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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.6 王都
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3. 要望の山、希望の束

 翌朝、王城の一角ーーー陽のよく差し込む回廊の広間に、兵士達が木箱を4つ、どさっと運び込んだ。

 箱の側面には大きく【要望箱】の印。

 上から被せた蓋を外せば、紙束がふわりと舞い上がった。


「……本当にこんなに集まったんだ。」


 書記官達が机を並べ、ペンと砂を用意してくれる。

 クオルは紙束が散らばらないように簡素な陣を描き、ガランさんは手早く木片と金具で【紙留め】を作り、山を束ねた。


「じゃあ、読み上げは私が行う。皆、分類やまとめをお願いします。」


 私が言うと、ヴァルディが頷き、ネロは壁際で周囲に目を配る。サティは机の端にちょこんと座って、目をキラキラさせた。

 王も再奥の席に腰を下ろし、臣下達が左右に控える。


 私は一枚目をつまみ上げ、深呼吸した。


「『川に架かる橋が落ち、子どもを学校に送ることが出来ません。丸一日、遠回りです。助けて下さい。』……橋、ですね。インフラ関連に入れます。」

「急務だな。現地確認と資材の手配が必要だ。」


 ヴァルディの声が低くなる。


 二枚目。


「『畑が水に沈みました。来月の食べ物がありません。』」


 サティが小さく眉を寄せる。


「おなか、すいちゃう。大変…。」

「あぁ、これは食料・農政の分類でいいんじゃないか?」


 ネロがペンを取り、紙の縁に印をつけた。


 三枚目。


「『薬が足りない。病気が広がっている。子どもが夜に苦しむ』……これは医療。」

「あのぅ……エルヴァンの癒やし手を王都に呼ぶ案もあります。」


 クオルが手を上げて発言する。王がこれに驚いた。


「なんと……そのようなことも可能なのか?」

「はい、自分の村の長はエルヴァンの技術を提供することにも協力的です。話を通すだけでもしてみてはいかがでしょうか。」

「おぉ、願ってもいないことだ……!こちらからも、可能な限りの支援を行うことを約束するとしよう!」


 クオルと王が握手をしている。

 エルヴァン族が住んでいるあの村は、今まで人間と関わりを持ってこなかったみたいだから、これは割と先進的なことじゃないだろうか。


 四枚目。


「『井戸が壊れています。水の味もおかしい。』」

「水源調査と浄化が要る。土木と医療のまたがり案件だな。」


 ヴァルディが即座に返す。


 五枚目。


「『夜道が暗くて怖い。灯りが欲しい。』」

「治安にも効く。」


 ネロが顎に手を当てた。


「灯りは盗賊よけにもなるからね。」


 ーーーよし、テンポは悪くない。私は胸の中で小さく頷き、次から次へと読んだ。


「『学校がもっと欲しい』『高等な専門分野を学びたい』……学者さんがいるかも。教育!」

「『皆の心が重いので、祭りを開いて欲しい』……文化!」

「『産婆様が少ない。学びの機会をもっと多くの者へ。』……医療と教育の連携!」


 積み上がる束。私の声にあわせて、ガランさんが色つき紐で束をわけ、クオルの杖でそれぞれの束がふわりと位置におさまる。

 書記官が素早く目録を作り、同じ要望には小さな記号をつけて重複を拾っていった。


「『税が高い!』」


 とたんに臣下達がざわつく。

 王も苦笑いし、それを見て私も思わず口元を押さえた。


「『王都の酒場が高すぎる』……」

「確かに。」


 兵士の一人が真顔で頷き、場がどっと崩れた。


「『黒髪の乙女様に会いたい』……ってえっ!?」

「抽選にするか?」


 ヴァルディがにやにやと笑っている。


「採用しないからね?」


 笑いながらも、私の手は止まらない。

 一枚一枚に書かれた手の震えや、泥の染み。紙の端の焦げ目。暮らしの重みが指先から伝わってくる。


「『東の村に、見慣れぬ旗の一団が通った。』」


 空気が、ほんの一瞬だけ引き締まる。

 王が目を細め、近侍が控えめにメモを取った。


「続けてくれ。」


 王の声は落ち着いていた。


「はい……『帝国の商人を名乗る男が、神の話を広めている』」


 臣下達が視線を交わす。

 私は紙を静かに治安の束に差し込んだ。


 その後も紙は尽きなかった。


「『通行料を下げて欲しい』」「『交易を行う道の守りを』」「『病人を運ぶ荷車が欲しい』」「『小さな市場が欲しい』」「『楽器を貸して』」「『仕事がない』」「『子どもに靴が欲しい』」


 私は読んで、皆は応えた。

 時に笑い、時に喉が詰まる。読み上げた紙束が、色とりどりの紐で分かれ、その山が広間に広がっていくにつれて、王国の輪郭がくっきりと立ち上がってくる。


「ーーーこんな感じですね。」


 最後の一束を置いて、私は大きく息を吐いた。

 王が静かに立ち上がる。


「よくやった、ラファティナよ。声はこれほどにあったのだな。」

「はい。次はこの束を、部隊ごとに動ける形にする番です。」


 私は紙の束に新しい紙を付け、ペンで走り書きをした。


<復興と開発関連>

・開発局

・災害観測院

・民生援護庁

<教育・文化>

・学び舎庁

・文化振興会

<外交・安全保障>

・共和調整局(多種族共生部)

・防衛庁

<技術部>

・職人工房組合


 考えてきたこと、皆で話し合ったこと、これまでの意見の紙にあったこと。

 それらを纏めて書き記すと、何かが形になったような気がした。

 王が走りがいたものを復唱し、臣下達が慌ただしくあちこちに文章を書き起こした。


「なるほど、よくまとめられている。後はこの部門ごとに【部門長】を選出することとしよう。皆のものよ、人材を早急に城へ集めてくれ。」

「「はっ!」」


 臣下達がばたばたと動いている中で、私は机の端に残った紙の一枚を手に取った。

 そこには切実な思いがひとつ。


『どうか、私たちの声が届きますように』


「届いたよ……。」


 小さく呟いて、私はその紙を【情報・記録】と分類された束の一番上に重ねた。

 それを見て王が、静かに微笑む。


 芽生えた部門はまだ頼りなくて、風が吹けば倒れそうだ。

 それでも、皆で手を添えれば、真っ直ぐ伸びていく。

 私たちはそれを、今ここから育て始める。


 広間の高窓から差す光が、分類された束に斜めの影を落とす。

 外では鐘が鳴り、王都の朝が動き出す。


 ーーーさあ、はじめよう。民の声が国を動かすんだ。

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