2. 届く声
私たちは、来客用に広い部屋を与えられた。
私とサティ、ヴァルディとネロ、クオルとガランさんが共有する三部屋。
「きらきら!凄いね!ティナ!」
「こらこらサティ、そんなに飛び跳ねたら埃が舞っちゃうよ。」
「むぅっ、ティナ、お兄ちゃん、みたい!」
頬を膨らませてむくれるサティ。サティが言うように、今は私がヴァルディの代わりだ。
……それにしても……。
上を見上げる。光を乱反射するガラスのシャンデリア。下には複雑な模様の絨毯。ふかふかの大きなベッドにソファ……どんなにジャンプしても届かないバルコニーの屋根……!!
「本当に、凄いところに来ちゃったね……。」
眼下に広がるのは城下町の景色。
大きく発展しているわけではないけど、何世紀も大切に扱われてきた建造物が沢山あると分かる。
写真から抜き取ったみたい。考古学が好きな人が見たら、たまらないだろうなぁ。
と、そこへ部屋をノックする音が聞こえた。
「ラファティナ様、国王陛下がお話の場を設けたいと仰いました。皆様ご一緒に、謁見の間へお集まり下さい。」
いけない、観光をしに来てるんじゃなかった。ちゃんと役目を果たさなきゃ。
両手で顔を覆って、「いくぞ!」と気合いを入れた。
謁見の間にて。
兵士達は息を潜め、臣下達も眉を寄せて王の言葉を待っている。
王はすぅと息を吸うと、低く響き渡る声で言った。
「嵐の被害はいまだ甚大である。各地で橋や道が壊れ、耕地は水に沈み、家を失った民は数えきれぬ。」
王の声は低く重い。
「更に東西の強国……【聖アグノス帝国】と【カレド連邦】は、我が国の弱り目を狙っている。民は不安に怯え、この国は今、大きな岐路に立たされておるのだ。
我も打開策を考えておるのだが……皆の意見を取り入れたい。何か策のある者はいるか。」
伏せられていた王の目がゆっくりと一人一人を追ってきた。
どうしよう。いい意見が言えたらいいんだけど。
なんとかしたい、なんとかしたい……
ふと、頭に思い浮かんだのはーーー
「あっ!」
気がついたら私は声を上げていた。
皆の視線が一斉に私に集まり、慌てて背筋を伸ばす。
「ラファティナ、どうした。言ってみよ。」
「あ、えっと……」
その時私の頭の中にあったのは、そう、
「こういう時って、分担を分けたらいいんじゃないかなと。その、【委員会】みたいな感じで……。」
「【委員会】?」
場がざわついた。
王は目を瞬かせ、臣下達が顔を見合わせて首をかしげる。
「えっと、体育祭とか文化祭とか、色々決めなきゃいけないとき。全部一人じゃ出来ないから、係を分けて、準備を任せて……ってあぁぁ!やだ、ええっと……」
違う、ここには体育祭とかないんだから、違う言い方にしてごまかさなきゃ!
「えっとつまり、王国でも、復興係とか、防衛係とか、分けて動けるようにすれば……きっと、もっと効率よくできるんじゃないかなって。」
一瞬の沈黙の後、ヴァルディが腕を組んで唸った。
「ふむ……つまり、部隊を細かく分けて役割を与える、ということか?」
「そう、ヴァルディ!」
「なるほど、戦の作戦分担みたいなものだな。」
ネロが口を開いた。
「なるほど。戦だけじゃなく、小部隊の役割分担っていうのは、何にでも応用がきく……。ティナ、悪くない案だ。」
兵士や臣下達も頷き合っている。
「なるほど……」
王が口元に手を当て、顎を押さえた。
「課題を整理し、それぞれを分けて担わせる仕組み……。確かに道理だ。
だが、何を優先するべきか。誰に決めさせるか。その辺りはどのように考える?」
「うーん……。」
難しい。何か分かりやすい項目や指標があればいいんだけど。
もっと広い目線があったらいいのに。……あっ!
「国民の声を聞いてはいかがでしょうか。」
「何、民の声だと?」
「はい。私たちが色々勝手に決めても、国民の皆さんが本当に困っていることと違うかもしれません。だからまず、その声を集めるんです。」
自分で言ってから、少しドキドキする。
言ってることは悪くないと思うけど。
「どのように、民の声を集めるのだ?」
「えっと、例えば箱を置いて、そこに要望を書いて入れてもらうんです。」
「箱……とな。」
臣下達がざわつく。「箱に?」と繰り返す声が、あちこちから聞こえてきた。
そう、歴史の授業にあった、目安箱。または、お店のアンケート用紙みたいに。
あんな感じの仕組みを作ったら、どんな要望が多いかを一気に纏められる気がする。
王はしばらく熟考した後、「うむ」と頷いた。
「面白い、やってみようではないか!」
臣下達が目を丸くする。
王は楽しげに笑った。
「民の声を聞き、分けて担う。これこそ未来への第一歩となろう!」
こうして【要望箱】と銘打ったそれは、王都の広場に設置されることになった。
【要望箱】が設置された翌日。
広場の真ん中に設置された【要望箱】の前には、すでに長蛇の列が出来ていた。
「えっ、もうこんなに!?」
私は驚いて立ち尽くす。
兵士達が押し合ってくる民衆から箱が潰されないよう守っていたが、次から次へと人々が要望を投げ入れてきた。
「水が欲しい!」「道を通して!」「薬が足りない!」「子どもに教育を!」
後から後から口々に叫んでいる。
箱の中を覗くと、すでに紙がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
すでに疲弊した兵士が苦笑する。
「乙女様、まずはもう一つ、箱を作らねばなりませんね。」
「えぇ、本当に!」
思わず笑顔がこぼれ出た。
サティが嬉しそうに跳ねる。
「みんな、いっぱい、考えた、ね!」
「そうだな。」
ヴァルディが目を細める。
「声があるなら応えればいい。そこからが俺たちの役目だ。」
ネロがくすっと笑って言った。
「で、お姫さんは会長ってことでいいのかい?」
「会長だなんてっ、柄でもないからやめてよ!」
皆の笑い声に、私もつられて笑ってしまった。
胸の奥にあった不安が少しずつ軽くなる。
こうやって、みんなと協力してやっていけばいい。私は一人じゃない。
空を仰ぐと、朝日が高く輝いていた。




