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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.4 黒髪の乙女の噂
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3. 瑠璃色の罠

 町に5日ほど滞在した頃。

 みんな体力も気力もすっかり回復し、食料の他備蓄も用意することが出来た。


 そろそろクオルのいる集落へ向かいたい頃だけど……


(最後にネロに挨拶がしたいな。)


 プレゼントってネロはいってたけどそれはよくて。色々してもらって、お礼の一言だけでも伝えたかった。




 昼間探し回ったけど、結局会うことは出来なかった。

 明日朝、私たちは旅立つ。

 夜中、サティがベッドで寝てるのを見てから、起こさないように窓を開けた。


 そういえばこの世界にも月があったな。

 ……綺麗だな……。


「お姫さん。」


 こっそり、横から囁かれて驚いて声が裏返りそうになった。


「ネ、ネロ?どうしてこんなどこに……」

「しっ。皆を起こしちゃうから静かにね。前に言ったじゃないか。プレゼントをあげるって。こっちについてきて。」


 なんとそのまま屋根を伝うように指示してくる。

 えぇぇ……さすがに危ない気がするけど。

 ネロを見ると、楽しそうに誘導をしてくる。


「大丈夫、落ちそうになったら受け止めてあげるから。俺、結構力あるよ。」


 そういう問題じゃないし!渋々、足下のマナを集中させて無理矢理安定を図る。

 ルフだったらこういうの、うまいんだろうな……。

 這うように前進をして、ようやくネロに追いつく。


「よし、ティナ。ここまで来たら後は真っ直ぐな道だ。」

「……ネロ、全然真っ直ぐに見えないよ。真っ直ぐだとしても、足下が細すぎるよ。」

「だーいじょうぶ!一気に駆け抜けろ。」


 手を引かれて、強制的に進むしかない。

 あぁ、もう!

 可能な限りマナを足下に集中して、足と壁がぴったりくっつくイメージを!体勢がぶれないように風のマナで体を支えるイメージを!


 全神経を集中したかもしれない。やばい。今までマナを大雑把にしか扱ってきてなかったから、凄く疲れた。マナを繊細に扱うなんて、ルフやクオルって本当に凄いんだなぁ。


「あはは、ティナ、よくついてこれたね。落ちると思って構えてたのに。」

「じょ、冗談じゃないって!もー、一体何なの?」

「ごめんよ。これをさ、見せたかったんだ。」


 今いる位置は町の高台。

 その向こうは草原が広がっていたが、真ん中に広がるのはコバルトを閉じ込めたような深い蒼の湖。向こうの山岳と合わせて見るその景色は絶景と呼ぶ他なくて……。空の星が湖面にそのまま鏡のように反射して、湖の上は無数のダイヤモンドが散りばめられたようだった。


「この町から見える一番の景色だ。……ティナだけに見せたかったんだ。」


 振り返ったネロは、小さな包みを取り出した。


 布を解くと、中から深い蒼に輝く瑠璃色の石が現れた。

 月光を浴びて、まるで目の前の水面のようにキラキラと輝いて、煌めきが揺らめいている。


「瑠璃貝のネックレス。俺の故郷じゃ、【旅のお守り】って言い伝えがある。これを、ティナに。」

「凄く綺麗……でも……」


 ネロが静かに笑みを浮かべた。

 それはからかいではない、真剣な眼差しで。


「ティナ、愛してる。俺と一緒に来る気はないか?」


 私は思わずぽかんとしてしまった。


「えっ、なんで?」

「えっ。」


 ネロもそれまでの真剣な表情が崩れて、思わず素が出てしまっている。


「だっておかしいじゃない、私たち会ってまだ3回目だよ?そんな愛してるだなんて、絶対ネロってば何か勘違いしてるんだと思う。私も仲間を放棄するなんて無責任なことなんてできないし、この話はこれでおしまいだよ?」


 思ったことがすらすらと口から出た。

 ネロはしばらく固まったまま、ぷっと吹き出し、そのまま笑い出した。


「ははははっ!そうか!そっかー、勘違い!勘違いときた!あー可笑しい。駄目だった。そっかそっか……残念だな。」


 そのまま笑いを押し殺してこちらに向き直る。

 いつものネロに見える。……だけど、なんだか背中がざわざわする。


「だったらさ……無理矢理にでも連れて行くんだけどね。」


 ぞくり、背筋が凍る。

 さっきまで宝石みたいに煌めいて見えた夜景が、急に遠く、冷たく霞んでいく。


 ネロの足が石畳を蹴る。

 視界から消えたーーーそう思った瞬間、背後から風が迫る。

 振り返ると同時にネロの腕が振り上がる!指先ほどの小さな刃が月光を描いた。


「っ……!」


 紙一重で身を翻す。刃は私の耳元をかすめ、背後の石垣に突き刺さった。


「やるじゃん、ティナ。でも、俺も割と凄いからな。」

「どうして私を狙ったの?」

「今回でさ、最後の汚れ仕事なんだよ。やっと解放されるんだ。ティナには悪いと思ってる。だからせめて無傷でついてきて欲しかった。」

「私が死体でもいいってわけ?」

「まさか、さっきの攻撃はティナなら避けると思ってたよ。身体能力が半端なく高いって分かってたからね!」


 ネロは屋根の端に足をかけ、そのまま瓦を滑るように降りてきた。月明かりの下、その影は壁沿いを走る獣のように伸びて消える。私が目を凝らした時には、もう暗がりから手の甲が伸び、刃先が光を弾いていた。


 次の攻撃が来る。

 空気が音を切り裂く音が聞こえるーーー


 その時私には見えた。

 ネロの動きには、体の芯を通るようなマナの流れがある。

 足先から腰、肩、指先へーーー攻撃の瞬間に、全てが一転へ収束する。


 おそらく普通の人間なら避けることが困難で。だから私はマナの流れを読む!


「っ……!?」


 間一髪。横から入るネロの蹴りを避けられた。

 ネロは驚きに満ちた表情を見せた後、楽しげに笑った。


「予想以上だ。すごいよ、ティナ。」


 ネロの体勢が軽く落とされた……はずなのに、そのまま横へ突進をしてくる。

 一瞬反射が遅れた。

 右の肘打ちが私の鳩尾を狙う。それを咄嗟に腕で受けたが、衝撃が肩まで響き、呼吸が詰まった。


「がはっ!……うぅ……。」

「さ、そろそろ痛いのはやめようか、お姫さん。」


 距離を取ろうと後ずさる私を、ネロが詰めてくる。

 逃げ切れないーーー頭の奥が冷たくなる。


「抵抗されても面倒だからね。一瞬で気絶させてあげるよ。」


 ネロが私を捕縛する用であろうロープを取り出した。

 ロープ……ロープ……


 その瞬間、脳裏に焼き付いていた光景がよみがえる。

 イサムが使っていたあの光の帯ーーー敵を瞬時に拘束した、あのマナの塊。


(そうだ、あれなら!)


 両手にマナを集める。


 呼吸と同時に、腕を振り抜いた。

 眩い光が帯状になって放たれ、ネロの動きを絡め取る。


「なっーーー!」


 そのまま光のベルトはネロの両腕と足を縛り、体を石畳に押しつけた。

 抵抗しようと力を込めるたび、光は更に強く輝き、動きを封じていく。


「で、誰を気絶させるって?」


 息を切らしながら告げると、ネロはわずかに笑みを浮かべたまま光の中で身じろぎをやめた。

 終わった……。

 さっきもらったペンダントが手元にあったので、べちっと投げ返してやった。

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