九条 銀太郎と城前 八城
音楽の力は偉大なり。
バンドやってて初めて報われた気がした。ありがとう男の榎田 音助よ。万 音子はお前のおかげで一人友達ができたぞ。
「編入生をさっそく誘うとは勇気ありますわね俵様」
「音楽の趣味が合いそうだと直感的にわかったんですの。ふふ、楽しみですわ」
「バンド……。どんなものなんですの?」
「まぁ、興味ありますの!?」
俵さんはバンドの布教活動に勤しんでるようだ。何より何より。
するとチャイムが鳴り響く。先生が教室に入ってきて授業が始まるようだった。授業中はみな真面目に受けて……ないやつもいるが、大体が真面目に授業を受けている。
最初の授業は数学らしく、俺は用意された教科書とかを開いた。
が……内容がすごい。
もうこれ大学レベルの問題ばかりだろ。高校レベルはすでに終えてるんすか。
黒板には俺も最近習ったばかりの数式が羅列されていく。
レベル高すぎんだろ……。俺、一応大学の理学部だぞ。結構いい大学の理学部に進学した俺ですらついていくのに必死……?
これが金持ち校のレベルだっつーのか……?
50分の授業が終わり、俺は机に突っ伏した。
「どうしたの?」
「レベルたけぇよ……。俺ですら習ったばかりの数式が出てきやがったぞ……」
「あはは。だよね。大学で出るようなものばかりだもんね」
「これがこの先続いてくの超不安すぎる……。帰ったら復習しておこう……」
レベルが高いと俺だけレベルが足りませんと取り残されることになってしまう。
俺は教科書を閉じ、ノートをしまおうとすると男の子がこちらにやってきた。
「おい編入生。うちのレベルについていけてるかよ」
「え、あ、えと……」
「俺は九条 銀太郎。九条家のもんだ」
「初めまして……」
「おう。はじめまして。で、ついてこれてるか?」
「なんとか……」
「ほぉ……」
感心したような目でこちらを見ていた。
なんですか。俺を試しているってこと? 似つかわしくないからって?
「編入生。後生の頼みがある」
「は、はい?」
「ノートを貸してくれ」
と、頭を下げられた。
ノートを貸す? 別にそれぐらいなら言ってくれればすぐに貸すけどそこまで必死になるような者なんだろうか。
「自分じゃついていけないからってノート取らねえで借りて全部写すんだこいつ」
「えぇ……」
「おいばらすなよ八城! 何も知らねえ編入生なら貸してくれると思ってんだからよ!」
「こいつ、そういうことだからみんなノート貸さなくなったんだ。無理に貸す必要はないぜ編入生。あ、俺は城前 八城な」
「は、はじめまして……」
というかこいつノートに関して貸してもらえなくなるほどの信頼の低さか……。
俺もまぁ、貸したくはないが……。似たようなタイプが高校時代の友人にいたということを思い出す。俺は嫌々ノートを貸し出していた記憶があった。
俺はため息をはいてノートを差し出す。
「貸してくれんのか!?」
「返してくださいね……」
「あんがと! 編入生は千智と違っていい奴だなッ! お礼はするぜ!」
「楽しみにしてます」
「なんだよ私と違ってって。甘やかすことが優しさというわけじゃないのに……」
後ろで千智ちゃんが文句を垂れていた。
「音子も甘すぎ。もっと厳しく行きなよ」
「俺もあの手のタイプは高校時代にいたからその名残で貸しちゃう」
「お人よし……」
あきれられてしまった。