第11話 タイマン勝負や
俺は沙奈はんと2人で原付に乗って家まで戻って、家の奥に仕舞ってある祖父の着物を着た。
そしてマナの木の前で待っとった沙奈はんのところまで行く。
「樹先輩着物似合ってる〜!」
女性にファッションを褒められたことがないから、どう反応したらええか分からず、俺はとっさに「日本男児やし……」と言うた。
「これならきっとはるきくん騙せそう。じゃあ行こっか」
沙奈はんは心を込め、魔法を発動する。
「天よ、我が思い描きし彼の地へ、我ら2人を送りたまえ。空間瞬転移!」
俺達は光に包まれた。
気がつくと沙奈はんの家の近くの公園に居った。
そして、沙奈はんに付いていって、沙奈はんの下宿の前まで来た。
沙奈はんは鍵を開け、帰宅の挨拶をする。
「はるきくんただいまー」
「おせーぞ沙奈!今何時だと思ってんだ」
「ごめんごめん!道端でおじいちゃんと偶然会っちゃって……」
「おじいちゃん?」
ワンルームの奥で寝転んでいる黒髪マッシュの男がこちらを覗き込んだ。
「人間からしたら若く見えるかもしれへんけど、ワシが沙奈のおじいちゃんや」(一人称をワシにしてそれっぽく振る舞う)
「へえ〜エルフ族って本当に歳とっても若いんだな。
あ、自己紹介したほうがいいですよね。
俺、梅島覇瑠騎。19歳です。」
「覇瑠騎はん、今日は話があってお邪魔させてもろた」
「な、なんスか」
「沙奈と別れてほしい」
「いきなりじいちゃん連れてきたと思ったらそんな話かよ。
俺が沙奈と別れるわけねーだろ。こいつは俺がいないとやっていけないんだ。
留年するような馬鹿1人にしておけねーよ」
「彼女に馬鹿言う男はますます彼氏として認められへんな。それに沙奈のこの痣、自分がやったんやろ」
「口で言っても分からない奴に体で教えただけだ!」
「ほんなら、俺もアンタに体で『別れてくれ』言うことにするわ。
話しても分からへんようやしな。タイマン勝負や」
「受けて立つぜ!見た目は若くても所詮はジジイだろ!」
「ほな、近くの公園に移動や。賃貸の家壊したらアカンから外でやろうや」
移動中に、まず作戦を考えた。あの公園にはマナの木がある。
せやから魔法を使えるはず。
この前練習したあの魔法を使うて、梅島覇瑠騎に勝つ!
マナの木のある公園に着いた。夜の公園は誰も居てなくて、タイマン勝負がしやすそうやった。沙奈はんが審判をやり、俺と覇瑠騎は向かい合う。
「えーっとこういう時なんて言えばいいんだろう?とりあえず、よーい、ドン!」
沙奈はんの雑な合図で戦いが始まった。
最初に攻撃したのは覇瑠騎のほうやった。覇瑠騎は俺の顔にパンチをしようとしてきた。
俺はそれをひらりと避ける。
避けて、避けて……魔法を打つタイミングを見計らって……
あ、よう考えたら殴り合いに魔法の詠唱する暇ないやんか!
やらかした……タイマンなんて人生初めてやし、魔法も人前で使うたことないし、実践で使うイメージがでけへんかった。これは完全に俺の失態や。
でも、戦いには勝たなアカン。ほな、逃げながら詠唱するしかないな。
「自分から勝負を挑んできた癖に殴ってこないとか、勝つ気あんのか?」
「あるに決まっとるやろ。
見てろや覇瑠騎、エルフ族に伝わるとっておきの力を!
あまねく自然よ……我が呼b」そこまで言いかけたところでパンチが飛んできて、それを避けようとしたら詠唱が中断された。
「ブツブツ喋ってたって勝てないぜ!」
詠唱しようとしても、攻撃が飛んできたら集中が途切れてまう!
