学校祭が近いぞ!
季節は10月。
10月には桐羅の文化祭というものが実行されるらしい。いや、俺らの高校もあったが、ここはかけられる予算が俺らが通う普通の高校とは訳が違い、なんつーかものすごく気品あふれるようなメニューだったりなどが提供されるようだった。
俺らのクラスは普通に喫茶店をやることになった。
「初っ端は双子メイドで客をつかむ!」
「えぇ……」
九条がやる気になっていた。
双子メイド。まぁ言わずともわかる。千智ちゃんと俺だろう。
「そもそもこの学校祭は学校関係者しか入れませんから、そういった客引きはいらないのでは?」
「っていうかお前が見たいだけだろ」
と辛らつな意見が飛ぶ。
誰もかれも双子メイドといって思い浮かべてるのは俺らなんだろうな。だってこのクラスに俺たち以外双子いないしな。
俺は傍観していると、千智ちゃんが話しかけてくる。
「ねぇ、もしかしなくても双子って私たちのことだよね?」
「だろうなー。このまま押し切られたらメイド服着るんじゃない?」
「それはさすがに恥ずかしいんだけど……。っていうか冷静だね……スカートとか嫌がってるくせに」
「最近、違うことで頭悩ませまくってるからそれぐらいなら別に……」
「……頭を悩ませてることが大きすぎてマシに見えてるんだ」
もうそれで済むならそれで済んでほしい。
もう疲れたから俺は反抗する心なんて湧いてこなかった。
「いやいやいや、そうはいってもだな!? 外部生の親族とか友人とか来るわけじゃん!? そこで客ひかないと!」
「思い出という側面のほうが強いから別にやってもやらなくてもいいだろう」
「んもおおおおおお! みんなわかってない! 男のロマン、学校祭のロマンっつーもんがわかってない! 俺らは金持ちだから赤字出してもいいじゃないんだよ! 何事も本気でやらなきゃ大事な時に本気出せないだろうが! こんなことも一番目指せなかったらそれこそ俺たちは落ちこぼれちまうじゃんか!」
九条の嘆きが教室中に響き渡った。
「まぁ、それは一理あるな。これなら本気出してもいい、これなら本気出さないでもいいと選別しているといつしか本気を出さなければならない時に間違うときもある。やるからには常に全力。俺はいいと思うぞ」
とユキが賛成していた。
それにより、場の雰囲気もじゃあ本気でやるか?という話になっていた。
「じゃあ! まずは顔がいい双子の万がメイン看板として接客だ!」
「えぇ!? 私たちの確認はなし!?」
「おいおい、ここで反対しちゃったらせっかく賛成している場の雰囲気が台無しになっちゃうぜ? いいのかなぁ」
「やり口が姑息だろ」
「音子ちゃんはケラケラ笑っているけどいいのか!?」
「私は別に。ユキが見たいなら着てやるさ」
「お、おぉ、婚約者の強気の発言だ……」
少々恥ずかしいけれど、ユキが見たいならいい。
ユキもちょっと見たいのか反対してないからな。
「……一人だけだねぇ反対しているのは」
「わかったよ……。銀太郎って普段はあれなのにこういうずる賢さだけはいっちょ前だよね」
「お、褒めるなよ」
「褒めてないっての馬鹿。ならやる内容はメイド喫茶ってことでいいのか?」
「メイドあーんど執事喫茶! 男性だけ客引きしてどうするんだ!? 男子もやるんだよ!」
「あ、そう……」
ということでやる品目が決まった。
あとはメニューなのだが、その前にメイド服はすでに用意してあるので着てきてほしいと九条に頼まれた。
おい、なんであるんだよ。今さっき決まったばかりだろと思ったが心の中に秘めておく。
俺はメイド服に着替えたのだが……。
「……どうよ?」
「……」
「……」
クラスメイトに魅せると微妙な反応だった。
「俺てっきりミニスカートのメイドだと思ったんだけど」
「甘えるな! それは低俗な連中がやるものだ! コンセプトは客が貴族のカフェ! 俺たちは主に仕える使用人! 使用人のメイドがミニスカートという破廉恥な格好でどうする!?」
「現代のメイド喫茶との認識で齟齬が生まれてるな」
渡されたメイド服はロングスカートのいかにも中世の貴族に仕えているメイド服だった。
少し歩きづらいが、これはこれでアリ。千智ちゃんもてっきりミニスカートだと思っていたらしく、ロング丈で安心していたのだった。
「以上! これでいいか!?」
「ねぇ、メイド服のカラーって自由に選べたりするんです?」
「統一! といいたいが、色は3色用意できるぞ! ただ、あまり派手なのにはできないけどな。黒、茶色、紺色の三色だ」
「じゃあ、あとで女性陣の希望の色をまとめて提出いたしますね」
「おお、助かる!」
「じゃ、じゃあ私は紺色がいいな……」
「双子は黒統一! 異論はなし!」
「私たちだけ拒否権というものを無視しすぎじゃない?」
千智ちゃんがちょっとキレたように言っていた。




