の【神】として君を裁くのは、僕以外にはいない。


「ラファティナ……。」


 名を呼ぶだけで、胸が張り裂けそうなほどの憎しみと、渇望が入り交じる。


「許さない許さない。お前を壊してやる。僕の元へ跪かせて……僕だけを見ていればいいようにしてやる。」


 すると横から、「はぁ……」といった気持ちの悪い笑みと笑いが聞こえた。

 もう一人の側近、ノーヴァのアスヘルだ。


 奴は頬杖をつきながら、うっとりとして笑みを浮かべていた。


「はぁ、なんて素晴らしい歪みだろうね。愛憎、その矛盾と激情ーーー実に君は美しいねぇ、イサム。」

「いつもながら気色の悪い奴だ、アスヘル。そんなことを言う暇があるのなら、今度はお前がラファティナの偵察に行ってこい。」

「はい、我が主の御心のままに。」


 そのまま音もなく、アスヘルは窓の外へと姿を消していった。

 僕はその行方の先のサルディア王国がある方向へ視線を真っ直ぐに向ける。


 陽は沈みかけて一直線に僕を照らす。その眩しさに、僕は一瞬目が眩んだ。

 しかし、光などはいずれ僕のものになる。


「待っていろ、ラファティナ。僕が神として……必ずお前を裁く。」


 虹色の光を宿した神の間に、少年の嗤いが低く響き渡った。

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