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第1巻 序
「あの…望月さんがもうすぐ転校することになりまして…」
担任がホームルームで私の転校をクラスに伝えると、教室に大きなざわめきは起きなかった。ちらほらと一、二人がこっちを見上げることはあったけれど、ほとんどの生徒はただ静かに話を聞いていて、まるでごく当たり前の出来事のように思えた。
私は無表情で教壇の前に立っていた。心には何の動揺もなかった。古い友人たちへの未練も、新しい学校への期待も、何も。
まるで転校するのが自分じゃないかのように。
「これからも連絡取り合おうよ。」
席に戻ると、前の席の男子がふり向いて、社交辞令めいた笑顔を向けてきた。
「うん。」
私は淡々とそう返事をして、うなずきさえ面倒だった。
彼は気まずそうに前を向き直すと、すぐに隣のクラスメイトと最新のゲームの話で盛り上がり始めた。
彼の名前は後藤だったっけ?それとも近藤?
…まあ、どうでもいいことだ。
人間関係なんて脆いものだ。きっかけさえ失えば、どんなに深かった友情も、結局は自然に疎遠になっていく。
だから――
もう二度と彼らと繋がることはないだろう。