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未練

 夜遅くに千鶴ちゃんからメッセージが届いた。

 今週の土曜に追悼ライブが始まります……。私が万家にお迎えに上がりますということだった。土曜日……明日だな。

 俺が目覚めたのが木曜という何とも微妙な時期で、その翌日にはすでに編入してるという超ハードなスケジュール。多分俺が目覚める前にもろもろ手続きは進んでいたんだと思う。

 なら明日は朝早いし寝るか。時間も午前8時からライブハウスを貸し切ってやるとか言ってるらしいし。


 翌日。


「おはようございます! 音子様!」

「おはようございます……」

「眠そうですわね?」

「ちょっと寝不足で……」

「わかりますわー! 楽しみにしてるとワクワクして眠れませんわよね!」


 俺の場合は自分の元居たバンドにこの姿で行く不安から生まれたものなんだけどな。

 俺はそのことは言えないので黙っておく。


「そして千智様も行ってくれるんですのね! 布教しておいて正解でしたわ……!」

「ちょっと興味があって」


 多分俺が元居たからという理由だろうな……。千智ちゃん、バンドに興味なさそうだったし。

 

「仲間は多いほうがいいですわ! では参りましょう!」

「おー」

「……おー」


 俵家の車に乗り込みライブハウスへと向かう。

 ライブハウスに入るが人はまばらしかいなかった。俺としてはまぁこんなもんだろうと。ライブハウスを満杯にするほど人気があったというわけではなかったからな……。

 一部のマニアには相当受けてたけど。


 俺が壁にもたれかかりながらステージを見上げる。

 俺が死んでいなかったらあそこに立ってるんだよな……。なんて思っていると、メンバーの口上が始まったのだった。

 直虎がマイクを手に取る。


「今回は来てくれてありがとう。宣伝した通り、俺らのバンドメンバーのボーカルだった榎本 音助が事故により亡くなった……。今日はその弔いのために開いたライブだ」

「死んでねえけどな俺……」

「音助のために来てくれたこと、本当にありがとう。きっと音助は後悔を垂れ流してまだ現世に悪霊のようにとどまってると俺は思ってる」

「音助さん……。歌がとてもお上手でしたのに……。事故がなければ……」


 千鶴ちゃんがそうこぼし、千智ちゃんが目を背ける。


「だから今日歌がなくてもあいつが歌っていると思ってくれ」


 いやいや、俺ここにいるんですけど。

 そうして演奏が始まった。俺以外は中学のころからずっと軽音部に所属しているような奴らだったからギターとかの腕前はあると思っている。

 俺はどっちかっつーと直虎からのスカウトだったから。俺らとバンドをしないかといわれて、音楽に目覚めてしまって入ったという経緯。

 ベースの直虎、ドラムの柴咲しばさき 文也ふみや、キーボードの安楽田あらた じんとボーカル兼ギターの俺。有名とまではいかなかったが楽しく活動できていたと思う。


 俺もこの演奏に参加したい。

 俺だってまだ舞台に立ちたいよ。


 そう思ってると俺はいつのまにか歌を口ずさんでいた。

 演奏がやみ、俺の歌に周囲がくぎ付けになっている。俺はそれに気づいて歌うのをやめた。


「音助……?」

「今の歌い方音助さんっぽいですわね! 音子様!」

「えっ、あっ……そうなんだー。ずっとファンで歌い方マネしてた」

「そうなんですのね!」


 俺は苦笑いを浮かべながらごまかしていると、直虎がステージから降りてくる。

 降りてきてこちらに近づいてきた。そして。


「音助」

「な、何のことでしょう? 私は音子という者で……」

「誤魔化すなよ。なんで女の子になってるのかとか、いろいろわからんことはあるがお前は、その歌は音助だ」


 と、俺の肩をつかんで直虎はまっすぐ俺の目を見ていた。

 俺は千智ちゃんのほうを見る。千智ちゃんはもう誤魔化しきれないと思ったらしく、割って入ってきたのだった。


「あとで説明いたします。今は演奏を……」

「説明しろよ、音助」

「音子です」


 こんな形でばれるとは思わなんだ。

 というか歌の一つで音助と判断するの早すぎるだろ。それほどまでに印象深かったのか? でもまぁ……この姿でも気づいてもらえたっていう事実はちょっと嬉しいけどよ。


「ごめん……」

「構わないよ。未練があったんでしょ? それは簡単に断ち切ることはできないって」

「……」









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