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第1話 エルフの村の歴史

大阪と奈良の県境の某所にはかつてエルフの村があった。

今は人口減少で俺とオカン以外住んでないけど、かつては歴代の天皇が定期的に行幸に訪れるほどすごい場所やったらしい。


でもそんな歴史があろうと、現代では公共交通網から外れた過疎地として容赦なく扱われとる。

中学までは山を何kmも歩いて(ふもと)にある学校に通っとったおかげで、俺は文化部エルフの癖にやたらと脚の筋肉がついた。

高校生になって原付免許をとって、ようやく俺は現代人としての生活が送れるようになった(俺の誕生日が4月2日やったから、入学式の前に原付免許を取れた。普通二輪を取る金はなかった)


今日は原付で河内松原駅のロータリーに来た。

高校の友人が愛国心の強い人で、俺の出身地が皇族と関わりの深い村やったことを話すと、その村に是非とも行ってみたいと言われ、こうして休日に待ち合わせて行くことになった。

待ち合わせ場所が河内松原になったのは、高校の最寄り駅が河内松原で、友人が河内松原までの通学定期を持っとるからここになった。


待ち合わせ時間よりちょっと遅れて、友人は到着した。

「おはようさん!遅れてごめんなー!」

慎也(しんや)おそいで。ほな出発しよか」

「原付の後ろに乗ればええんやな?」

「うん。ほんまはアカンねんけどな。公共交通機関がないから原付二人乗りして行くしかないねん」

(いつき)の地元、どんなとこか楽しみや」


こうして、俺と慎也が乗る原付は奈良方面に向けて走り出した。


しばらく走って、地元の村に着いた。

「ホンマに廃村って感じやー!」

「俺の家以外みんなおらんなってん」

「ようこんなとこで暮らせるわ」

「キッツいでほんまに」


慎也は好奇心のままに村をウロウロするから、俺はそれについて行く。


「この村の廃屋の表札、みんな『二上(にじょう)』って書いとるな」

「村が閉鎖的すぎて苗字一つしかないねん」


そんな会話をしながら歩いていたら、天皇に関する石碑が立っとるところに到着した。



「ここで昔、天皇陛下が村祭りをご覧になられました〜みたいな事が書かれとる石碑や」

「天皇陛下がご覧になられた祭り、どんなんやったんやろ?」

「もう分からへんな。俺が産まれる前にオカン以外は全員死んでもうたし」

「オカンは祭り知らへんの?」

「どうやろ。今家おるし聞くか?」

「日本の全てを愛する愛国者として、聞いておかな損や」

「ほな俺ん家行く?と言いたいところやけど……典型的なエルフの家やけど大丈夫かいな」

「オレはそういうの気にせえへんよ」

「ほんなら行こか」


俺は友人を家へ招き入れるのは初めてやった。

エルフの家とは、大抵は古びていてホコリ臭いものや。せやからほとんどの人間はあまり入りたがらへんらしい。

慎也は人間やのに気にせえへん言うてくれて、俺は表情とかには出さんかったけど、心の底ではほんまに嬉しかった。


まず俺だけ家に入って、座敷で寛いでいるオカンに友人を家にあげてもええか、友人に昔話をしてくれるかどうかを聞いた。

それを聞くとオカンはとても喜んでくれ、是非とも上がってほしいと答えたから、玄関前にいる慎也を呼んだ。


「おじゃましまーす」

(ミシミシ)

「うわ!歩くとやばい音するねんけど。これ築何年なん?」

「わりと新しめの家やってオカン言うとった気がするわ。築年数は分からんけど確か江戸時代末期の家やったはず」

「どこが新しめの家やねん!」


そんなことを話しながら、俺は座敷に通じるふすまを開けた。

ちゃぶ台の前には、日本髪で着物を着た、耳の尖っている20代くらいにしか見えへん女性……俺のオカンが居てる。

オカンがこちらを見て言うた。


「あなたが樹のお友達?ようおこしやす」

「オレ駒川慎也(こまがわしんや)言います。よろしゅうお頼もうします」

「樹がお友達連れてくるの初めてやからほんまに嬉しいわぁ。仲良うしたってな」


俺達は座布団に座った。


「村祭りの目的はなぁ、天皇陛下や、他の神々に感謝を伝えるために行ってん。戦前はようけ盛り上がったと聞いとるわ。

せやけど大東亜戦争によって男は徴兵され、女は軍需工場で働くため街を出ていき、そこで空襲被害を受けたことによって、祭りの歴史を知る者は消えてもうた。わてもよう知らんねん」

