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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.4 黒髪の乙女の噂
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2. 日中の市場

 翌朝。

 宿の一階にある食堂は、焼きたてのパンとスープの香りに包まれていた。

 席に着いた私たちは、温かい湯気を前にしながら、昨日の出来事を話し始めた。


「それでね、昨日買い出しに出たときに、人攫いに遭いかけちゃって……」

「は?」


 みんなが食事を始めたその手をぴたりと止める。

 ヴァルディの眼光が鋭くなり、私は「やってしまった!」と瞬時に悟った。


「で、でも!大丈夫!その時助けてくれた人がいて……」

「何が大丈夫なんだよ。人攫いって何だ。だから一人で行くなって言ったろ。」


 姿勢を正されお説教。はい、ちゃんと言うことはききます。報告もします。

 パーティーメンバーのお兄ちゃんからこんこんと叱られて、ようやく解放されて再び朝食へ食器を向ける。


「ティナ、みんな、心配する。」

「……うん。サティ。ごめんね。」

「めっ。」

「……はい。」


 サティにまで怒られちゃった。


「それでね、その助けてくれた人が、この辺を案内してくれるって。今日はその予定を……」

「その助けてくれた奴っていうのはどんな奴だ?」

「えっ?背が高い男の人で、いい人そうな感じ、かな?」

「やっぱり男か!そこに直れ!お前には危機感がなさ過ぎる!」


 な、何がいけないの??

 またもや姿勢を正してガミガミと説教の嵐を受ける。

 うぅ、食べ物の味がしない……。


「で、でも、もう約束しちゃったし。もしも一日中待たせたら悪いよ。」

「だったら今日は俺たち全員でそいつと会う。それでいいだろ。」

「うん、それなら全然大丈夫!ネロも皆と会えて喜ぶんじゃないかな?」

「分かった。じゃあ食べ終わったら、今日は皆で一緒に散策だな。」

「やったー!」


 サティの無邪気なはしゃぎ声。

 その向こうで静かにスープをすすっているクオルの声は私には届いていなかった。


「……ティナさんって大分鈍いんですね……。」





 朝の光が差し込む大通りの角。

 店が賑わっているこの時間帯。昨日も来た待ち合わせの場所に行くと、ネロが手を振っていた。


「おぉ、ティナ!と、お連れさん達?どうも。」

「どうも。昨日は俺たちの仲間が危なかったところを助けてもらったみたいで。」

「なんの。人として当然当然!」


 ネロは陽気に笑ってるけど、ヴァルディがなんだか威圧的なような……。


「ちょっと、ヴァルディ。ネロに失礼でしょ。」

「お前はホイホイ人に気を許しすぎなんだよ。」

「ふぅん、そうやって見ると本当に守られてるお姫さんだね。」


 ヴァルディは不機嫌そうに、キッとネロを睨む。


「ちょ、ちょっと待って!ネロ、ヴァルディはあんまり冗談が通じないというか……えっと……。」

「いや、俺が悪かったよ。気に障ったならごめんな。えっと、ヴァルディ?」

「ふん。」


 ネロが差し出した握手に、ヴァルディがゆっくりとこたえる。

 冷や冷やした-。サティとクオルも、私の後ろで手を組んで、ドキドキしながら見守っていたらしい。


「みんな、こっちが朝に話していたネロ。で、ネロ。こっちが私の仲間。ヴァルディ、サティ、クオルです。」

「今更敬語はいいよ。よろしくね、皆さん。」


 褐色の端正な笑顔がぱっと辺りを照らす。


 ネロはサティとクオルとも軽く挨拶をして、一同を先導する。


 大通りを抜けると、目の前に色鮮やかな市場が広がっていた。

 香ばしいパンの匂い、焼き魚の煙、香辛料の刺激的な香りが風に乗って鼻をくすぐる。

 色とりどりの布が日よけ代わりに張られ、日差しを柔らかく反射していた。


「さぁ、まずはこっちだ。」


 ネロが軽く手招きしながら歩いていく。


「ここはこの町で一番活気のある通りなんだ。朝は野菜や果物、昼からは肉や魚が並ぶんだ。」


 露店の前では、籠いっぱいの赤い果実が山のように積まれていた。


「これは【ルベラ】っていう果物。甘酸っぱくて喉の渇きに効くんだ。旅の途中なら持っておくといい。」


 ネロが一つ購入してティナに渡すと、サティがすかさず隣に来て半分をかじる。


「美味しい……!」


 サティの耳がピクピク揺れて、一同が笑った。



「そっちは香草屋だな。」


 ヴァルディが横目で見やると、ネロがすかさず説明を足す。


「ここの香草は日持ちがする。乾燥肉と一緒に煮ると、疲れがとれるスープになるんだ。」

「ほう……それは助かるな。」


 感心したようにヴァルディが頷いた。



 市場の奥では、香辛料を詰めた麻袋や、異国風の陶器を売る店もあった。


「ここの主人、カレド連邦から仕入れてるんだ。珍しい色の陶器が多いだろ?」


 クオルは手に取ったお皿をくるくると回して、職人仕事に興味津々の様子だった。


「ほらほらお姫さん。今日は案内料はいらないから、楽しんで下さいな。」

「だから、姫じゃないってば!」


 頬を膨らませて返すと、ネロはくすくすと軽く笑った。


 市場は賑やかで、物売りの声と人々の笑い声が絶えない。

 客と値切り会う声、子どもが果物を抱えて走って行く姿、香辛料の匂い。

 歩くだけで、胸の奥まで町の熱気が染みこんでくるようだった。




「一日ありがとう、ネロ。とっても楽しかった!」

「あはは、ティナのためならこれくらい、どうってことないよ。」

「ネロってば調子がいいんだから。」


 ネロと話していると楽しい。話が豊富で親切で、気遣いの仕方がとても上手い。


「本当さ。な、また一緒に町に出よう。今度も絶対楽しませるから。」

「うん、町を出る前にまた行きたいな。」

「……そっか、ティナは旅の途中だったね。」


 ネロは悲しそうに眉をひそめた。

 そしてぐっと肩口まで顔を接近させて、耳元で囁く。


「今度、俺からティナにプレゼントを贈ってあげる。楽しみに待ってて。」


 ぱっと肩を離されて、にっと笑うネロ。

 私の顔は一気に紅潮した。


「おい、何してんだネロ!」

「そうだそうだー。そんなことしたらヴァルディが後から五月蠅いですー。」

「クオル!」

「いだっ!!」


 ひらひらっと手を振って、ネロは夕闇に消えた。

 プレゼント。何かな?

 せっかく旅の途中で会えたお友達。手の中の沢山の品と一緒に、思い出がまた増えると楽しみで仕方なかった。

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