☆音子は深く眠り
音子が意識を失った。
救急車ですぐ病院に運ばれ、駆けつけた警察に神和住は確保。直虎たちは急いで運ばれた病院へと足を運ぶ。
なんとか一命をとりとめた。
心電図が安定し、音子は体を起こした……が。
「音子! 目が覚めたか!」
「音子……よかったぁ」
「え、私百花のほうだけど……」
百花ちゃんの人格として目が覚めていた。
千智と幸村はぽかんと百花の顔を見る。
「ね、音子、は……?」
「なんも言ってこない」
百花は不本意だった。
自分の体ではあるけれど、心臓、脳と大事な部分は音助のものであり、体の主導権を握るのは大事な部分を担っている音助だと自分でも理解していた。
だからこそ、音子のなかでじっとおとなしく傍観していようと思っていた。もとより自分だって先が長くないというのをわかって一度死んだ身であるゆえに、自分が体を動かす主導権を握ろうなんて思ってもいない。
「…………」
あからさまに二人はがっかりしていた。
それはそうだろう。百花より音子と絡んでいた時間のほうがはるかに大きい。実の姉妹と言えど千智のほうは百花の存在を最近まで知らなかったから。
「まぁ、死んだってことはないでしょ。現に私がいるわけだし? となると、まだ目が覚めてない可能性が高いね」
「そんなに差が生まれるものなのか?」
「わかんね。でも、実際ダメージを受けたのは音助さんが表に出てた時だし、その差じゃない? よくわからんけど」
「関係ないと思う。だって二人は同じ体でしょ? さすがにそこまで起きる時間に変化があるとは思えないんだよね。あるとしたら……気持ちの問題?」
「気持ちの……」
「そうか。わかった」
幸村は何かわかったと言っていた。
「多分、音子は死んだと思ってしまったからだ。人間、思い込むというのは案外侮れないからな」
「あー、水滴の音だけで死刑囚が死んだっていう実例もあるもんね……」
「なにそれ?」
「昔の実験だ。ある国事犯に目隠しをして医者が人間は三分の一、血液を失ったら死ぬというんだ。そして、ぽたぽたと水滴を垂らし、そろそろ三分の一になりますねと告げた時、息を引き取った実例がある」
「ノーシーボ効果ってやつだよ。実際には彼の血液は流れて居なかったんだ。思い込み……暗示で死んじゃったんだよ」
「思い込み……」
二人が別々の意思を持っているからこそ起きてしまったのかもしれない。
もしそうならば……。
「もしそうなら、音子はもう戻らないってことになるんじゃ?」
「……あぁ」
「そうなる、ね……」
二人の顔は暗くなった。
つまり音子は死んだという思い込みで死んでしまった。だからこそ音子の人格が失われたのだと理解してしまった。
百花はいても音助はいない。その事実が二人に地獄を突きつける。
「まぁでもそこまで深刻にならなくてもいいんじゃない?」
「……どうして言い切れる?」
「意識がなくても生き返る実例、私じゃん」
「「あ」」
生き返った実例がある。
もしその実例をもう一度再現できるならば。
「まだ音子は戻ってくる可能性がある……?」
「多分ね。記憶までは知らないけど……」
「試してみる価値はあるね。どうやって百花が来たんだっけ……」