きっかけ と 言い訳 コチノカミカミキリの場合では
そういうことも、ああいうことも、こういうことも、あのとき、自分なりにだけど、あれこれ考えたんだよ、たぶん考えたんだよ、あのころは、考えるの、わりかし好きだったから、考えなくなったきっかけ、それは様々あるんだろうけど、ひとつのきっかけとしては、献血のアレ、なのかな、そうかもしれない、ほかに思いつくことないし、だから、アレなのかな
ごめんなさい
ぼくは
情けない男に
なってしまったよ
献血のときの
あの事を
恨んでるとかはないよ
都合のいい言い訳として
利用させてもらってるから
もう、何年前なんだろうね、だいぶ前だね、気が向いて、献血するか、ってなった、若い男の人が、熱心に献血を呼びかけてて、それで、だったのかな、そのときは気がつかなかったんだけど、献血の時間の、終わり間際だったみたい、だから、老いた医者の前にぼくが座って「あんた、何?」「なんなの?」と、その老いた医者にそういった顔をされ、そのまんま、言葉にもされた、「献血ですけど」言うと、めんどくさそうに聴診器をあててきた、そんな感じだったんじゃないかな、帰ろうかと思った、けど、帰らなかった、あとあと思うと、帰ってればよかった、そう思った
生きるだとか
死ぬだとか
もうそういうの
疲れちゃったから
ぼくのいないとこで
やってくれないかなあ
400お願いしてます、と言われた、たぶん、そんなことを言われた、言われたんじゃないかな、断る理由もないから、400にした、向こうから400でお願いされたのに、200しかされなかった、看護師の女性は、200で終わりにした、さっさと帰りたかったんだろう、献血時間の終わり間際だからね、しかたないよね、しかたないことなのかな、ま、その程度ってことかな、その人たちからしたらさ、わからないと思ったんだろうね、そんなこと、この男には、わからないと思ったんだろうね、でも、ぼくのほうは、あれ? はやくない? ってなって、そのあと、ずっと思ってて、それで、しばらく考えてたんだよね、あれこれ考えてみて、それで、なんとなく腑に落ちた
遠い世界とは
思わないけど
違う世界には
感じてしまう
ああ、終わり間際だったから、400じゃなくって200で終わりにしたのかあ、さっさと帰りたいから、200にしたのかあ、400ってそっちが言ってきたくせして、200で終わりにしたのかあ、って
世界は
あきれてしまうくらいに
不当で
不合理だ
それから、なんか、そういう方面のこと、イヤになっちゃって、献血というものから関心も、視線も、背けるようにしてきたんだった、それがだんだん大きくなっていって、献血だけじゃなくなって、ボランティア的なものだったり、社会に貢献する、みたいなことから、意識して、目を背けたんだった、目を背けていれば、楽だった、楽になった、情報が入ってこない、そのことについて考えないでいい、考えなくってよくなった、そうやって、ぼくは、考えることを停止させた