6. 倉庫護衛 -前-
鳥の鳴く声。夕暮れ前に若い商人の男から案内されてたどり着いたのは、街道沿いの大きな倉庫だった。
倉庫には他にも2人、倉庫番がいるようだった。
倉庫番は怯えながら辺りをキョロキョロと見渡した。
「【黒髪の乙女】様。先日からこの倉庫が不穏な賊に見張られているようなのです。いつ襲ってくるかと思うと、気が気じゃなくて……。」
ヴァルディとサティは耳をぴんと立て、辺りの様子を探った。
「なるほど、妙な雰囲気は感じるな。サティ、分かるか?」
「まだよく、分からない。ーーー待って。」
サティが地面に耳をぴたりとくっつけて聞き耳を立てた。
目を閉じて、全神経を集中させているのが分かる。
私たちは一歩も動かず、彼女の邪魔をしないように息を殺した。
それから10分以上たっただろうか、サティがゆっくりと起き上がって言った。
「……今日の夜、倉庫に来る。聞こえた。……ごめん、遠くて、それだけしか……。」
「十分だよ!すごいよ、ありがとうサティ。」
サティにぎゅっと抱きついて、柔らかい髪の毛をもふもふと撫でた。
嬉しそうに狐耳がぴこぴこ動く。
「マジでギリギリだったな。どう動く?」
「そうだねぇ。幸い倉庫の片側は岩壁だから、狙ってくるルートは多少絞れるかな。」
ヴァルディとネロが戦術を立てている。
倉庫番の商人達には、なるべく荷物を纏めて倉庫の影に待避してもらうように、誘導を行った。
クオルは「ぼぼぼ僕は戦闘要員じゃないのに……!死んじゃう、盗賊なんて絶対死ぬじゃん。」とぶつぶつ言いながら、購入した紙とインクを使って、器用に杖でこの辺りの見取り図を書いた。
弱気な本人とは裏腹によく出来た見取り図を共有する。
辺りは暗闇へと包まれた。
そして戦術がある程度決まって、ヴァルディが指揮をしてきた。
「倉庫には正面と裏口がある。相手が何人いるのか分からないが、片方だけに戦力を偏らせるのは得策じゃない。
正面にはネロ、ティナ、クオル。裏口には俺とサティ。それでいこう。
ーーーネロ、変な気を起こすんじゃねぇぞ。」
「起こしませんよ。お姫さんは俺が責任持って守ります。」
「僕も守って下さいね!」
クオルが必死な形相でかぶせてくる。
少し場が和もうとしたその時、ヴァルディとサティが臨戦態勢へと入った。
「……いる。全部で、7人。」
「あぁ、暗闇に紛れて襲う気だな。サティ行くぞ。……ティナ、気をつけてな。」
ざっと地面が音を立てると、あっという間に二人は闇へ消えた。
見えない場所から敵が襲ってくるというプレッシャーに、冷や汗が流れる。
気配を探ろうと辺りを見渡していると、クオルがぽそりと囁いてきた。
「ティナさん、あなた緊張して、マナの流れが悪くなっていますよ。やることは僕の補助程度でいいんですから。危ないことはネロに押しつけて、駄目だと思ったら僕らで逃げましょう。」
こんな時でもクオルは相変わらずだ。
少し笑ったら、肩の力が抜けた。確かにマナをいつでも使える状態にしてないと。私も役に立たなきゃ。
「来たよ。二人とも姿勢を低くしてーーー4人いるな。俺が出て囮になるから、サポートを頼む。」
「分かった。」
細身のネロがすっと闇から浮き出る様は、月光に照らされた人形のようだった。
向こう側から、がちゃがちゃと装甲が擦れる物音がする。それが、ネロを前にして一瞬けたたましく鳴り響き、止まった。
「な、なんだお前、人間か!?いや、新しい倉庫番だな。」
「だはは!ひょろい男一人なんか倉庫番にもなりゃしねぇ!命が惜しけりゃそこを退くんだな。」
ネロはそれに答えない。
男達が苛立ちを見せ、大きく剣を振り上げて真っ直ぐにネロの肩へ目掛けて下ろした。……と同時に風が凪いだ。
瞬く間だった。
受け流すように剣を躱したネロの肩。真っ直ぐに上へ伸びた一本の足が、そのまま剣を持っていた男の後頭部へ直撃する。
「ぐはぁっっ!!」
「野郎っ!お前ら、かかれ!!」
倒れ込んだ男……その背後にいた男達が、一斉にネロへ攻撃を仕掛ける。
キラリ、と夜空に弧が舞う。ネロが使う小刀だ。
煌めく流線は美しく、乱れ交う刃をことごとく止めて見せた。
「お、おのれぇぇぇ……!!」
男の一人が角度を変えてネロを攻撃してくる。
その間にクオルが空中に小さな陣を完成させていた。虹色に輝く月の形をした、陣。
「≪狂陣・三環≫封陣、展開!!」
クオルが陣を発動させると、陣を囲んで3つの箇所に、光る幾何学模様の球体が現れた。
球体は一気に膨れ上がると、口をガパリと広げて男達を狙った。
「な、なんだこりゃあ!!」
2人の男ががぶりと球体に食べられたーーーいや、球体に閉じ込めた。
球体の作りは頑丈なようで、屈強そうな男が剣で垂直に突いてもびくともしていないようだ。
「くそっ、ひとり取りこぼしました!」
残りひとり、クオルが生み出した球体から逃げ出した男がネロを襲う。
が、思い切り下から顎を蹴り上げられ、地面に沈んだ。
「やった……」
私が駆け出そうとしたその時、一番最初に倒れたはずの盗賊が起き上がり、背後からネロを狙っているのが見えた。
まずい!ネロは気付いている!?はやくどうにかしなきゃ……
「木々よ!縛れ!!」
私が叫んだその瞬間、周囲の木々が一斉にざわつき、鞭のように枝をしならせ起き上がった盗賊に巻き付いた。
ネロが振り返り、その様子を呆然として見ている。
「クオル、ティナ、凄すぎじゃない……?」
私とクオルはへなへなとその場にへたり込んだ。
「ティナさん、こんなことが出来るならはじめからやって下さいよぉ。」
「私だって必死だったもん。出来てよかった……。」
よろよろとした足取りでネロに肩を抱えられて立ち上がり、光のベルトで盗賊4人を縛り上げる。
裏口から爆発のような音がしたのは、ちょうどその時だった。




