ユキと伊佐波とゲーセンと ②
ユキは息を切らし、自販機でお茶を買っていた。
俺もオレンジジュースを購入し、飲んでいると伊佐波さんの姿が見えない。
「伊佐波どこいった?」
「迷子か? 探すぞ」
というので仕方なく探すことにした。
伊佐波はどこに行ったのか。見た目だけはまぁ、綺麗だからわりかし目立ちそうなものではあるんだが……。と思っていると、なにやら騒動が聞こえてきた。
「あら、私がやりたいと言っているんです。聞こえなかったんですの?」
「順番は守れよ! 目の前に俺が並んでたじゃねえか!」
「順番ねぇ……。そんなのある必要はございません」
と、音ゲーの前で何やらもめ事を起こしていた。
い、行きたくねぇーーー……。だがしかし、止めないともれなくもめごとに発展しそうな勢いだ。会話を聞くに、音ゲーに興味を示した伊佐波が順番を守らず列に割り込んだのが原因だろう。
金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんは金を摘んで何事も早くやるため、待つという概念をもしかしたら知らないのかもしれない。
いや、だとしても順番待ちは人間としての当然のマナーだろ……!
「こんの……! ルールは守れやボケ!」
「今の侮辱でしょうか。出るとこ出ても……」
「申し訳ございませんうちの連れが今すぐ連れて行きますので!」
俺は強引に伊佐波を引っ張っていく。
「なんですの? 私がやりたいといってるんですからすぐにやらせるべきではなくて?」
「そういう問題じゃないの! ほかにもやりたい人がいて並んでるんだからやりたいなら順番を守れってことなんだよ!」
「めんどくさい……。あの程度の輩に金を払うのは癪ですが金を摘んで……」
「やりたいなら筐体ごと買えよーーーっ! 金持ちだろあんた! 家に置けや!」
家に置いたら順番待ちという概念もないっての!
筐体は余裕で買える財力があるんなら家に置いて存分に遊んどれクソガキが……! ゲーセンはこういうもめ事を起こすためにくるもんじゃねえんだよ……!
「とりあえずユキと合流……! そしてすぐに」
と、ユキに連絡をしようとすると、プリクラの前に女子高生がたかっていた。
なんかきつそうな顔の女の子たち。スマホを片手にツーショ撮ろとかで囲っている。ユキもだいぶイラつきがたまってきているのか、ものすごく顔が険しい。
次から次へとなんなんだ!
「ユキ、お待たせ」
「お、おう」
「ちっ、彼女持ちかよ」
というと、女子高生は離れていった。
「ったく、なんなんだあの無礼な奴らは……」
「マナーや礼儀が成ってない者ばかりです。潰しましょう」
「そのほうがいいかもな」
「ちょっと待たんかい」
なに潰すとか物騒なこと言ってんだよ。
「ゲーセンに連れてきたのが間違いだった……。もう二度と俺の行きたいところは言わないようにしておこう……」
後悔先に立たず。
ユキはまだしも、伊佐波のほうに関しては避けられたトラブルだった。ほんっと嫌な奴。こういうもめ事を起こして自分が悪くないと被害者面するのがむかつく。
「最悪でしたわ……。幸村様。このげんなりとした気持ちを切り替えるためにカフェにでも行かなくて?」
「あ、あぁ……」
「……私は?」
「ご一緒するならばどうぞご勝手に」
なんだその言い方。
ユキも疲れてるのはわかるけど断ってよ。そんな嫌な奴。ユキだって嫌なんだろ? だったら断れよ……。
……ま、もうどうでもいい。どうにでもなれ。
「私は遠慮しておきます。ぜひお二人でお楽しみください」
「こ、来ないのか?」
「うん。ユキは行くんでしょ? 楽しんできてね」
来ないことに驚いているユキ。
付き合いも大事だってのはわかる。けど、ユキだって嫌な相手。嫌な相手に嫌だと言えないのはものすごくかっこ悪い。
……この考えはガキの考えかもしれないけれど、ユキはそういう男でいてほしい。という、俺の完全なエゴの押し付け。勝手に期待して、勝手に失望している馬鹿。
「……なんなんだろうなぁ、この失望感」
自分でもこの判断をしたのが不思議なくらいだった。