「そんな歴史があったんや……悲しい歴史聞いてすんまへん」

「えーよ。こんなん聞きに来る人もようおらんし。村長の娘として語り継いでいかんとあかんね」

「っちゅうことは樹って村長の孫なん?」

「せや。俺ん家だけこの不便な村から出ていかへんのは、オカンに村長一族としてのプライドがあるからやねん。

まあ俺は高校卒業したら家出るつもりやけど」

「まーたそないな事言うて!樹が出ていくなんて"時が来るまで"認めまへん」

「俺はエルフ言うても大阪の人間に揉まれて育ったからいらちやねん。何百年も待ってられへんわ」

「時って何時(いつ)なん?」

慎也の質問に、オカンが答えた。

「皇室が我が一族の"宝"を求めた時、それが"時"や」

「宝って何なん?」

「それは家長以外に教えてはならんことになっとる」

「これに関しては息子である俺も知らんねん。こう言うたら悪いけど、エルフが陰湿って言われる理由が分かる気ぃするわ」

「人間の価値観で陰湿やなんて言われとうありまへん!

全く、なんで我が子は人間の価値観に染まってもうたんや……」

「面倒な一族やなぁ。

とりあえず、オレトイレ行ったら帰るわ。トイレどこにあるん?」

(かわや)なら外や」

「今どきトイレのこと厠なんて呼ぶ人初めて見たわ」

「流石に俺かて他所のトイレはトイレ呼びや。でもこの家のトイレは厠と呼ぶべきやと思うねん。見れば分かる」


俺は慎也を庭にある厠まで連れていった。

厠は木で作られ、外からほとんど中が見えるような構造になっとって、出したものはそのまま川に流れる……大阪やとこの村以外ではまず見いひん古臭い作りの厠が我が家の便所になっとる。


野郎の排泄なぞ見たくないから俺は山の方を眺めて慎也と会話をした。


「なんで改築せえへんの?」

「母子家庭にそんな金あるわけないやろ」

「ごめん……」




帰りはまた原付二人乗りで、河内松原駅まで送る。

帰りしなに慎也といろいろ話をした。

「樹のオカンめっちゃ顔若かったなー!ホンマにエルフって歳とらないんやな」

「そんなええもんでもないで?いくら顔が若くても中身が歳いきすぎてると周りの人と文化のジェネレーションギャップがキツいねん。俺がスマホの購入許されたの高校入った時やからな?しかも自腹で。小学生からスマホを持っとる時代に有り得んやろ」

「ひょえ〜たしかにあのオカンの考え古臭そうやもんなー。なんか樹と違って典型的なエルフって感じがするわ」

「オカンは天皇陛下を敬う姿勢以外はわりと典型的なエルフやな。選挙はいつも与党に入れる。これに関しては村の歴史の影響が大きいけど」

「たしかに。亜人種は平等政策に力を入れる左派の野党に入れとる人が多いイメージあるけど、生い立ちによってそこは変わってくるんやろな」

「俺はオカンの言う伝統みたいなやつは好かんけど、愛国心だけは大事にしたいと思うとる。愛国心は国の基礎を作り上げるものや」

「その通りや!愛国心と天皇陛下への忠誠心、これが今の日本人に足りんねん!

昭和天皇の人間宣言以降、国民の間では天皇は人間であるという見方が主流になってしもた。

オレは人間宣言について、GHQが日本の力を奪うために言わされた嘘やと考えとる。

神武天皇から代々引き継がれる神のy染色体を持つ存在、それが皇族なんや!」

「皇族という種族を認めへん左派野党が種族平等やら言うても説得力ないんよな」

「ほんまにその通りや!やっぱ樹とは気ぃ合うわ〜」

「俺もや。この高校に入ってから、政治や社会について語り合える仲間と出会えてほんまに嬉しい。

中学にはそんな人おらんかったからな。

まあとりあえず、今後もよろしゅうな」

「うん!よろしゅう!」

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