どないしたらええ……沙奈はん……そう思て、審判の沙奈はんを見る。
すると、沙奈はんは何かを悟ったように頷いて、聞き取れないような小声で何かを言い始めた。
沙奈はんが言葉を紡ぎ終わった後、急に世界の速度が遅なった。
俺は分かった。沙奈はんが俺に何かしらの魔法を使うてくれたんやと。
世界の速度が遅なったことで、俺は一旦覇瑠騎と距離を置き、詠唱の時間を確保することができた。
「あまねく自然よ……我が呼び声に応え、仇なす者を捉えたまえ!大樹緊縛拘!」
俺がそう唱えると、覇瑠騎の足元から木の根が伸び、覇瑠騎の足を捉えた。
動けなくなった覇瑠騎の目元に、沙奈はんが受けた傷と同じ場所に俺はパンチを打ち込んだ。
打ち込んだ一瞬だけ足から木の根を解放したことで、覇瑠騎は地面に倒れ込んだ。
俺は覇瑠騎の胸元を踏むと、沙奈はんはカウントダウンを始めた。
「3……2……1……0!おじいちゃんの勝ち!」
そう言うたのを聞いて、俺は覇瑠騎から離れた。
「俺の勝ちや。ほな、荷物纏めて帰りや」
「くっ……覚えてろよ!」
3人で家に戻り、覇瑠騎は荷物を纏めて夜行バスで関東に帰ることになった。
覇瑠騎は最後に「俺を振ったせいで沙奈の今後の人生後悔しても知らねぇからな!」と吐き捨てて、帰っていった。
「今日は本当にありがとうね」
「俺はただ、俺のやりたいことをやっただけです。沙奈はんが辛そうなのは放っておかれへんから」
「樹先輩の優しさが心に染みるよ。やっぱエルフ族のほうがみんな優しくて安心するなぁ
もう人間とはあまり関わらずに生きてたいくらい」
「それは現代では難しいんちゃうか……?人類におけるエルフ族の割合は3%くらいやし、日本国内における割合ものそのくらいやから、人間と関わらへん生活は難しいと思うで。
村社会だった時代ならまだしも現代やとなぁ」
「樹先輩は優しいけど女心は分からないんだね。
そんな理屈なんか分かってるに決まってるでしょ。
さっきのは共感を求めて言った言葉なの」
「うーん、家族以外のエルフ族と話したのは沙奈はんが初めてやから、エルフ族がみんな優しいかどうかは分からへんけど、少なくとも沙奈はんは優しいと思います」
「そんな……私なんて全然だよ
まあ樹先輩が他のエルフ族をそんなに知らないなら無理もないか。
…………!
そうだ、今度実家のマンションで沢山のエルフ族が集まるイベントがあるんだけど、それに参加してみたらエルフ族の優しさが樹先輩にも分かるかも?香ちゃんも来るよ」
「へえ〜香はんも来るんか。どないな内容のイベントなんですか?」
「えっとね、エルフの議員が来て、政治の勉強をするイベント」
エルフの議員と聞いて嫌な予感がした。俺が知っとるエルフの議員は俺と正反対の思想の人やから。
でも議員って大半は選挙区以外で無名やし、もしかしたら俺が知らへんだけでエルフの右翼政治家とかおるかもしれへん。
「何て名前の議員なん?」
「今回はねーなんと浦見令人議員!」
あーーーーーーー!!!やっぱりコイツしかおらんよな!エルフの議員言うたらコイツよな!!!
浦見令人は赤の党所属の最年長国会議員。
赤の党は暴力革命によって共産主義政権成立を目指すと主張している極左政党や。
最近は党名を変えたり(赤軍党→赤の党)、党首を若い女性にしたりしてイメージアップを狙っとるけど、中身が共産主義な以上、極左政党なことに変わりは無い。
「なんで赤の党の国会議員が沙奈はんの実家のマンションで政治勉強会を……?」
「そもそも実家のマンションは浦見議員が立てたものだからね。
エルフ族の連帯のために作られたエルフ族専用マンションなんだ。
だから時々赤の党の議員が顔を出してくれるの。すごいでしょ」
共産主義者の政治家が作ったエルフ族専用マンション……そして定期的に政治勉強会を行っとる……そないな場所に住んどるエルフ族がアカなんは、容易に想像できる。
沙奈はんも、香はんも、そないな場所で生まれ育ったなんて、知りたくなかった。右翼として悲しい。
でもこれはあくまで俺の勝手な推測で、全ての人が親の政治思想を受け継ぐわけやない。
沙奈はん、香はんの実際の思想を知りたいけど、本人に政治思想を聞く勇気がない。違た時に喧嘩になる可能性があるから。
とりあえず、俺は決断を先送りにすることにした。他の人の意見を聞いて、それで判断しよう思た。
「ほんますみません、政治勉強会への参加はちょっとしばらく考えさせてほしいです。
何日までに決めればええですか?」
「来週までに決めてくれれば大丈夫だよ」
「分かった。必ず連絡します。ほな、そろそろ解散しまひょか。空間瞬転移で俺の家まで送ってくれたら嬉しいです」
「それくらい全然やるよ〜」
怒涛の一日が終わった。




