第1巻 エピローグ
事件が終わってからの数日間、私は推理部へ行っていなかった。まあ、南先輩とは毎日来るとは約束していないと言っていたので、特に気にする必要もなかったのだが。
「……ああ、結局来ちゃったよ……」
私は推理部の部室の前に立ち、心の準備を整えてからドアを押した。
その瞬間、冷たい視線を感じた。
広い部室には星野茉莉奈一人。私の「絶対に二人きりでいたくない人物ランキング」で堂々の一位の人物だ。
うわ…大失敗だ。来なきゃよかった…
でも、ここまで来て引き返すのはあまりに失礼だ。だから、星野から近すぎず遠すぎない席を選んで座り、カバンから『ギリシア棺の謎』を取り出して読もうとした…
…まったく頭に入ってこない。
やっぱり私みたいな推理小説初心者には、エラリー・クイーンの本はまだ難しすぎるようだ。
ため息をついて本を閉じると、あの日の光景が頭に浮かんだ。
…森村医師は自分で毒を飲んだのか…
なぜか、この光景に見覚えがあるような気がした。でも、記憶を何度も検索してみたが、似たような映像は見つからなかった。
いわゆるデジャヴってやつなのかもな…
「え?望月くん?それに星野さん?」
入り口から南先輩の声がした。南先輩は、私たちを驚いた顔で見ていた。
「こんにちは、南先輩」
私は笑顔で南先輩に挨拶した。
南先輩は机の上にカバンを置くと、興味深そうに私を見、それから隅に座る星野茉莉奈を見た。
「珍しいわね、二人とも揃ってるなんて」
そういえば、私が推理部に入ってから星野茉莉奈と顔を合わせるのはこれが初めてかもしれない。
しばらくすると、黒田先輩と川島先輩も部室にやってきた。
「よし!これで推理部メンバー、全員集合!」
南先輩は嬉しそうに手を叩き、満面の笑みを浮かべた。彼女がそんなに元気そうなのを見て、私も少し安心した。
「初めての全員集合ね!おめでとう、おめでとう」
「うーん…じゃあ、今日は何をしますか?」
私の質問に、南先輩は固まった。
「そ、そうねえ…」南先輩は恥ずかしそうに頭をかいた。「考えてなかったの…だって、本当に全員揃うなんて思ってなかったから…」
…社長の統率力たるや…
「とにかく!キャンパスで私たちが解決すべき謎がないか探してみよう!」
…キャンパスに謎なんてあるのかよ…
しかし、私が反対意見を言う間もなく、南先輩は独り言のように部室から飛び出していった。
「まったく仕方ないなあ」
川島先輩は席から立ち上がり、南先輩の後を追って部室を出て行った。
「え?マジで行くんですか?」
「部長の号令だからな」
黒田先輩はメガネを押し上げ、レンズの奥の目が意外にも優しい表情を浮かべていた。
「でも、キャンパスで謎を探すってやっぱり無理があるような…」
私が躊躇っていると、部室で椅子が動く音がした。思わず振り向くと、星野茉莉奈が立ち上がり、無表情のまま入り口に向かって歩き出していた。
「あ、星野さんも行くんですか?」
思わず口に出た。
「…どうせ暇だから」
彼女はそう言い残すと、廊下の角に消えた。
部室は急に静かになった。私一人だけになった部室を見て、ついに私も我慢できなくなった――
「まったく!私も行くよ!」
私は足早に追いかけた。理解不能な小説を一冊置き去りにして。