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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.4 黒髪の乙女の噂
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8. 村への道すがら

 盗賊を引き取ってくれる警備団が来るまで、私たちは倉庫内で過ごしていた。

 倉庫番の一人が、懐から小さな袋を取り出してくる。


「せめてものお礼に、これを受け取って下さい。」


 差し出されたのは、黒い布袋に丁寧に包まれた小さな種だった。


「これは【シリハ=エルカ】の花の種です。聖アグノス帝国から伝わってきた、貴重なものなのですが……。これを芽吹かせるのは難しいようですが、聖アグノス帝国では聖なる花として、時にはどんな宝石よりも特に重宝されるそうです。」

「そ、そんな大切なものを……!」


 私が思わず返そうとすると、商人は深く頭を下げた。


「命を救って頂いたのです。金貨よりも、命よりも、重い感謝を形にしたくて……どうか受け取って下さい。」


 そこまで聞くと、私は小さく頷き袋を受け取った。


「ありがとうございます。大切にしますね。」


 商人達は安堵と感激の入り交じった表情で深々と頭を下げた。

 その光景に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 それにしても、【聖アグノス帝国】。どこかで聞いたような気がする名前……。


「【聖アグノス帝国】は、サルディア王国の東にある国だぜ。【神】の意思に従うっていう名目で、昔から戦争をふっかけたりしてたらしい。」


 ヴァルディの言葉に、私は言葉を詰まらせた。

 【神】。イサム。そうだ、あの時私が連れて行かれたのは……


「ティナにも話したが、100年前、【神】が殺されたと本に書いてあっただろ?あの国のことだ。」


 そうだ、神が殺された国。私が、神を殺した。その、国……。

 胸の奥がざわつき、手のひらが冷たくなる。


 そんな私の動揺を知らぬ様子で、商人が言った。


「そうそう、最近、本物の【神】が帝国に降臨したって話があります。帝国はお祭り騒ぎだったみたいで。【神】の姿は極秘らしいですが……って、黒髪の乙女さん、大丈夫ですか!?」


 私は思わず膝をついて口を覆った。

 降臨したという【神】の姿と、イサムの顔が脳裏で重なった。

 耳の奥でイサムが言う。


ーーー『また会いに来るから』


 あの時の声で……。

 まさか、聖アグノス帝国に再びイサムが神として……!そして私は間違いなくイサムに狙われている。

 つまり……一国そのものが、私に牙を剥くかもしれないということ……?


「ティナ、おいティナ、大丈夫か?」


 ヴァルディが肩を支え、揺さぶってくる。

 私ははっとして現実に引き戻された。


 不安で重苦しい沈黙が落ちた。


 そんな空気を振り払うように、クオルが手を上げた。


「え、えっと、皆さんにいいお知らせがあります!僕の村がもうすぐだということが分かりました!皆さん、僕を村に送り届ける栄誉が欲しくはないですか?」

「そんなもの欲しくはないが……。」

「行くっ!」


 げんなりとするヴァルディとは対照的に、サティが元気よく飛び跳ねた。

 そんな姿を見ていると、私も少しだけ胸のざわめきがおさまってきた。


「うん……ようやくクオルがいた村に着くんだね。よかった。村の人もクオルのこと、きっと待ってるよ。」

「えぇ、そうですとも、そうですとも!」


 クオルは胸を張って左右非対称の色を持つ目を輝かせた。


「僕の村は小さいですが、畑も豊かで皆とても親切なんですよ。果樹園もあって、林檎の密煮は絶品なんです!」

「みつに!おいしそ!」


 サティは両方の後ろ足をぴょんぴょん跳ねさせながらはしゃいだ。


「俺は肉がいいかも……。」


 ネロがぼそりと呟くと、


「甘いのも悪くないさ。」


 ヴァルディが淡々と返す。


 そんな何気ないやりとりを耳にしながら、私は胸にあった不安が少しずつ和らいでいくのを感じていた。

 帝国の影は近付いてきているのかもしれない。だけど今は、仲間と笑いながらいるこの時間が、何よりも心強い。





「本当にありがとうございました!!」


 商人達の歓声が響く。

 無事に警備団に盗賊達を引き渡し、私たちは商人達の倉庫を後にした。

 最後尾のヴァルディがぼそぼそと呟く。


「俺たちの村から旅してきて、滅茶苦茶色んなことがあった気がするぞ……。」

「へぇ。お姫さんに関することなら聞きたいな。」

「うるせぇ、ネロ、お前に聞かせることはねぇよ。」

「ティナのこと!あのね……。」

「サティ、黙ってろ!」


 行列の後ろが賑やかなので、私まで楽しくなってしまった。

 本当に色々あったなぁ。平穏な生活じゃあ考えられないくらい沢山の人と出会った。

 例え帝国の影が迫っていたとしてもーーー

 それでも、仲間と笑い合える今この瞬間が、何よりも大切に思えた。


 笑い声は空に吸い込まれて、ふわりと揺れる雲に優しく溶け込んでいく。

 胸のざわめきも、ほんのすこしずつ和らいでいった。

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