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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode.4 黒髪の乙女の噂
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1. ネロ

 崖崩れがあった場所を迂回していると、人通りの多い町に行き当たった。

 正直入るかどうか迷った。私たちは見た目が【黒髪の人間】【獣耳】【白髪で目立つ色の瞳】……どう見ても異質だった。


「どうしよう?変に思われちゃうよね。」

「でもなあ、いい加減野宿は皆疲れてるだろ。」

「はい!僕はもう、へとへとで……あぁ、ふかふかのベッドに包まれて眠りたい……。」

「私も、ふかふかが、いい。」


 町の入り口辺りで言い合っていると、通りすがりの荷物を担いだ男の人がこちらを見た後、町へ急いで引き返していった。

 すると間もなく町の門付近に屋台を構えていたおばちゃんが、笑顔で声をかけてきた。


「これはこれは、旅のお客さんだね!」


 おばちゃんはにっこりとして紙袋を差し出してくる。


「ほら、焼き栗だよ。おまけしとくから、旅の道中にお食べよ。」

「え、ありがとう、ございます。」


 栗の香ばしい匂いが袋いっぱいに広がる。

 サティが嬉しそうに袋を抱え、ヴァルディはその匂いを嗅ぐともう一つ買っていた。


「あの、とても親切にして頂いて……私たちこの町にお邪魔するのが初めてで……」

「あぁ、みんな大歓迎さ!あんた達の救出劇で話はもちきりだったよ。入って入って!」

「え……えぇぇっ!?」


 話がもちきり?どういうこと?おばちゃんに背中を押されて町に入れば、一斉に注目を浴びた。

 それは悪意や嫌悪からはほど遠く、非常に好意的なものばかりでーーー


「黒髪のお嬢さんだろ?あの、山崩れを止めた人!いやぁ、お会いできて光栄だなぁ。」

「白い髪のお兄ちゃんや、魔法が描けるのかい?ちょっと見せてくれよ。」

「狐耳のお姉ちゃん!お耳触らせてー!」


「はい、もーっ!だめだめだーーーめですっ!」


 止めどなく溢れかえる群衆に、クオルが制止をかけてくれた。

 先を急ぐからと人々をかき分けて、小さな酒場に入る。ようやく一息ついた。

 皆が席に腰を下ろすと、酒場のマスターがまだ頼んでもいないのに焼いた肉料理を出してきてくれた。


「噂の勇者さん達に、おもてなしですよ。」


 ひとつ、ウィンクをされて厨房へ帰って行ってしまった。


「なんか……凄いことになってないか?」

「いやー、僕たち有名人で困りますね!そりゃまぁ、あんなに沢山の人を盛大に救っちゃったわけですから?目立っちゃったのは仕方ないですけどね!はぁ、こんなにチヤホヤされてもね。サインの練習とか?しなきゃいけないから大変だし。」

