第4話 二上家の真実
3日後、沙奈はんとまたシフトが被った。
退勤後、俺らは近くの公園に移動した。
「この公園にはマナの木が生えてるの。
もし今後魔法の練習をする時は、マナの木がある場所を頭に入れておくといいよ。
魔法はマナがあるところでないと使えないからね。
ちなみに、現代においてマナの木が生えているところは基本的に左翼が強い地域が多いよ」
「左翼の力がないと現代でマナの木を植えるのは難しいんやな……」
俺達は公園の公衆トイレの裏で魔法を使うことにした。
「ここだったら人に見られないね。じゃあ瞬間移動しよっか。
私の手を掴んで」
沙奈はんは右手を差し出してきた。
女の子と手を繋ぐんは人生で初めてやからちょっと躊躇うも、勇気を出してその手をとった。
沙奈はんの温もりが伝わってくる。
「目を瞑って、マナのエネルギーを体に取り込む。
そして日本地図を思い浮かべて、行きたい場所にズームインしていく。
行先の景色がはっきり見えたら……呪文を唱えて力を解放する。
天よ、我が思い描きし彼の地へ、我ら2人を送りたまえ。
空間瞬転移!」
その瞬間、体が一瞬無重力に包まれた。
重力が元に戻ったら、外の気温が変わっていた。
「はい、目ぇ開けていいよ」
沙奈はんの声を聞いて目を開けると、目の前にはマナの木、横には大きなマンションがあった。
マナの木がマンションの敷地内らしき場所にある言うことは、ここにもたぶん左翼がおるんやろなと思た。
空を見上げてみると、さっきの公園よりも空の色が暗く、日の入り時間が違うんやと実感した。
「ここが草加市なん?」
「うん。実家のマンションだよ。
さあ話は通してあるから、香ちゃん家行こうか」
俺は沙奈はんに連れられ、エレベーターに乗った。
エレベーターの中で、俺はスマホの地図アプリを開いた。
ほんまに現在地が埼玉県草加市になっとる。
エレベーターが目的の階に止まって、俺達はまた歩き出した。
「ここが香ちゃんの家だよ」
二上という表札を確認し、俺はインターホンを押した。
中から足音が近づいてきて、ドアが開いた。
ドアを開けた人物は、セーラー服を着たエルフ耳の女子高生やった。肩らへんで揃えられた髪は俺と同じ色をしとった。なんとなく、彼女が二上香やと思った。
「あなたが"お兄ちゃん"?」
「お兄ちゃん!?兄妹だったの!?」
「俺は何も知らへんよ!?」
「本家の跡取りは本当に何も知らされてないのね……
いいわ。うちにはもう守秘義務なんてないし、全てをお兄ちゃんにお話するわ……上がって」
そう言われて、俺は二上家の玄関に上がる。
「なんか訳ありっぽいから私はここで待ってるね」
沙奈はんは外で待ってるらしい。
埼玉の二上家は大阪の二上家と違て、家の作りがしっかりしとって、歩いても全然音が鳴らへん。
リビングに着くと、そこはオシャレな家具が沢山並べられとって、実家との経済格差を感じた。
台所から聞こえる水の音が止んで、香はんの母親と思われる女性がこちらを見た。
その女性の顔は、オカンと全く同じやった。
しかし格好はオカンよりも現代的で、ファストファッションの服を着て、長い髪を三つ編みにして下ろしとった。
「アンタが二上一族の宝かいな」
「俺は何も知りまへん」
「そういう掟やもんなぁ。
ええわ。全部話したる。そこに座り」
俺は言われるがままに来客用の椅子に座る。
「お兄ちゃん、名前何て言うの?」
「樹や。
自分、何で俺の名前すら知らへんのにお兄ちゃんって呼ぶん?」
「本家の長男だとお母さんから聞いているから。
私は香。お兄ちゃんの異母兄妹かつ、いとこよ」
「家系図どうなっとんねん!」
「まあ何も知らへんねやったらそないに思うんも無理ないなぁ。
アンタがどこまで真実を知っとるんか分からへんさかい、聞きたいことをまとめてほしい」
「俺が知りたいんは、
①この家は大阪の二上の村とどないな関係があるんか
②宝とは何か
③俺の父親が誰か知っとるか
この3つです」
「分かった。まずは①から答えていくで。
わては二上の村の村長家の次女として産まれたんや。
宝の相続が姉はんに確定して、わては村を追い出され関東へと流れ着いたんや」
「つまりあなたは俺の叔母いうことですか」
「せや。姉はんと顔が同じなのは一卵性の双子やからや」
「オカンに妹がおったなんて話、一回も聞いてへんわ」
