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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
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5. 守護官

 泊まらせてもらっている自室にて。

 積み上げられた書類の山に、私は眉を寄せた。


 朝からずっとはんこを押して、署名をして、要望を整理して……正直、もう指がしびれている。

 それでも「もうひと頑張り!」とペンを握り直したところで、部屋にノックの音が響いた。


「はい、どうぞ。」

「失礼します、ラファティナ様。お忙しい中恐れ入りますが、すぐに王都の中央広場までお越し下さい。」


 恭しく礼をする兵士。どことなく表情が嬉しそうだ。


「広場にですか?何かあったんですか?」

「詳しいことは私からは申し上げられませんが……さ、とにかく。国王陛下がお待ちです。」


 胸がドキリと跳ねる。

 何か起こりそうな予感と不思議な高揚が入り交じったまま、私は兵士に連れられて部屋を後にした。





 城門を出ると、中央通りが人で埋め尽くされていた。

 普段は行き交う馬車や露天で賑わう通りが、今日は兵士達に両側を固められ、その真ん中に私が通るための道が作られている。


「な、なにこれ……?」


 視線をあげると、あちこちから歓声が沸いた。


「あっ、【黒髪の乙女】様だ!」

「こちらを向いて下さい!」

「王国を救って下さる方!」


 みんなが手を振っている。声を張り上げている。涙を拭う人までいる。

 なに、何が起こっているの?

 私の足は一気にすくんでしまった。


「ラファティナ様、どうかお進み下さい。」


 兵士に促され、私は震える足を一歩踏み出す。

 人々が作った道を進むたび、歓声は大きくなっていった。

 息が苦しかったけど、私はなんとか歩みを進めた。




 やがてたどり着いたのは王都の中央広場。

 円形の石畳の中央には高い壇が設けられ、その上に王が立っていた。

 金縁のマントが翻り、陽光を浴びて輝く。まさに【国の象徴】といった感じで、威厳に満ちあふれていた。


「よくぞ来てくれた、ラファティナよ。」


 王の声が響いた瞬間、広場に静寂が訪れた。

 数多もの視線が私に注がれている。喉がカラカラで、何が起きるかも分からない状況に身が破裂しそうだった。


「皆、聞くが良い。この国は稀に見る大いなる厄災……天災に見舞われた。しかし今、民を救い、国を立て直そうとする力が現れた。皆の希望が舞い降りた。それが、この黒髪の乙女、聖なる力、ラファティナである!」


 王が高らかに告げると、群衆は一斉に歓声を上げた。

 その声はまるで大地を震わせるようで、私は呆然と立ち尽くした。


「ラファティナよ、こちらへ。」


 王が壇上から手を差し伸べた。

 震える手を伸ばすと、王は私を段の上へと導いた。


「この時をもって、我は、ラファティナへ【守護官しゅごかん】の位を与える。汝は国を護り、民を導く者なり。我らは汝に忠誠を誓い、共に歩むことを誓おう!」


 その言葉と共に差し出された剣の柄に、私は思わず手を置いた。

 広場を埋め尽くす民が一斉に声を上げた。


「ーーー【守護官】様、ばんざい!!」


 旗が振られ、花びらが舞い、私の名前が波のように響き渡った。


 まだ何が起こっているのか理解が追いついていない。

 ものすごいことが起きているんだと言うことが、ぼんやりと人ごとのように思い浮かんだ。


「そなたは希望の象徴だ。」


 王が肩に手を乗せて頷き言った。

 希望の象徴ーーー皆の役に立てているのなら。


 私には重いかもしれない、でも、この輝く皆の笑顔を守りたい……!

 私は陽光に向かって微笑んだ。





「ちょっといいかな。」


 その日の夜、落ち着かない気持ちを抱えている中、私の部屋を訪ねてきたのはアルマさんだった。


「アルマさん!?何かありましたか。あっ。どっ、どうぞ。」


 私はソファに移動して、アルマさんに向かいの席へ座るように促した。

 アルマさんはゆっくりと移動して、すっと着席する。


 近くで見ると本当にとても綺麗な人だ。でも、皆の前で苛烈なことを言っていた彼女のことを思い出して萎縮する。

 何を言いに来たんだろう。

 きゅっと身を縮こまらせていると、アルマさんが口を開いた。


「今日はよく頑張ったね。」

「え……?」


 てっきり、何か怒られるものだと思っていた。

 驚いて目をぱちぱちと瞬かせると、アルマさんは柔らかく笑った。


「疲れただろうから、早めに休ませてあげたかったんだけどね。その前に労ってあげたくて。あんな五月蠅い観衆達にまみれて、もし僕だったらその場で国王に剣を投げつけて恥をかかせてやるところだったよ。」

「えっ!?」

「ははっ、冗談。」


 本当に冗談か分からない雰囲気で、彼女は足を組み直す。

 プラチナブロンドの美しい髪が、ランプの光を反射して、ガラスの糸のように煌めいた。


「ラファティナ。君はいくつだい?」

「17才、です。」

「そうか、17、か。」


 ふっとアルマさんは優しく目を細めた。

 正直とても今は驚いている。あまりにも昼間と印象が違いすぎて……


「……アルマさんは、どうして厳しいことを言われるんですか?」


 きょと、とアルマさんが目を開けた。

 ーーーしまった!!私ってば、なんて失礼なことを!!


 あわあわと取り繕おうとしていたら、吹き出されてしまった。


「君は正直だ。理由は単純さ。情けない奴、愚かな奴、ろくでもない奴ばかりだからさ。」

「え?」

「おかしいと思わないか?君はまだ17だ。この国では成人にも満たない少女だ。遊びたい盛りに、国家の命運を背負わされて、その横でいい年した男達が俯いて何も出来ない?はっ。滑稽以外に何て言うんだろうね。そんな奴らばかりだから腹が立つんだ。」


 その声は昼間の鋭さとは違った。

 淡々としているのに、深い怒りと憐れみが混じっている。


「僕は学者だ。理不尽を見過ごすことは嫌いだ。だから叱り飛ばす。……それだけ。」


 私は胸がいっぱいになって、しばらく何も言えなかった。

 やっとの思いで口を開く。


「……アルマさんは、優しいんですね。」


 すると彼女は肩を竦め、わざとらしく鼻で笑った。


「優しい?違うね。僕はただ、やりたいようにやる。言いたいことを言ってるだけさ。」


 そう言って立ち上がり、私の横を通り過ぎるときに、ほんの一瞬私の頭を軽く撫でた。


「君はもう十分頑張っているよ。後は大人達に任せておけばいい。」


 その一言に、胸がじんわりと温かくなって、自然と笑みがこぼれた。

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