「ちょっと落ち着いて、クオル。」


 クオルは参った参ったと言いながらも、どうも浮かれている調子が抜けてない。

 サティは人混みですっかり参ってしまっているようで、先ほどからぺたんと机に伏せっている。


「大丈夫?サティ。早くどこかで休もうか。」

「うん……疲れた……。」

「じゃあ、ご飯食べ終わったら宿屋に行こうね。それからお布団で寝よう。」


 サティはゆっくりこちらを向いて、にっこり笑った。

 歓迎してくれるのは嬉しいけど、ちょっとむず痒くて恥ずかしい。

 酒場の店主さんに宿屋を聞くと、ちょうど向かいにあるとのこと。丁寧にお礼を言って、宿屋の戸を叩く。


「あら、いらっしゃいませ。もしかしたらこちらへいらっしゃるんじゃないかと思って、とっても綺麗にお掃除したんですよ。さぁ、上がって下さいな。」


 通されたのは2つのベッドが置かれた2部屋。

 私とサティ、ヴァルディとクオルで別れて、長旅の腰を下ろした。


「はあぁ、くたくただー。」

「くたくたー。」


 サティと一緒にばふっと布団に仰向けにダイブする。

 思い返せば濃厚な毎日だったな……。


 短剣をとって……異世界に来てからサティとヴァルディに会って……。

 嵐から村を必死に守ったなぁ。あれはとっても大変だった。

 北に移動してたら助けた人が王様だったりして。凄くびっくり。

 それで……イサムにも……会って……


『許さない』


 私の中に呪いのように声が響く。

 でも、その呪いをはじき返すように、今は頼もしい仲間がいて、人助けという目の前の目標がある。


 隣のベッドを見れば、早くもサティがすぅすぅと寝息をたてている。

 よっぽど疲れていたんだろうな。

 サティを起こさないようにそっと部屋を後にした。



 隣の部屋をノックする。


「よう、ティナ。こいつ五月蠅すぎ……しかも無一文だぞ。どこかに捨ててくるか。」

「ちょちょちょっと、僕を捨てないで下さいよぉ。僕は役に立ちますからぁ。ねぇ、ヴァルディさん、ヴァルディさぁぁん!」

「ああもう、分かった!分かったから鬱陶しい!」

「ははっ、仲良さげでよかった。私、これからちょっと買い出しに行ってこようと思うんだ。部屋でサティが寝てるから、よろしくね。」

「ん、一人でか?ついていくぞ?」

「大丈夫だよ、そんなに時間はかからないと思う。後でまた。」


 ヴァルディってば、本当にいいお兄ちゃんだなぁ。

 最近私も第二の妹になった気分になる。

 足取りも軽やかに、私は宿屋を後にして、食料品や雑貨を見て回ることにした。


 旅のお金は村を守ってくれたお礼にと、グマト長老に分けて頂いた。

 硬貨がこの国も共通のものでよかった。所持金は大切に。あぁ、でも、素敵な雑貨が沢山ある。このポーチなんか、とっても可愛いなぁ。


「お嬢さん、噂の【黒髪の乙女】さんだろ?サービスしておくよ。」


 えっ!また名前が一人歩きを……

 「あははー……」と笑ってごまかしていたら、不意に嫌な予感がして振り返った。

 ……物陰に人が隠れた。偶然じゃない。


「ごめん、おじさん。また来るね。ありがとう。」


 つけられている?気持ちが悪い。

 どこかで撒ければいいんだけど……

 後ろを気にしながら路地の角を曲がると、どんっと大きな人にぶつかって転んでしまった。

「あっ、すいません!前を見てなくて……。」

「いいぜぇ、【黒髪の乙女】さんよ。」


 ぎょっとして目の前を見上げると、そこには3人組の男が私を囲むように立っていた。


「へへっ、不用心に一人歩きかい?あんたを捕まえたら高く売れるって話だ。」

「どんな力があろうが、噂は噂にすぎねぇ。俺たちにかなうものか。」


 目線を泳がせ辺りを見渡す。時刻は夕暮れ。人通りも少なく、この路地は狙ったかのように死角にあって……。


「誰かーーー」

「おっと。」


 叫ぼうとする私の口を、大きな手が力任せに塞ぐ。

 声が出ない!苦しい!


「うぅっ!」

「さっさとずらかるぞ。そうだな、【カレド連邦】か【ゼクト=ライン機構国】なら高値で買い取ってもらえそうだ。しばらく酒に困らねぇ。」


 不快な笑いがケタケタと耳を掠める。

 仕方ない、人に向かってマナで攻撃なんかしたくなかったけど……

 私は集中して足下にマナを集める。土よ……集まれ……地面よこの者達をーーー



「ぎゃあああああああ!!!」



 男達の叫び声が上がったのは、私が攻撃を仕掛ける直前だった。

 何があったのか驚いていると、男の手が私から外され、その辺にはごろごろと大の大人の男が転がっていた。胸いっぱいに空気が流れ込む。息ができる。当たり前のことなのに、涙がにじみそうになるほどほっとした。


「痛え、いってえよお!」


「寄ってたかって年頃の娘に群がっちゃってねぇ。このカスども。汚い手洗ってから出直してきな。」


 すらりとした長身。褐色の肌に金色の瞳。前髪は長く、視界の邪魔にならないように分けられている。

 結構な美男子だということが分かる。

 ……に、助けられた状況のようだった。


「あーあー、ちょっと蹴り上げただけだろう?情けないねぇ。いつまで転がってるんだか。それとももう一発お見舞いして、警備団に連行してやろうか。」

「くっ、くそ!行くぞ、お前ら!」


 転がっていた男達は、慌てて姿勢を保ちながら路地裏の先へと逃げていった。

 後に残されたのは私とーーー


「あっはっは!見た?あいつら、間抜けな逃げっぷりだ!」

「あの、助けて下さって、ありがとうございます。」

「あぁ、いいよいいよ。気にしないで。」


 その……美男子である青年は私の顔をじーっと見つめて、にっと笑ってきた。


「君、しばらくこの町にいるの?」

「あ、はい。今は旅をしていて、一時的な休息ではありますが……。」

「そっかそっか。よかったら明日から、観光案内についてってあげようか。今みたいなことがあってもいけないしね!」


 その彼は整った顔立ちを、人好きがするような笑顔全開にして言ってみせた。


「えっ、そんな。悪いですよ。」

「遠慮しなくていいよ。どうせ俺も暇だしさ。そうだ、君の名前は?」

「あ、ティナ。ラファティナです。」

「そっか。ティナ、よろしく。俺はネロ。どこに泊まってるの?送っていくよ。」

「あ、いえ、一人で帰れるので……。」

「一人じゃ危ないよ、黒髪のお姫さん。」


 上目遣いに顔をのぞかれて、思わず心臓が飛び跳ねた。

 なんだかとても気恥ずかしくて、耳まで真っ赤になってしまって、ぶんぶんと首を振って一人で帰れることを必死に示した。


「そうかい?じゃあ俺は明日もこの辺にいるから。ボディーガードは任せろよ。またな、ティナ!」


 そう言い残すと、ネロは颯爽と去って行った。

 しばらくぼーっと立ち尽くしていたが、夜が近付くことにはっとした。

 遅くなると皆心配するし、また変なやつらが来るかも……!

 大通りを通いながら、先ほどのことを思い出す。


『お姫さん』


 そんな恥ずかしいことを言われたのは初めてで。


「ティナ、お前、何を必死に首振ってるんだ?」


 宿に帰ってからも、しばらくぶんぶんと頭の中の幻影を振り払っていた。

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