下駄箱虫入れ犯人
次の日の昼。
昨日仕掛けたカメラを赤家さんたちは回収し中を検めてみるようだ。きちんと顔が映るようにしたが、ばれていたらアウト。ちなみに今日も下駄箱の中にゴキブリが入れられていた。ビビった。
「さて、犯人のお顔は映ってるかしらぁーん?」
千智ちゃん、ユキにサロンに入れてもらい、サロン内にあるパソコンで中を検閲。
下駄箱が映り、時間を進めていくと俺が昨日帰っている映像が映る。下駄箱に中靴を入れたあと、外靴を取り出している姿。
それから誰にもあけられてはいない。
時間を進め今日の朝に動きがあった。
ひとりでに下駄箱の扉が開いたかと思うと。猫の顔がにゅっと出てきた。
「なんだこの猫!?」
「この猫は……! 理事長がこの学校で飼育しているペルシャ猫!」
「そんな猫がなんで!?」
猫はなにか口にくわえている。
今朝見たゴキブリの死骸だった。それを俺の下駄箱の中に入れてにゃーんと言ったあと器用に閉めて去っていった。
「犯人は……猫!?」
「らしいわね……」
「たしかに私の下駄箱は低い位置にあるけど……」
それでも猫には届かない位置だぞ!?
だが猫が入れていたのは事実。人間ならばともかく……。
「猫がやったことは……責められないわね……。猫様だもの……」
「よく考えてみればこんなおぼっちゃまお嬢様通う学校で誰が虫とか持てるんだっての~。私も嫌だしー」
まぁ、たしかに取り巻きちゃんの言う通りだ。
俺たちが落胆していると、可愛い美人の人が話しかけてきた。
「なにそれ?」
「ああ、私が嫌がらせを受けてまして……。その犯人は誰かっていう……」
「証拠映像?」
「なんですけど……」
俺は映像を巻き戻し再生し、問題の箇所を見せる。
美人の先輩はあーと苦笑いを浮かべていた。
「理事長の猫ちゃんね、人が好きなのよ」
「人が好き?」
「そう。ライク……ならまだしもラブなほうで。恋しちゃった人間にばれないようにこっそりプレゼントを渡すというのが理事長の猫ちゃんなの」
「そ、そうだったんですね……詳しいですね……」
「ええ。理事長の娘だもの。詳しいわよ私」
……今とんでもないこと言わなかった?
「え、理事長の……」
「そ。娘の右京 志保だよ編入生ちゃん。よろちくびー」
マジですか……。
「あ、あの、この猫ちゃん何とかできません? 毎朝虫の死骸があってびっくりするんですけど……」
「残念だけど私は父さんの猫に嫌われちゃってるからねぇ~。私の言うことまるで聞かねえのあいつ。まぁ、あいつの恋はすぐに移り変わるしそれまで我慢してもろて……」
「それまで我慢しろっつーことですか……」
「ごめんねえ。お詫びはあとでしてあげるからさ。うちの猫がやったことだし」
右京さんはあははと笑っていた。
俺は仕方ないのでカメラのSDカードを取り出しパソコンの電源を落とす。そして紅茶タイムを楽しんでいるユキに声をかけた。
ユキは俺のほうを向くと、右京さんに挨拶をしていた。
「どうも。右京さんって相変わらず神出鬼没ですね」
「でっしょー? 影が薄いからねぇ」
「……正直聞きますが、幽霊じゃないですよね?」
千智ちゃんがそう尋ねた。
「違うよー。この学校の亡霊だとか言ったら怖いんだろうけど私はきちんと生きてるよー」
「の割にはあまり存在感を感じないんですが……」
「……だよねぇ」
そうか?
「私は普通に存在感あるほうだと思いますけど……。美人ですし」
「音子ちゃん……!」
右京さんは感極まったのか俺に抱き着いてきたのだった。
美人の先輩に抱擁されるシチュエーションっていいよな。俺が今女の子であることを除けばいいシチュだと思う。
右京さんはありがとうと囁く。
もしかして右京さんって……。存在感がないことが悩みなのか?
「私、音子ちゃん気に入っちゃった! 音子ちゃんなら家柄も問題ないし、そういうのに属してないけど特別にこのサロンをいつでも訪問していいことにしよう!」
「えっ?」
「桜の会に属してないけど属してる千智ちゃんの双子の妹だし家柄的にも問題なし! 納得してくれるしいつでもカモン!」
と許可を受けた。
何なんだ……と思いながら赤家さんたちと別れてユキの車で帰る。
「で、犯人分かったのか?」
「理事長の猫が俺に恋してるみたいでそのプレゼントで……」
「責められないねぇそりゃ」
「下駄箱の犯人は猫かよ……」