「わてと姉はん仲悪いさかい、話しとうなかったんやろうなぁ。ほんまにエルフの村社会は陰湿やわ。
ほんで次、②宝とは何か、について話していくで。
これは簡単や。アンタのことや」
「最初会うた時も俺が宝や言うてはりましたけど、何も分かりまへん。1から説明してください」
「正確に言えばアンタっちゅうよりアンタのy染色体やな。
二上の一族は、古来から天皇の精子を冷凍魔法で保存してきた一族や。
もしも皇族が何らかの理由で滅びた際に、神の遺伝子を途絶えさせないために、長寿であるエルフ族にその使命が与えられた。
しかし、明治維新の際に天皇家と村の連携が途絶えたことによりこの村は一般の村として扱われるようになって、徴兵もされ、終戦の際には村長一家以外全員死んでもうた。
わてのオカンは病で若い頃に男児も産めずに亡うなってしもたし、通常ならわてか姉はんが凍結精子を守っていかなアカンねんけど、生憎わても姉はんも魔法オンチで、凍結魔法を使われへん。
どないしよかオトンが考えとった時、オトンが病で倒れた。
オトンはもう凍結魔法を使われへん。せやからわてと姉はんは皇族の精子を解凍し、オメコに入れたんや。
ほんで姉はんは男児を授かり、わては女児を授かった。
わての子に皇族のy染色体はなかったさかい、家を追い出された。ほんで関東で娘を産み育てた。
②のつもりが③まで話してしもたな。つまりアンタのオトンは昔の天皇や」
衝撃的な事実やった。
流石にそれは嘘やろ?思うて、何か反論を探して記憶を思い返したけど、事実を裏付ける証拠しか出て来うへん。
例えば、この前オカンに俺の父親の種族を問うた時に言われた答え、人間でもハーフエルフでもない言うやつ、天皇は皇族やからどちらにも当てはまらへんかったんや!
つまり俺の種族はエルフでもハーフエルフでもなく皇族のエルフ……っちゅうことになる。
オカンが俺の人間的な価値観を嫌って、エルフとして育てようとしたんは、天皇を人間と認めてへんからやったんや。
皇族的な価値観の教育っちゅうと帝王学とかになってくるから一般人では教育でけへんし、エルフとして育てるしかなかったんやろな。
「ねえ、お兄ちゃんは昭和天皇の人間宣言、信じてる?」
突然の香はんからの質問に戸惑い、しばらく考えた。
そして、こう答えた。
「分からへん。
俺の中の皇族の部分が、人間とどう違うんか、まだ分からへんから、何とも答えられへん」
「そう……じゃあもし分かったら私に教えて。
LINE交換しようか」
俺はスマホを取り出して、香はんとLINEを交換した。
そういえば沙奈はんとはLINE交換してへんかったな……後で誘おうと脳内タスクに入れた。
ふとスマホの時刻を見ると、もうそろそろ帰ったほうがええ時間になっとった。
「ほんなら俺はここら辺で帰ります。
いろいろ話聞かせてもろて、ありがとうございました。
ほなまた」
別れの挨拶を済ませて、玄関の外に出た。
玄関の前には沙奈はんが待っとった。
「沢山話し込んでたみたいだねー
楽しかった?」
「楽しかった言うより、長年の謎が解けた感じや」
「そうなんだ。じゃあ帰ろうか」
帰りは俺が魔法を使う約束やった。
見よう見まねで、さっきの沙奈はんの作法を真似したけど、一向に転移せえへんくて、痺れを切らした沙奈はんが瞬間移動を発動させた。
その後は、特に会話もなく(正確には、沙奈はんにいろいろ話しかけられたけど、さっきの事で頭が一杯で、まともに返答でけへんかった)解散になった。
俺は皇族。
皇族のエルフ
皇族エルフ
皇族と人間、何が違う?
皇族には権力がある。国民の象徴としての力がある。
俺には権力がない。
中学の頃内申点目当てで生徒会に立候補したら、陽キャに選挙でボロ負けした程度に、人を惹きつける才能が不足しとる。
そないな事を考えとったら、家に着いた。
家に着いて俺は、皇族の事をいろいろと調べた。
しかし、皇族の種族としての特徴は何も出て来へんかった。
やはり、国民の大多数が思うように、皇族は人間なんか?
俺はオカンから、天皇は現人神やと言う教育を受けた。
ほんなら俺も現人神のはずや。
せやけど、俺の人生の成功体験が高校受験成功しかない以上、俺が神であるかは怪しい。
俺は、今まで接してきた価値観の全てが、ほんまに正しいものなんか、全てが分からなくなった。




