ユキと伊佐波とゲーセンと ①
土曜日。
俺はテストの結果を嘆きながらも、私服に着替えてユキと出かけていた。
「このギターかっけぇ……」
「買うか?」
「……いや、それは流石に悪いよ。でもちょっと試し弾きさせてもらおうかな」
ユキと最近ちょっとだけぎくしゃくしてた(俺の一方的なもの)のであまり遊んでもいなかったからな。こういうのは少しでも欠かしたら疎遠になってくんだ……。ソースは中学時代の俺。
ギターを弾いてみる。お高いギターほどやはり弾きやすさも段違いだ。このデザインとかもすこぶるかっけえ。俺の中の悪魔が買ってもらえと囁くくらいには。
だが今俺の部屋にもギターはあるのだ。
俺の……とは厳密には言えない。俺はギターをもって車に轢かれ、そのギターは車とぶつかった衝撃で粉砕。今使っているのは道彦さんが買ってくれた俺のギターと同じもののやつ。あれもあれでちょっと奮発したが、やはり一番高いのは買えなかった。
「やっぱ高いやつはしっくりくるわー……。マジでほしいな……」
「買ってやるが……というか万家のお小遣いなら余裕で買えるだろう?」
「もらってるけどあれは将来のための貯蓄に……」
俺も道彦さんから事故の慰謝料と、万 音子としてのお小遣いをもらっている。手渡しではなく、毎月自分の口座に振り込まれる。めちゃくちゃお小遣いが多いので今の俺なら最高級のギターすら余裕で買えるお金がある。
が、将来何があるのかわからないのと、そんな大金を俺が簡単に使えるはずもなく口座の肥やしになっていた。
「音助さんはやっぱり慎重なんだな」
「将来の不安が常日頃からあるからね……」
「そんなに不安にならずとも何とかなると思うけどな」
そんな考えにはなれないんすよ。
結局ギターは買わずに楽器販売店を後にした。少し後ろ髪ひかれるが、今のギターがあるだろうと自分に言い聞かせる。
「ほかに行きたいところはあるか?」
「んー、ゲーセンかな」
「わかった。車を……」
「いや、俺の行きつけのゲーセンがこっから近いから歩きで行こうぜ」
「わかった」
俺らはゲームセンターに向けて歩いていると。
「あら? 幸村様ではありませんか!」
と、今一番聞きたくない声を聴いた。
俺は後ろを振り向かない。ユキも嫌な顔をしながら振り向いた。
「優里亜」
「はい。優里亜です。奇遇ですね。幸村様と街で出会うとは」
「ああ……」
伊佐波はユキの隣に立つ。
「あら、万様もいらっしゃったんですの」
「……どうも」
相変わらず嫌な視線……。
俺はため息をばれないように吐いた。
「どこへ行く予定だったんです? 優里亜もご一緒してよろしいでしょうか」
「……いいか?」
「いいけど……」
連れてきたくねぇ~……。
俺は嫌々ながらも了承し、ゲームセンターへと向かっていったのだった。ゲームセンターを見るや否や少し鼻で笑ったかと思うと。
「ここは幸村様に相応しくない場所では?」
「……デスヨネ」
「いや、俺も興味がある。こういうの一度行ってみたかった。入ろう」
「幸村様がよろしいのでしたら……」
ゲームセンターの中は騒がしかった。
音ゲーに並ぶ人たちやプリクラを撮りに来たのだろう女子高生、また美少女ゲームのクレーンゲームをプレイしているオタクたち。
幸村は嫌がる場所だな……とやはり思ってしまった。
「うるさいな」
「うるさいですね」
「こんなもんですから……。よし、満足です。出ましょう。ユキにはやっぱまだ……」
「お、これなんだ?」
ユキが興味を示したのはパンチゲーム。
グローブをはめて思い切り殴ってパンチ力を測る。そういう説明をすると、ユキは財布を取り出し100円玉を投入しプレイし始めた。
グローブをはめ、起き上がってきたサンドバッグを思い切りぶん殴る。画面には200kgと表示された。平均より高い。俺はよくて180ぐらいだったのに。
「いいのか悪いのかわからんな……とまだあるのか」
「3回までやれるんだよ」
「そうか」
ユキは嬉々としてもう一度ぶん殴っていた。
ストレス、溜まってるんやろなァ……。




