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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.4 黒髪の乙女の噂
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5. 噂は噂を呼び

 翌朝、宿屋の前。

 空気はひんやりとしていて、吐く息が白く揺れる。荷を整え、私たちは街道へと出る準備をしていた。


「ネロ、あんたは俺の前を歩け。」

「はいはい、俺はどこでもいいですよ。」


 少しおどけてネロは応じる。

 軽い口調にヴァルディは表情を崩さなかったが、鞍袋の中からネロに水筒を投げた。


「……何だ、これ?」

「お前の分だ。飲め。」

「ん?……まぁ、ありがたく。」


 ネロは受け取りながら、口元だけで小さく笑った。




 昼過ぎ、山間の道を進んでいたときだった。

 前方で馬車が横転しているのが見えた。木箱や麻袋が散乱し、年配の商人らしき男性が必死に荷を拾い集めている。

 近くには小さな女の子が立ちすくみ、今にも泣きそうな顔で商人を見つめていた。


「あれは危ねぇな、すぐそこが崖だ。」


 ヴァルディが低く言った。

 確かに馬車の後輪は道の端に傾き、下はかなり深い谷だ。下手に動かせば落ちかねないような位置にある。


「やあ、こんなところで災難だったな。早めにどうにかしないと。」


 ネロが商人に向かって進んで歩み出た。


「あんたは……」


 商人が警戒の目を向けるが、ネロは無視して崖側、後輪へ回り込む。


「ヴァルディ、前輪の方から道に向かって押せ。ティナ、サティ、こっちの荷物、先に下ろせ。」

「おい、お前が落ちるぞ。」

「そんなにやわじゃないさ。ほら、早くしないと全部落ちるよ。」


 私とサティで荷物をどけて、ヴァルディとネロが崖側から力を込める。

 その動きはなんだか息が合っていて。念のためネロが落ちないように崖側の地面のマナを補強して、馬車はゆっくりと安定した位置に戻った。


「助かったよ……本当に。」


 商人が深く頭を下げる。

 女の子が駆け寄り、ネロの手をぎゅっと握った。


「ありがとう……お兄ちゃん!」


 その頬は真っ赤に染まっていて、目はキラキラと輝いていた。

 あっ、この子、ネロに惚れちゃったんだな。


「いいよ、このくらい。」

「お礼にこれを持って行ってくれ。小さい石だが、売ればいくらかになるはずだ。」


 そう言って商人が取り出したのは、薄紅色の丸い石が3つ。

 確かに小さいけれど、中心に微弱なマナがあるのが見える。不思議な石だった。


「それは【桜真珠】。古い木の中心で、稀に採れる石だ。家内安全、無病息災なんかの縁起物でもあるんだが、ワシらには分からん力を秘めているって話も聞く。」

「あっ……それ、【ピンクアンバー】じゃないですか!」


 クオルが身を乗り出していった。


「エルヴァン族が杖を作成するときに用いる材料の一つなんです。貴重なのであまり僕もお目にかかったことはないですが。」

「そんな貴重なもの、いいんですか?」

「ああ、あんた方のおかげで命拾いをしたんだ。本当にありがとう。」


 深く商人がお辞儀をすると、それに習って隣の少女も「ありがとう!」と元気にお辞儀をした。

 上げた顔には先ほどまでの警戒心はなく、安堵と感謝が浮かんでいる。


「お嬢さん、お兄さん方。もしかしてあんたらは【黒髪の乙女】ご一行様かい?」

「ほらね、ティナ。有名になってるでしょ。」


 ネロが流し目でこちらに言ってくる。

 やめて。もう噂はこりごりなんだから……。


「ワシは王都の方からやってきたんだがな、王様が【黒髪の乙女達】を見かけたら、支援をしてやってほしいって呼びかけを行っていたらしいんだ。見返り無しに人助けを率先して行ってくれる。話は本当だったんだな。」


 驚いた。王が直々にそんなことを言うなんて。

 やっぱり恥ずかしくはあるけど……認められたみたいで、少し嬉しい。


 女の子が小さく手を振る。


「また会える?」

「さぁ、どうかな。でも、元気でね。」


 その姿を、商人は深く目に刻むように見つめていた。

 馬車が見えなくなるまで見送った後、クオルが言った。


「多少はいいところがあるみたいですが、僕は騙されませんよ……。」

「あははっ、そうだよね。普通はそうだと思うよ。」

「大体、高身長で、顔が良くて、そういうところがまず怪しいって言ってるんです!」

「それは褒めてくれてるのかな?」


 ネロがクオルの頭を撫でると、クオルはますます「むきー!」と言って顔を真っ赤にさせた。


「クオルは、可愛い、よ?」

「男は可愛いじゃ駄目なんです!あ、身長ですか?エルヴァンの皆は身長が低いから、仕方ないんですよ!」


 サティとクオルは昔なじみのように仲良くなっていて、旅はすっかり賑やかだ。

 異世界に飛ばされてきたときは不安ばかりだったけど、今はこの賑やかさが心強い。




 それから3日後。

 街道を歩いていると、道ばたの茶屋から慌ただしく人影が飛び出してきた。


「もしかして……【黒髪の乙女】様ですか!?」


 息を切らせた若い男が、勢いよく私の手を掴んだ。


「はー、またかよ。」


 ヴァルディがうんざりとしながら言った。

 私は掴まれた手を振りほどくことも出来ず、ただ戸惑う。


「えっ……」

「お話は聞いていますよ!様々な場所で自らを省みず救援活動をする、神聖なる力をお持ちのご一行様!困った人を決して裏切らない、正義の魂をお持ちの方々だと!」

「ええええっ……?」


「話に尾ひれがつきまくりですね。」

「俺、目立っちゃまずいんだけどなー……。」


 頭をかきながら困ったように言うネロ。

 少なくともネロも原因の一つなんだからねーーー!


「実はお願いがあるんです!商人組合の倉庫が盗賊に狙われていて……警備団に連絡したんですが、嵐の影響で今は動けないって言われてしまって困っていて!どうか力を貸して下さいませんか?」


 男は必死な様子で頭を下げた。

 サティが私の袖をくいくいと引っ張る。


「ティナ。助ける?」

「まぁ、放っておけないよね。」


 私はため息をついた。


「やった!ありがとうございます。やっぱり【黒髪の乙女】様は噂通りの方だ!」


 その言葉に、ヴァルディは眉をひそめながらも、持っている腰の剣に手を置く。


「……こうなったら、つきあうしかないか。」


 クオルはブツブツと文句を言いながらも、地図を広げていた。

 ネロはどこからか鋭い小刀を取り出して、指先でくるくるとそれを回す。


「盗賊退治、ね。まぁそれくらいならいいんじゃないかな?」


 こうして、予想外の依頼を抱えて私たちは再び足を早めた。

 ーーー噂というのは、厄介ごとを度々持ってくるものだ。

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