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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode3. 支援活動
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5. 流されてきた護り手、拾いました

 翌朝、一番に私は両親のお墓を綺麗に掃除した。

 立派なお墓は建ててあげられないけど、精一杯の気持ちを込めて。

 あまりにも遅すぎた帰省。親不孝者でごめんなさい。お父さん、お母さん……


 手を合わせて目を閉じた。懐かしいマナの香りが吹き抜ける。「おかえり」って言ってくれているようで、涙が一つ、こぼれ出た。


「ティナの、お父さんと、お母さん?」


 いつの間にかサティが横に座っていた。

 慌てて涙を拭いて、笑顔を見せる。


「うん、最期に会うことが出来なかったけど……そういえばサティとヴァルディのご両親は?」

「お父さん、お母さん、病気で、死んじゃった。」


 しゅんとしてサティが俯いた。

 しまったーーー!安易に聞いた私が馬鹿だった。


「あ……サティ、ごめん……」

「こっちから言うつもりだったし、気にすんな。飯、できたぞ。」


 後ろからヴァルディが声をかけてきた。

 サティが手を引かれて、ヴァルディの後をついていく。私もすぐにその後を追った。




 火の温もりが、心までも温かくしてくれる。

 朝食をゆっくりと食みながら、ヴァルディは語り出した。


「今から10年くらい前かな。俺はまだ小さくて……サティなんか、もっと小さくて、多分ろくに覚えてなんかいないと思う。村に病気が蔓延してな。村人も沢山死んだ。

 俺たちの両親も、そんなやつらを看病してたけど、結局うつって死んだ。俺も必死に救う方法を探したんだけど……痛感したよ。知識が人を救う。この世に知っていて損をすることはない。俺はもっと色んなことを知らなきゃいけないって。」


 その時思い出した。ヴァルディ達の家の中、棚に並ぶ数々の本。

 ーーー色んな思いで彼は勉強したんだ。


「今ここで人間を助けていることも、村に戻ったら皆を救うノウハウに繋がるかもしれない。何もかも、無駄じゃない。ティナについてきて良かったと思ってる。」


 サティも横で、こくこくと頷いている。

 二人とも、強い。幼い頃両親を亡くして寂しい思いを抱えているはずなのに、人のために強くなったんだ。

 そんな彼らが眩しくて、私は憧れを抱いた。


 私も、立ち止まっているだけじゃ何も変わらない。

 やるべきことは沢山ある。嵐の後始末をすること、困った人を助けること、元の世界に帰ること……その前に、あの短剣を封印すること。


「話してくれてありがとう。私も、頑張らなきゃね。」

「おう、まずは食え。お前少し細いんじゃないか?体力つけろよな。」


 わしゃわしゃ、とヴァルディの大きな手が私の頭を撫でた。

 まるで心ごと包み込んでくれるような掌。お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうな。

 横でサティが真似をして、私の頭を撫でてキャッキャと笑っていた。




 朝食を食べ終える頃、サティがぴくりと動いた。彼女が何かを見つけた時に決まってそうするように、鼻をひくつかせている。


「ーーー人、いる。けが、してる。」


 サティは立ち上がり、川の方へ駆けだした。


「サティ、どうしたの?」

「こっち!」


 水音が近付くにつれ、私にもそれが聞こえた。

 激しい川の流れに混じって、「……たすけ……」という微かな声。

 川上から【何か】が流れてくる。いや、あれはーーー【誰か】だ!


 肩口で揃えられた白銀の髪は水面に散らばり、小柄な体が必死に浮かび上がろうともがいていた。

 あれはもしかして……エルヴァン族……!?


「ヴァルディ!」

「あぁ、分かってる!」


 ヴァルディはためらいもなく川へ飛び込む。大きな水しぶきがあがり、流れを切り裂くように泳いでいく。

 私とサティは岸辺を走りながら、流されてくる二人を追った。


「……ごほっ、ごほっ……ぼ、僕はまだ、死にたくないっ……」


 岸に引き上げられたエルヴァン族の少年は、びしょ濡れのままぶるぶる震えていた。

 右目が赤。左目が青。

 やけに臆病そうなその瞳で、私たちを見上げる。


「ひぃぃぃっ!!?に、人間!ズォン!食べられる!お、お助けぇぇぇえ!!」


 あまりにも必死すぎて、思わず笑ってしまった。




 びしょ濡れの少年は、くしゃみを一つ。


「ぶえぇっくしょい!ああもう、服が冷たい。……風邪引く……風邪引いたら死ぬ……いやだ、死にたくない。」

「お前、しゃべれる元気あるじゃねぇか。」


 ヴァルディが呆れたようにタオルを頭に押しつけると、少年はびくっと肩を跳ねさせた。


「ひっ!なななんですかっその手は!殺す気ですか!」

「拭いてやってんだよ。」


 私とサティは顔を見合わせ、ぷっと笑った。


「おいお前、エルヴァン族ってやつだろ?本でしか知らねぇけど。」

「え、あ、はい……そうです。僕は、エルヴァン族の集落の護り手、クオルです。」


 クオルを温かい火の側まで連れて行くと、鼻をすすりながら急いで手をこすり始めた。そしてブランケットに身を包みながら、ぶつぶつと早口でしゃべり始める。


「すごい嵐がきたじゃないですか。もう僕必死だったんですよ、村を護らなきゃいけないから。けど、あの、限界があるじゃないですか。僕ってば三日三晩描き続けたんですよ?結界陣を。一人で。そうこうしたら寝落ちして、そのまま嵐で流されて……あんまりだ。なんで僕がこんな目に……」

「なんか、貧弱そうな護り手だな……」

「そんなことないですよ!何を聞いてたんですか……って、お嬢さんっ!髪を引っ張らないで下さい!」


 サティはさっきからクオルの髪を編んでは遊んでいる。

 どうやら白銀の髪の毛が気に入ったらしく、「きらきら!やわらか!」と無邪気に観察していた。そんな風に弄られているクオルはやっぱり少し頼りなく見えて、確かに村の護り手?と言われると、少し違和感がある。


「とりあえず、僕を助けてくれてありがとうございます。」

「あぁ。」

「そして僕を集落まで無事に送り届けてくれるんですよね。」

「はい?」

「当然じゃないですか!僕一人で帰れるはずないじゃないですか!か弱いんですよ、僕はあなた方と違って!ああ、ようやく嵐がおさまったというのに、仲間とはぐれて僕は、一人じゃ生きていけないというのに!」

「なんで俺らが……」


 ヴァルディは完全に呆れている。

 私は場を取り持つように言った。


「私はいいと思うよ、ヴァルディ、サティ。これも何かの縁だと思うし。もちろん、二人が良ければだけど。」

「いいのか、ティナ。この村にいたいんじゃないか?」


 心配そうにするヴァルディに私は首を横に振った。


「大丈夫、私のけじめはつけたから。私は目の前の人を助けてあげたい、そう思うの。」

「それじゃあ俺たちもティナについていくだけだな。サティ、いいか?」

「うん!クオルの村、行く!」

「僕、か弱いですから。戦闘は任せます!僕は後ろで応援しますから!」

「……護り手ってなんだ?」


 私たちは、次の目標を見定めて立ち上がった。

 嵐の残骸があちこちに破片をまき散らしている。少しでも役に立てるなら。王と交わした人々を助ける約束を胸に、私は今ゆっくりと歩みを進める。

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