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神殺しの乙女  作者: Da Viero
episode3. 支援活動
21/51

1. 救済の黒髪の乙女

 道を進むにつれ、被害は深刻さを増していった。

 屋根が吹き飛ばされた家。折れたままの橋。流木と瓦礫が絡み合って道を塞ぐ。


 泥の匂いと、焦げた木の匂いが入り混じる。耳を澄ませば、どこかで板が軋み崩れ落ちる音がする。

足元のぬかるみが靴にまとわりつき、一歩ごとに重たくなる。


「……ひどいな。」


 ヴァルディが短く呟く。


 サティの耳がピクリと動き、鼻がひくついた。


「人の匂い。こっち……!」


 彼女を先頭に、私たちは崩れた納屋の方へ駆けた。



 納屋の下敷きになった青年をヴァルディが梁ごと持ち上げ、私は足下の瓦礫を払いながら青年の体を引き出す。


「しっかりして!」

「あぁ、ありがとう……」


 青年は泥だらけの顔で微かに頷いた。


「誰か、この人を連れて行ってもらえる人はいませんか?」


 私の呼びかけに、近くにいた避難者が答えてくれた。

 私たちの外見は少し異様な目で見られたけれど、今はそんなことを気にしている場合ではないと皆分かっている。

 お互いを助け合い、避難者達は固まって歩き出した。


 今度はサティが、瓦礫の隙間を刺す。


「子ども、いる!」


 サティの能力はこんな時、本当に助かる。

 瓦礫を退かすと、怯えた目の女の子が縮こまっていた。私は手を差し伸べ、安心できるように精一杯の笑顔を作った。


「大丈夫、もう安全だから。」

「ふ、ふわぁあん!」


 そうして何人も救い出すたび、少しずつ広場に避難者が増えていった。



 人気のない細い路地に足を踏み入れたとき、かすかな呻き声が耳に届いた。

 声の方へ走ると、崩れた壁のしたで一人の老人が倒れている。


 背中から腰にかけて重い石壁がのしかかり、どうやら動けない様子だった。


「なんてこと……!大丈夫ですか!?」


 近付くと、老人は首を横に振った。


「私はどうせ、生きていても長くはない老人だ……。それよりも、未来のある若者を、可能な限り助けてもらいたい……。頼む。」


 弱々しく頭を振る老人。

 私は石壁を動かそうと思い切り力をかけた。

 ……ぴくりともしない。

 どうしよう、ここでマナの力を借りれば助けることは簡単だけど。こんな場所で力を使ってしまったら、一緒にいる二人にも迷惑がかかりそう。

 ううん、絶対に諦めない。


「大丈夫ですよ、絶対助かりますからね。ちゃんと側についていますから。」


 ズォン族の二人に協力してもらうことにした。


「ヴァルディ、サティ、助けて!」

「ティナ!」


 二人が駆け寄ってきた。私と老人を見てすぐに状況を察してくれて、私の両横に立った。


「サティと俺で壁を持ち上げる。その後隙間が出来るから、ティナは爺さんを引きずり出してほしい。」

「うん、分かった。」


 ズォン族の兄妹二人が「せーの!」と声を上げると、重たい石の壁がゆっくりと浮き上がった。

 そのわずかな隙間。

 指先が泥と雨で滑る。腕の筋が悲鳴を上げる。それでも、絶対に離すもんか――。呼吸が荒くなり、耳の奥で心臓の音が響く。


 ずずずっーーー


 ゆっくり、確実に、老人の体は外に出すことが出来た。

 救出に成功したのだ。


 老人は荒い息をしながらも、微かに笑みを浮かべていた。


「……命の恩人よ……」


「安全な場所までお連れします。歩けますか?」


 私は支えながら問いかけた。老人は小さく頷き、私たちは避難所へと急いだ。




 老人を避難所へ連れて行くと、すでに十数人の避難者が身を寄せ合っていた。

 毛布が配られ、焚き火の熱が冷え切った空気を和らげる。


「ここなら安心です。」


 私は老人を毛布の上に座らせ、水を差しだした。


「少し休んで下さいね。」


 老人は深く礼をし、弱々しい声で言った。


「……名を、聞いても良いか?」

「私ですか?ラファティナです。」

「……そうか、忘れぬぞ。ラファティナ。」


 その時、避難所の入り口がざわめいた。

 ずぶ濡れの鎧をまとった兵士達が駆け込んでくる。

 先頭の兵士が老人を見つけ、息をのんだ。


「ーーー陛下!」


 避難所の中がどよめく。

 兵士達は一斉に片膝をつき、頭を垂れた。

 あまりに突然のことで、私は目を瞬かせるしかなかった。


「この場に膝をつく必要はない。ここは避難所だ、民の顔を上げさせよ。」


鋭い声が響き、兵士たちが「はっ」と返す。先ほどまでの老人とは別人の、王の声だった。


 辺りは騒然となっている。

 口々に、「あの方が陛下……?」と騒いでいた。


 老人ーーーいや、王はゆっくりと立ち上がった。

 その姿は、つい先ほどまでの弱々しい被災者とはまるで違う。背筋が伸び、目は鋭く、威厳を帯びていた。


「皆、よくぞ無事であった。」


 そして王は私の方へ歩み寄り、全員に聞こえるように言った。


「この美しい黒髪の乙女が、我を救い出してくれた。彼女がいなければ、我はいまここにはおらなんだ。」


 視線が一斉に私に集まる。

 兵士も避難者も、驚きと感謝の色を浮かべていた。


 王は静かに頷き、再び言葉を続けた。


「ラファティナよ。そなたのその勇気と優しさ、決して忘れはせぬ。」


 その一言で、胸の奥が熱くなった。

 目の前の命を助けることに、ただ夢中だった。ーーーそれが、こんな形で広がっていくなんて思いもしなかった。

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