好きにやればいい
クリスマスが終わったらすぐにやってくるのは年末の日。
桐羅も冬休みで誰にも会う予定はなかったのだが、大晦日の今日、ユキから初詣に行かないかという誘いを受けた。
「うん、似合ってる」
「振袖なんて初めて着たよ俺……」
「そりゃそうだろうねぇ」
千智ちゃんと香織さんに着つけてもらう。
振袖というのはなんというか心もとないな。仕方ないと言えば仕方ないのだろうけれど。
待ち合わせの神社の鳥居の前で待っていると、高級車が目の前に停まりユキが下りてきたのだった。黒塗りの高級車は周りの視線をかき集め、ユキのかっこよさも合わさり、周りの目を引いていた。
ユキの一挙手一投足に周りが注目していた。ユキは周りの視線を気にせず、俺のほうに一直線に向かってくる。
「待ったか?」
「いや……」
改めてユキの顔を見る。
すごいかっこいい。
「音子も……似合ってる」
「……ありがとう」
ちょっと照れくさい。
ユキは俺の手をつかんでくる。
「さ、行こうぜ」
「そう、だね」
ユキに手を引かれ、初詣の列に並んだのだった。
すごい人の数。ユキ自身こんな人ごみに来たくないとは思うのだが、俺のために無理して来てたりしない? イベントを楽しんでもらうためにとか……考えすぎだろうか。
だが実際、ユキの顔は少し険しくなっていた。
「ユキ、大丈夫?」
「あ、ああ。心配かけて悪いな」
「無理なら無理でいいんだよ? 人ごみ苦手なんでしょ?」
「……いや、頑張る」
「……無理するユキを見たくないんだけど」
俺がそういうと、ユキはため息をついた。
「わかった。悪かった。こういうイベントごと、音子は好きだろうと思って誘ったんだけど……かっこ悪いな俺」
「私にはかっこいいとこ見せようとしなくていいんだよ? ありのまま受け入れるし」
「いや、それだと俺が気に食わん。好きになった人にはかっこいいとこ見せたいしな。わかるだろ?」
「まぁ……」
わからなくもない。
男心で言えば俺だって好きになった女の子にはかっこいいとこだけ見せて居たいタイプだったし。
「でもこのまま帰るのもなんか嫌だよね。屋台出てるしたこ焼きでも買ってこうよ」
「そうだな」
境内に出店しているタコ焼き屋からたこ焼きを買い、ふーふーして一口食べる。熱々のたこ焼きで、思わずあつっと叫んでしまった。
境内には除夜の鐘の音が鳴り響く。
「ん、そろそろ新年だな」
「もうそんな時間?」
俺はスマホを取り出し時間を確認すると、時刻は23:58と表示されていた。
あと2分で新年か。
「……ねぇ、ユキ」
「なんだ?」
「私に一緒の大学に来てほしい?」
「……できれば、な」
ユキは少し悩んで、そうひねり出していた。
「受験か。まぁ、同じ大学に通えたらいいなとは思う。けど、それは俺の欲望だ。行きたい大学があれば、音子の行きたい大学に行けばいい。同じ大学じゃないと付き合えないとかそんなことはない」
「あはっ、だよねぇ。まぁ、私にはいきたい大学は今のところないんだけどさ」
「ないのか?」
「二回目だし。でも……私が通っているのは桐羅でしょ? 桐羅のブランド的に、私が通っていた大学行くのもいい顔されないしさ。悩んでて」
「行く大学にか」
「うん。ユキが一緒に大学がいいっていうならそこ目指そうかなって頑張ろうと思ったんだけど」
俺にはいきたい大学もない。
将来設計はあった。が、事故ですべて潰えた。
「そうか……。だが、自分の進路だ。俺は誰かに合わせて進路を合わせるのは嫌いだ」
「それ、千智ちゃんにも言われた」
「あいつは俺のことを良く分かってるからな」
「だから、参考程度にしようと思っただけだよ。ユキに合わせるのは最後の手段」
「そうか……」
「……」
俺は音楽で食って行こうと思っていたこともあった。
だからネオエスケープでも頑張っていた。直虎たちもメジャーデビューできるように頑張っていた。だからこそ、俺は大学生活も頑張れていた。
だけれど、突きつけられた現実。
万家の人が音楽で食っていくなんて周りが認めてくれるのだろうかとか、そういう不安が頭をよぎる。
「……音楽やればいいだろ」
「やりたいのは山々なんだけどねぇ」
「今時男と女混合のバンドなんて珍しくもなんともない」
「それは知ってる。でも、今の私は万家だよ? 周りが認めると思う? ましてやユキと付き合ってるんだしさ。ユキの婚約者がそんなことをしてるなんて周りから言われると思うとちょっと嫌でさ」
俺のせいでユキがとやかく言われるのは嫌だ。
だからこそ、本格的に踏み出せずにいる。
「……関係ねえよ。何か言ってくるやつは俺が黙らせる。だからやれよ。好きなこと」
「……いいの?」
「構わん。もとより、こうなったのは万家のせいだからな」
「それはそうなんだけど」
「万家の人も反対してねえだろ。自分のせいだってのはわかってるからあまりいい顔はしなくても強く引き止められねえ。巻き込んだのはこっちだからな」
「……そうだね」
「だから家の事なんてお前にはどうでもいいんだ。俺のことは俺がなんとかする。音子は犯罪を犯さない程度に好きなように生きるといい」
「……わかった」
ユキがそういうのならそうしようかな。
俺は高校を卒業したら、前にいた大学に入りまたネオエスケープに入ることにしようか。あまり周りからいい顔はされないが……。
「っし、ちょっと悩み聞いてもらって助かった」
俺は立ち上がりスマホを起動する。
「明けましておめでとう、ユキ」
新年が幕を開けたのだった。




