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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.4 黒髪の乙女の噂
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4. 星に願いを

「いたたたっ!もう少し優しく運んでくれよ、ティナ。」

「全く。文句が言える立場なの?」


 光のベルトでネロを引きずり歩く。

 マナを調整してネロを地面から少し浮かせるように歩いてるけど、元々私は調整が上手くない。たまに地面とぶつかってしまうみたいだ。


「でもさ、ティナは本当に凄いな。俺を縛ってるこの力ってなんだ?多分こういう不思議な力が狙われて……あだだっ!!」

「本当に口数が減らないよね、ネロって……。」


 疲れた。今日はゆっくり休むはずだったのに。散々な目に遭ってしまった。

 宿屋の前に着くと、寝ていたはずの3人が起きて外に出ていた。


「ティナ!」

「起きたら、ティナ、いなくて、探した!どうした、の!?」


 サティが駆け寄ってくる。


「ごめんね、心配かけて。実はえっと……ネロに攫われかけてた、かな?」


 皆の目が一斉に私が捕縛しているネロに向く。

 ネロが軽く、「やっ」と挨拶をする。


「……おい、ネロ、どういうことだ?」

「ネロ、ティナを、どこに、連れて行こうと、してたの?怒るよ?」


 ヴァルディとサティが怖いほど殺気を放ちながらネロを囲む。

 クオルは「ひえぇ、怖い。」と言いながら、遠巻きにそれを観察していた。


「あはは、ごめんね。まぁ、俺がこのまま警備団に捕まったら、多分俺殺されるからさ。それで許してくれないかな。」


 その言葉に皆が固まった。

 何でもないことのようにとんでもないことを言う。殺される?


「殺されるって、いくら警備団でもそんな極端なことしないでしょ?」

「違うよ。俺を管理してた組織が、口封じに来るのさ。失敗したら用無し。こんな家業、さっさと足を洗いたかったのに。まぁ、今まで色々してきたつけが回ってきたってことさ。」


 そう言ってネロはへらっと笑った。

 その笑顔とは裏腹に、言葉の奥底にある疲弊が伝わってくる。

 きっと、この人はずっと逃げ場のない場所で生きてきたんだ。


「やめたかったなぁ。全部。殺しも、スパイも、人攫いも。それでさ、今度は俺の人生を俺の好きなように生きるんだ。誰の命令も受けずに。」


 どすん。ネロはその場に倒れ込み、縛られたまま仰向けになる。

 空には満天の星空。星を見上げた彼の表情は、清々しくてそれは罪人が見せる表情とは思えなかった。


 私たちは顔を見合わせる。


「どうする?この人。」

「いや、どうするもこうするも、警備団に引き渡す一択でしょ!ティナさんが攫われるところだったんですよ!」


 クオルが大きな身振り手振りで叫んでいる。

 ヴァルディは考え込んでいる。考えた後、私に向かって口を開いた。


「ティナは、こいつをどうしたい?」

「どうしたいって……。」


 ネロがしたことについては私もかなり腹が立っている。

 多分出会った初日からそれは計算されていたことだった。親切にしておいて、私に向かって嘘の愛を囁いて、無理矢理攫ってどこかに連れ去ろうとした。

 裏切られたという思いは消えないし、許しちゃいけないとも思う。だけど。


 こんなに真っ直ぐに空を見つめる瞳。

 あの時水面に映っていた星空のように煌めいていて。


「ネロ。」

「うん?」


 微かに首を動かし、こちらを向いて、笑うネロ。


「ネロは私たちと戦ったら、ネロが勝つと思う?私たちが勝つと思う?」

「うーん、そうだなぁ。」


 すぅっとネロの目が細くなり、一人一人を見定めるような目に変わる。

 整った顔は冷たい仮面のようで。少し怖い。獲物を捕らえる蛇のような目だ。


「全員を殺せっていう命令なら、それは出来ると思う。一番簡単だ。反応するより早く動けばいい。ヴァルディが一番厄介だが……殺しならこっちが一枚上手だ。

 動けない程度に痛めつけるなら、一人一人が相手なら、これも負けはしないだろう。って言いながら、ティナに捕まってるんだけどな。予想外だった。全員を相手にするのは厳しいな。クオルの力も俺は知らないからな。戦術が立てられない。」


 それを聞いて、私はひとつの疑問を投げかけた。


「私を狙う人達は、まだいると思う?」

「当然さ。【黒髪の乙女】って、結構噂になってるぞ。これからはもっと気をつけた方がいいんじゃないか?」


 ーーー私はある決断をした。

 まだ、皆の意見を聞かないといけないけれど。


「ねぇ。ネロを私たちの護衛に入れるのってどう思う?」

「は、はぁぁぁあ!?」


 クオルは大きく情けない声を出した。

 皆が固まって動けない。それはネロも同じだった。


「お姫さんさ……俺が言うのもどうかと思うけど、本当に警戒心とか……。いや、さっき俺に狙われたばかりだよ?それはないでしょ。」

「同意するのも癪だが、ネロの言うとおりだ。謝って済んだら警備団はいらないんだよ。」


 あ、これ、【ごめんで済んだら警察はいらない】ってやつだ。

 二人を抑えながら、話を続ける。


「ネロってさ、戦闘要員としては、私たちよりかなり優秀だよね。これからも危ない場面に出会うのなら、ネロみたいな人がいてくれたらかなり心強いなって思って。」

「だからってネロはないだろ。こいつ犯罪者だぞ。」


 ヴァルディがネロを睨みつける。


「でも、ネロはもう帰る場所もないんでしょ?犯罪だってやりたくないって言ったよ。」

「お前馬鹿か!なんで疑いもせずに信じてるんだよ。あぁ、もう。」


 ぐしゃぐしゃと自分の頭をヴァルディはかきむしった。

 そこへサティがやってきて、ネロの目をじっと真っ直ぐ見て言った。


「悪いこと、したって、思ってる?」

「思ってるよ……。」


 ネロは目を細める。

 そんなネロの頭をぽんぽんと叩くと、サティはヴァルディに言った。


「ネロを、仲間に、しよう。」

「サティ!?お前まで何言ってんだ!」


 いよいよヴァルディの頭がボサボサになっていた。

 サティは続けて言う。


「ネロは、本当は、まっすぐな人。ティナも多分、分かってる。少し、可哀想な人。」


 サティがネロに目を向けてそう言うと、ネロが目を見開いた後に少し俯いた。

 長い睫毛か瞼にかかる。


 ヴァルディは長いため息をつき、クオルは「本気ですかぁ?」と呆れ気味だ。

 少し沈黙の後、ネロが口を開いた。


「俺は……自由になれるのか?もう足を洗えるのか?」

「私たちについてくるならね。」


 光の縄をふわりとほどき、ネロの拘束を解放した。

 まだ納得していないヴァルディとクオルは解放されたネロに警戒していたが、ネロの目元に光る涙の筋が見えたとき、何も言えなくなっていた。


 空に翔ける一筋の星。

 こうして、私たちの奇妙な同居が始まった。

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