1. 再び目覚めしラファティナ
ーーー光が当たる。眩しい。
手を開く。閉じる。問題なくできる。
私、どうしたんだろう?確かに殺されたはず。
違う。私は、今は柊菜乃花として生きていて、……
頭が完全に覚醒した!
そうだった。私の前世はラファティナで、短剣で神を殺し、殺されてしまった。
こんな馬鹿なことあるはずないのに。前世の異世界の記憶があるなんて。
そして、ここはどこ?
木造の天井。手当てされた腕。布団を掛けて寝かせられた体。
「あ……起きた、の。いたく、ない?」
高く細い声が聞こえて、寝ていた体勢のまま振り返ると、そこには私より少し幼い少女が立っていた。
ふわふわの長い髪の毛。おっとりとした眼差し。
見慣れた人間と違うのが、狐のような大きな耳が頭に生えていた。
前世でルフが言っていたことを思い出す。
『狐のような耳が生えている、感覚の鋭い種族』
そうだ、その種族はーーー
「ズォン族……?」
「しっ、知って、るの!?」
その子の耳がぴょこっとはねた。目はまん丸に見開かれて、ガラス玉を反射しているみたいにぴかぴかと光っていた。
可愛い。
ーーーじゃなくて!
「ここは、日本じゃないの?」
「にほ、ん?」
「私、日本から来たの。えっと、どうやって来たんだっけ。そうだ、鏡ーーー」
思い出した。夜のこと。
鏡の前にあの短剣が現れて、それを手にしたら小さな少年が鏡の中にいて、鏡に引き込まれたんだ!
そこからの記憶がない!
「どうしたの……?だいじょ、ぶ……?」
「あっ、ごめんね、大丈夫。」
はぁ。どう説明しよう。
変なことを言ったり聞いたりしてこの子を困らせても可哀想だし。
私のことを助けてくれたんだよね?
あぁ、もふもふ、可愛いなぁ。少しだけ、現実逃避。
「おい、サティ。そいつに近寄るな。いつも言ってるだろ。人間には気をつけろって。」
私より少し背の高い、狐耳の少年がドアを開けて入ってきた。
「おにい、ちゃ!」
「お前は警戒心がなさ過ぎる。ズォン族として、もっと感覚を研ぎ澄ませろ。」
「でも、このひと。いい匂い、する。きっと、いいひと!」
「そんな危うい感覚じゃ駄目だ!こいつはただでさえ、異質な真っ黒な髪だぞ。ただの人間じゃないかもしれないんだ。」
「そんなこと……ない、もん……。」
サティと呼ばれた少女はむすっと頬を膨らませてそっぽを向く。
それを見て少年は、やれやれと、大きく肩を竦めてみせた。
「それで、あんた、名前は?」
「あ、私はラファティナ。」
口からその名前が出て、はっとした。
しまった!今はその名前じゃない。さっき一度に前世を思い出したからーーー!
「そうか、ラファティナ。体が動くなら、まずは長老に挨拶をしろ。それが余所者が来たときの決まりだ。」
少年はそれだけ告げると部屋から去って行った。
あぁ……訂正できない雰囲気……。まぁ、どっちでもいいけど。
早く元の世界に帰らないと。お父さんもお母さんも、心配してるだろうな。
そこまで考えて思い至った。前世の、お父さんとお母さんは、きっと、もうーーーお父さん……お母さん……ごめん。突然いなくなって。
「ティナ?ティナ?」
「あっ……ごめん。サティ、でよかったかな?」
「うん。サティ。私、の名前。おにいちゃん、の名前はね。ヴァルディ。ヴァルディだよ。」
「さっきの男の子かな?サティのお兄ちゃんなんだね。ヴァルディっていうんだ。サティを守ってくれる、いいお兄ちゃんだね。」
「うん……!!」
サティの無垢な笑顔に心が和んだ。
信頼できる家族がいるって、本当に素敵なことなんだ。
とりあえず、今できることをしよう。前を向こう。
ヴァルディは長老に挨拶をしろって言ってた。だからーーー
「サティ。長老のところへ、私を案内してくれるかな?」
「うん!!」
何を言われるか分からない。敵意を向けられるかもしれない。
でも、まずは出来ることからやらなきゃいけない。
長老と話さなきゃ。そして私も確かめたい。
この世界は私が、前世にいた世界だったのかもしれない。そんな予感がずっとしている。