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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.5 マナの制御
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4. 胸にあったしこり

 宴の明かりが徐々に落ち着き、村人達がそれぞれ家路につき始めた頃。

 私は焚き火の残り火を見つめながら、腰に下げた小袋を指先で撫でていた。

 袋の中には商人からもらったピンクアンバーがある。ピンクアンバーはエルヴァン族がマナを操るための杖を作るのに必要だとクオルが言っていた。


 マナを操るための……もしかしたらあの短剣をどうにか出来ないだろうか。


 私は立ち上がり、村の外れへと足を運んだ。

 月明かりに照らされた巨木の根元に、リュカ様が一人佇んでいる。風が枝をならし、葉がざわめくたびに神聖な気配が漂っていた。


「あの……リュカ様。ご相談があります。」


 振り返ったリュカ様の瞳が、夜の闇を切り裂くように私を見据えた。


「……話してご覧なさい。」


 私は勇気を振り絞り、神器のことをリュカ様に話した。

 短剣と杯のこと。

 短剣は私を持ち主として選んだけれど、私の意思とは関係なく人を殺める危険性がある、非常に強いマナを操作するものであること。

 今はズォンの村で預かってもらっているけれど……私は誰も殺したくはない、それを切々と語った。


 長い沈黙の後、リュカ様は低く言った。


「遠い昔、今ではもうノーヴァという一族しか知る者はいない……。伝説の神器の話を聞いたことがあります。」


 リュカ様は遠い目をしていた。


「短剣は流れ星からエルヴァンが磨いだ。杯は湖からノーヴァが造った。二つの神器は惹かれ合い、対の存在となった。……まさか伝説の神器の話をこの年でで聞くことになるとは。」


 机の上にあった杖をリュカ様がたぐり寄せる。リュカ様が杖を操ると、散らばっていた本が瞬く間に本棚へと帰って行った。まるで魔法のよう……。


「神器の短剣は、古代エルヴァン族が生み出したもの。そう文献には書いています。ならばその子孫である我々にもしなくてはならないことがあるというもの……。よろしい、ついてきなさい。」


 すくっと立ち上がり歩み出すリュカ様の後を着いていくと、一件の簡素な小屋にたどり着いた。

 リュカ様がノックをすれば出てきたのはエルヴァンにしてはごつい体躯の職人風の男性。


「おっ、リュカ様じゃないですか。こんな夜中にどうされたんですか?」

「こんばんは、ガラン。なるべく急ぎの用があって参上しました。中で話せますか?」


 ガランと呼ばれたエルヴァンの男性は私に気がつくと、ぺこぺこと頭を下げてくるので、私も慌てて挨拶を返した。

 ガランさんはエルヴァンの鍛冶装飾職人で、ここに暮らす人ほとんどの杖をこの工房で作っているらしい。杖の他も生活必需品となる包丁、お守りとなる装飾品など、作るものは多岐にわたるとのことだった。

 私たちは中で椅子に座り、リュカ様がこれまでの経緯を話すとふむ……とガランさんは神妙な面持ちになる。


「なるほど。確かにその短剣は危険なものだ。急いで封印を施す必要がある。しかし、現物がないのにどうやって封印を作るか……。」


 やっぱり短剣がここにないと難しいんだ。私は再度頭を悩ませた。

 私が短剣を持つこと自体が危険だから、ガリの谷へ預けていた短剣を取りに帰ることも出来ない。

 私たちが頭を悩ませていると、リュカ様が口を開いた。


「それについても私は考えました。ガラン。あなたが短剣の置いてある村へ行くのです。」

「えっ、お、俺がですか!?」


 私も思わず椅子から立ち上がった。


「リュカ様、ガランさんは村にとって大切な存在ではないですか!ガリの谷は遠いです。危険な旅になるかもしれません。」

「そうですねぇ……。」


 リュカ様はついっと持っていた杖を動かした。


「お前達はどう思いますか?」


 入り口がバタン!と開き、そこからは……ヴァルディ、サティ、クオルが飛び出してきて、後ろからネロがひょっこり顔を覗かせた。


「み、みんな!聞いてたの!?」

「だって……」

「またティナさんが一人で悩んでるんじゃないかってヴァルディが言ってきて、ぼ、僕は関係ないですからね!」

「クオルも乗り気だったじゃん。」


 わいわいと皆が騒いでいる。あぁ、やっぱりこうでなくちゃ。一人で抱えるのはやめにしよう。


「みんな、聞いてもらっていたかもしれないけど……私が持っていた危険な短剣。これを封じる方法が見つかったかもしれないの。でも、ガランさんにガリの谷……ヴァルディやサティの住んでいる村へ来てもらう必要があって。その護衛をしてもらえないかな。」

「それは構わないぞ。だけどそこのガランさんはいいのか?」

「俺は構わねぇ。リュカ様の言われることはこの村では絶対だ。なにより、神器に触れるなんざ大仕事だ。誰にも譲る気はしねぇな!」


 うっしっしとガランさんが楽しそうに笑った。

 そうだ、忘れないうちに。

 私は懐にしまっていたピンクアンバーの包みを開いた。


「これは以前に通りがかった商人の方に頂いた物です。何かお役に立てないかって……いいかな、みんな。」

「もちろん!」

「ティナのためになるなら。」

「まてよ、こいつは……極上のピンクアンバーじゃないか。ちょっと貸してみろ。」


 ガランさんが眼鏡を出して鼻先にピンクアンバーを近づける。そして「ほう」と感嘆のため息をついた。


「……やっぱりすげぇ代物だ。神器に誂えるならぴったりだな。」

「いけそうですか?」

「あぁ、マナの凝縮度が他のものとは違う。それが3つもあるとなると、腕の鳴る仕事になりそうだな。」


 にやりとガランさんがこちらを向いて言ってくれた。ーーーよかった!どうにかなるかもしれない。


「ティナ、やった!」

「うん、ここまで来て本当によかった。ガランさん、リュカ様……ありがとうございます。」


 私が二人に頭を下げると、リュカ様がゆっくりと首を振った。


「いいえ、黒髪の乙女……ラファティナ。あなたは我々の先祖の作った武器の争いに巻き込まれただけです。エルヴァン族として、せめて償いをさせてください。その短剣は選ばれし人……おそらくあなただけにしか反応は示さないでしょうが、扱いには気をつけなければなりません。私も可能なら向かいたいのですが……流石に村を離れるわけにはいきませんからね。」


 リュカ様は苦笑して言った。

 ようやくガリの谷に帰る。冒険の、始まりの土地。


 私たちは新しく始まる冒険の地へ向かって、出発の準備を数日間にわたって行っていた。ーーーはずだった。



「【黒髪の乙女】様へ、国王陛下から書状が届いております!」



 普段人間など誰も来ないようなエルヴァンの村に、兵士の軍勢がやってきて、慌てふためいたのはちょうど出発日の朝のことだった。

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